「クラウチューク・プラン」とはどのようなものか

「クラウチューク・プラン」とはどのようなものか

ウクルインフォルム
「クラウチューク・プラン」とは、古くなり過ぎたミンスク諸合意、ロシアが戦争の仲介者ではなく当事者であるという事実、ウクライナにドンバス地方をナゴルノカラバフの状態にするつもりがないことから生まれた計画である。

ドンバス情勢解決協議を行う「三者コンタクト・グループ」(TCG)のウクライナ代表団のレオニード・クラウチューク代表(ウクライナ初代大統領)が発表した提案は、ウクライナ社会に賛否の議論を巻き起こした。「裏切りだ」という批判だけでは必ずしもなく、楽観的な評価も見られるのだが、今回それ以上に重要なことは、ウクライナ側この提案を出したということである。単に敵から投げつけられる案を批判するのではなく、私たちが戦略的提案を提示しているのだ。

この文書にはどのような具体的な内容があるか。その提案は、どの程度現実的で、ウクライナや世界は何を得られ、対立する「あちら側」であるロシアと同国がコントロールする「DPR/LPR」はどのように反応するのか。二つ目の質問に対して、11月10日のTCG政治問題作業部会からの回答はなかった。そのため、私たちは今回、この計画に対して自分たちの考えをまとめてみることにする。

ミンスク・プロセスは現在どうなっているのか?

第一に、ミンスク諸合意は、第1合意も第2合意も確実に古くなっている。それぞれの合意の履行期限は、2014年年内と2015年年内であったのだ。しかも、それらが履行されなかったのは、ウクライナのせいではない。今、それら合意は、現状に合わせて見直さなければならなくなっている。ウクライナも、ウクライナ軍も、ドンバスも、もはや当時とは異なる。公のテキストにて「ミンスク(諸合意)は教義ではない」と述べているのは、同盟国(例えば、メルケル独首相のパリ・ノルマンディ首脳会談での発言)だけでなく、キーウ(キエフ)におけるクラウチューク氏のような人物からも聞かれる。ヴォルフガング・イッシンガー・ミュンヘン安全保障会議議長は、常にロシアやプーチンに対して特別忍耐強い姿勢を指名てきた人物だが、彼もまた同提案が出される数日前に「ミンスクは聖書ではない」と述べていた。ところで、10月にロシアが彼らに提示した「15項目」は「聖書」的なものだ。そのロシアの15項目では、選挙はウクライナへと国境を返還する前に実施しなければならないことになっている。その「露の15項目」がウクライナにとって受け入れられないものであることを理解するには、その一項目を知っておくだけで十分である。

現状を理解するには、ミンスク合意2(編集注:「ミンスク両合意履行のための方策パッケージ」)を思い出してみる必要がある。同合意が署名された2015年2月の状況は、現在とは全く異なっていた。当時、激しい戦闘が生じ、デバリツェヴェ市は包囲されていた。当時の政治・軍事のトップの責任がなくなるわけではない。しかし、その状況は回避ができただろうかと考えてみるのは、公正な行為であり、かつ教訓を与えるものである。ただし、その場合、政治的キャンペーンの一環で考えるのではなく、冷静で偏見なく当時の情勢を理解する中で考えてみるべきだ。なお、ミンスク諸合意を離脱するというのが、ウクライナにとってかなり不利なものであることも確かである。ミンスク諸合意によって、激しい戦闘を止められ、ドネツィク・ルハンシク両州における敵の更なる進軍の脅威を抑えることができたのも事実である。

2015年2月、ミンスク方策パッケージ署名に向けた協議
2015年2月、ミンスク方策パッケージ署名に向けた協議

ミンスク諸合意とそのロードマップは、極めて複雑な文書である。各項目の履行順序に明確な一貫性を目にすることができる人物がいるのであれば、その人は非常に楽観的な人物であろう。多くの人が話していることだが、この文書はどうやらそもそも履行できないように作られたもののようである。ウクライナにとって、この文書には非常に重要な点がある。それは、被占領地が文書上「ドネツィク州一部地域(CADR)」と「ルハンシク州一部地域(CADL)」と記述されていることだ。この定義はウクライナ国内法との整合性がある上に、「ドネツィク人民共和国(DPR)」「ルハンシク人民共和国(LPR)」を用いた印象操作とその合法化を不可能にしている。

また、過去数年のウクライナの立場は、周知である上に不変のものである。その立場は、まず(ミンスク諸合意上の)治安項目を解決し、ロシア連邦との間の国境を回復してから、選挙実施を含む政治解決の道を開く、というものだ。その順序(筆者注:100%論理的な順序であろう。それ以外の方法があるだろうか?)がロシア側には都合が悪いことの理由は、明白である。というのも、そのような順序で履行されてしまうと、ロシア連邦の紛争への参加、武装集団・占領政権への直接的コントロールが完全に証明されてしまうからだ。更に、「DPR」「LPR」の解体もしなければならなくなり、それはロシアにとっての政治的な敗北となる。そのため、ロシア側は「直接対話」なる政治的提案を提案し続けてみたり、「これ以上、三者コンタクト・グループ(TCG)に参加することは非常識だ」と挑発してみたり、コンタクト・ライン沿いでの情勢を激化してみたりしているのだ。

となると、一体どうしたら現状のまま「ミンスク諸合意」の効力を確保することができるのであろうか? そのためには、妨害されているプロセスを前に進めるための現実的提案をするしかない。まさにそれこそが、11月5日に「共通行動計画」(通称「クラウチューク・プラン」)という名で、TCGウクライナ代表団が提案したものである。

足踏みではなく、一歩一歩の前進を

ミンスク・フォーマットにおけるウクライナに対する批判の一つは、その立場に柔軟性がないというものであった。一方では、ウクライナの代表者たちが自らの主張を維持し、反対側で、ロシア側が不適切な態度で交渉を死に体に追いやってきた。現在はどうであろうか?

ウクライナ側の提案した「共通行動計画」の重要項目をまず見てみよう。

・外国軍、違法武装集団、傭兵の2021年1月までのウクライナ領からの撤退

・CADRL(ドネツィク・ルハンシク両州一部地域)住民へのロシア国籍簡素化付与関連のものを含む、ロシア連邦による、ウクライナ内政への直接的干渉となっている決定・文書の無効化

・欧州安全保障協力機構(OSCE)の支援を得た上でのロシア・ウクライナ間国境検問地点のコントロール回復

・OSCEウクライナ特別監視団(SMM)の人員の増加(4倍、1500名)

・これらの条件を履行した上ではじめてCADR・CADL領域にてOSCEの支援を得た上での選挙の準備と実施が可能となる。

これら項目からわかることは何であろうか。

第一に、ウクライナが治安問題を優先する点は、全く変わっていない。TCGウクライナ代表団のレオニード・クラウチューク代表は、インターファクス・ウクライナ通信に対して、次のように述べている。「第一に、私たちが提案していることは、武力紛争を確実に停止し、CADRLの確実かつ完全な非軍事化だ。そこから始めなければならない。つまり、全ての軍部隊、傭兵、兵器は、全て同領域から撤退しなければならず、違法武装勢力は解体されねばならない。」

ドンバス地方でロシア連邦側に立ち戦闘に参加した人物の責任問題と、その際の具体的な基準を確定する、という問題もある。クラウチューク氏はその点について、「ウクライナ最高会議が法案を採択することで行われることだ。(中略)なぜなら、金稼ぎのために殺人をしに現地に来たような犯罪者もいるからだ。彼らは、罰せられねばならない。その他の人々は、自らの地、ウクライナの地にて、普通に暮らし、仕事をすることになる」と指摘している。となると、次の疑問が生じる。理論的に(ウクライナ領から)撤退する人々というのは、その犯罪者・殺人者なのだが、彼らは刑罰を回避できてしまうのだろうか? 一見すれば、それは看過しがたい妥協のように見える。しかし、占領者と軍事犯罪者をウクライナから排除する手段は、他にどのようなものがあるだろうか。ところで、ウクライナがこれら犯罪者を世界で指名手配することは禁止されるわけではない。イスラエルは、ナチス犯罪者や現代のテロリストに対してそのように行動している。

第二に、ロシア連邦に対して提示された要求、「DPR」「LPR」の文書承認の無効化と被占領地住民へのロシア国籍違法付与の無効化である。この要求は、ロシア連邦に直接提示されたものであり、侵略国が問題をこねくり回すことを不可能とするものとなっている。例えば、「ロシアの国籍の獲得は、現地住民の意思だ」などというようなことだ。ここで重要なことは、これらのことはロシア連邦が、戦闘行為だけでなく、現地の違法機関の活動促進にも参加していることを示している点である。

第三に、「共同行動計画」は、ウクライナ・ロシア間国境のコントロール回復とOSCE/SMMの人員と権限の増加を想定している。SMMの権限に関しては、TCGウクライナ代表団のオレクシー・レズニコウ副代表(副首相)がRBCウクライナ通信へのインタビュー時に説明している。レズニコウ氏は、「誰が、これら地域(編集注:ドンバス一部地域)の社会秩序の警備を行うか、という疑問が生じる。私たちは、OSCEの権限を拡大することを提案している。その拡大にはウクライナ国民の参加にて新しく創設される社会秩序警備隊との共同パトロール実施権限も含まれている」と述べている。

もちろん、ウクライナの多くの人はこの案を望ましく思っていない。OSCEにとって政治的機能はそぐわないとか、銃を携帯したOSCE要員1500名ではそのような課題を遂行するには少な過ぎるとかいった批判が聞こえ、国連平和維持軍展開の議論へと戻るべきだと言われる。もしかしたら、それは安全の保証する際の具体的行動の協議の際には議題となるかもしれない。しかし、重要なことは、その問題の議論を始めることである。

第四は、上述の全ての条件が実施されてはじめて、選挙が実施できる、というものだ。選挙がウクライナ国内法で実施され、ウクライナの政権諸機関が現地入りし、ウクライナの中央選挙管理委員会が管理を行う、等々は、当然のことである。それこそがこれらの地にウクライナ政権が戻ってきたことを示すものなのだから。ただし、この項目にも批判はある。例えば、提案されている選挙実施のテンポが早すぎるというものだ。提案されているのは、1月末までに地域の非軍事化が行われ、その後すぐに3月末には選挙を実施するというものだ。言うまでもなく、それぞれの合意された行動は、完了の検証が行われねばならないし、その際は専門的で偏見の排除された検証が必要となる。その検証には、各段階で1週間、あるいは1か月かかることもあるだろう。とすると、クラウチューク氏の発表した2021年3月31日に選挙、という日程は、ウクライナが「共同行動計画」を実施する意思があることを示すものとして受け止めておくべきであろう。同様に、クラウチューク氏によるCADRLでの選挙実施には100%小選挙区とする特別法の採択という提案にも注意する必要がある。この提案は、ウクライナの政党が現在現地にいないこと、すぐに現地に入ることができないことから、論理的であろう。

誰にとって何が得となるか。分析が必要

ウクライナの提案がどのように受け止められたかも、ミンスク・フォーマットの参加者の真の関心を測るマーカーであろう。OSCE代表者は、その提案に対する専門的な分析を始めた。他方で、クレムリンは、提案に対して今のところ本質的部分では沈黙しており、細部でドミトリー・ペスコフ露大統領府報道官がいつも通りウクライナに責任を転嫁している。彼の発言は、例えば、違法なロシア国籍付与につき、ウクライナ領の話、ウクライナ国民の話であって、ロシアは関係ないといった具合だ。しかし、誰が一体、双頭のニワトリのマークの入った身分証明書を何万と配り、どうして被占領地にロシア・ルーブルが出回っているのであろうか? ロシアの正規軍人(駐OSCEウクライナ代表の発言によれば、その数2400人)、ロシアの武器、真のロシア国籍の傭兵…これらが(ドンバス被占領地に)存在することははるか昔から知られているのである。

原則的なことをもう一度指摘しよう。クラウチューク氏により提示された期限は、問題のあるものであり、2021年3月31日までに全てを間に合わせることなどは、まず不可能である。しかし、日付というのは、見直せるものであり、それ以前にそもそもウクライナは長らく自らの提案を提示する必要があったのだ。そして、ロシアの身勝手さ、紛争参加の責任を認めないこと、「直接対話」なる主張と理解を押し付けようとする行為…これらは全て、6年以上続く戦争におけるロシア連邦の本当の役割を示し、強調するものとなっている。

和平プロセスというものは、長らく戦闘をしてきた国においては、国内問題へと発展する可能性のあるものだ。「クラウチューク・プラン」は、キーウ(キエフ)でも、批判されている。しかし、行動順序、国境の管理、「DPR/LPR」の不活性化・解体といった基本項目は、ウクライナでは、明白な親露政党をのぞいて、誰も否定していない。2050年までドンバス自由経済圏を適用するという提案の議論が始まれば、同案には否定が出てくるであろう。

前述のヴォルフガング・イッシンガー・ミュンヘン安全保障会議議長は、ウクライナによる活動の重要性を次のように述べている。「私は、ウクライナは国家の経済的・社会的再生を通じて領土を取り戻せると信じている。(中略)ドンバス返還は、軍事作戦や軍事的勝利に左右されるものではない。それらが行われるとは私は思わない。返還は、ウクライナのその他の地の魅力や、豊かさに左右されるものであり、それらが磁石のように、ドネツィクとルハンシクを再統合に向かわせるのだ」と発言している(欧州プラウダへのインタビュー時の発言)。

この言葉に付け加えるものはないであろう。なぜなら、近い将来を考えた際に、生活水準というものは、軍事、政治よりも、はるかに大きな影響力を持つからだ。もしウクライナが、想像可能な未来を提案できなければ、ドンバスの返還もクリミアの返還も非常に困難となろう。

ロシアは自らの居場所を理解すべき

そうしてもう一つの脅威、「カラバフの亡霊」がある。もちろん、ドンバスとナゴルノカラバフ紛争は、同じ状況では全くない。アルメニアは集団安全保障条約(CSTO)を通じたロシアの同盟国である(最近、そのロシアに裏切られたところだ)。他方で、ウクライナは、ロシアとすでに7年間戦っている。しかし、両者には、ある種の共通点がある。その共通点は、ナゴルノカラバフとだけではなく、トランスニストリア、南オセチア、アブハジア、シリアとの間にもある。それは、これらの地は、いずれもロシアが自らの「平和維持軍」で干渉してきたところであり、その結果はいずれも同じであり、対立が生じ、向こう数十年の展望が失われている、ということだ。その点からすると、ここ最近TCGやOSCEで繰り返し、「ロシアは仲介者ではない」「ロシアは、ウクライナ領ドンバスにおける国際紛争の当事者である」と言われていることは、非常に重要である。ロシアは、何が許されて、何が許されないのかを、つまり、自らの居場所を理解しなければならない。

自国領のコントロールの回復と「攻撃の停止」は、言うまでもなく、私たちが強く求めているものであるが、しかし、それは表面的なものに過ぎず、その下に理想的な地政学的な構造物が建造されなければならない。そこに政治的な関心と意図を持った者がやってきて、「平和維持軍」の役割を担い出すと、その者が問題を自らの政策の要素の一部に変えてしまい、その地に居座ろうとしてしまう。ウクライナにとってそのようなシナリオが受け入れられないことは当然である。また、私たちの頭越しに他者が合意を結ぶことも受け入れられない。ウクライナは、過去5年以上にわたりそのような妥協に向かわなかった。その中で、今回の新しい「共同行動計画」は、正にウクライナ発のイニシアティブであり、ウクライナが原則的な問題について妥協することがないことを改めて証明するものとなっている。誰かに「何かを押し付けられる」ものではないのだ。

まとめると、TCGウクライナ代表団が提案した「共同行動計画」の諸項目は、ドンバス平和の再生へ向かうための、行動を実施する内容となっている。それはあちら側が提出した受け入れられない提案に対するウクライナ側からの回答である。言うなれば、私たちは、交渉の相手に球を投げた状態であり、しかも私たちには更なる外交的攻勢に出る準備もあるということだ。しかも、私たちはミンスク諸合意のいずれの項目でも諦めるつもりがない。現在、その球は交渉のあちら側にある。誰がどのように行動するかは、すぐにわかるであろう。

ヴィクトル・チョーパ/キーウ


Let’s get started read our news at facebook messenger > > > Click here for subscribe

インターネット上の全ての掲載物の引用・使用は検索システムに対してオープンである一方、ukrinform.jpへのハイパーリンクは第一段落より上部にすることを義務付けています。加えて、外国マスメディアの報道の翻訳を引用する場合は、ukrinform.jp及びキャリー元マスメディアのウェブサイトにハイパーリンクを貼り付ける場合のみ可能です。オフライン・メディア、モバイル・アプリ、スマートTVでの引用・使用は、ウクルインフォルムからの書面上の許可を受け取った場合のみ認められます。「宣伝」と「PR」の印のついた記事、また、「発表」のページにある記事は、広告権にもとづいて発表されたものであり、その内容に関する責任は、宣伝主体が負っています。

© 2015-2021 Ukrinform. All rights reserved.

Website design Studio Laconica

詳細検索詳細検索を隠す
期間別:
-