独仏露3国首脳会談のやりとり

独仏露3国首脳会談のやりとり

ウクルインフォルム
犠牲者にならないためには、ウクライナは自らの立場を主張しなければならない。

執筆:ヴィクトル・チョパ(キーウ)

3月29日には本来ならばノルマンディ・フォーマット、つまりウクライナ、フランス、ロシアの大統領とドイツ首相による4国首脳ビデオ会談が開催されるはずであった。しかしながら、その会談はウクライナ東部前線の情勢激化を背景に開催されなかった。その不開催に向け、全力を尽くしていたのはロシアである。なぜなら、そのような会談は、侵略国ロシアの首脳陣にとって不利だからだ。ウクライナ代表者と一緒の空間に出席して主張を交わせば、たとえそれがビデオ会議であろうと、誰が犠牲者なのかを一目瞭然にしてしまうからだ。プーチンは最近、自らを正当化することに疲れてしまっており、真っ当なやりとりを横暴なほどに軽視している。

しかし、プーチンにとって、ウクライナ抜きの協議であれば、自らの主張とドンバス情勢の見方を示すチャンスであり、それはメルケルとマクロンに自らの視点と戦闘圏の情勢への影響力行使の可能性をほのめかす機会となる。彼が、紛争激化についてウクライナを改めて非難しようとするのも、わかったことであるし、彼は実際、開催されなかった4首脳会談の翌日である3月30日、3首脳会談にて、そのように振る舞ったのである。ただし、そのことを過大評価すべきではない。

異なる会談発表文

まず、同ビデオ会談についてのロシア、フランス、ドイツという3つの公式発表文を引用してみよう。まず、ロシア大統領府(クレムリン)の発表に書いてあったのはこうだ。

「ウクライナ情勢に関する詳細な意見交換の際、同国国内紛争解決の基本となる2015年のミンスク『方策パッケージ』には代替がないことを確認した。ロシア大統領は、これまでにハイレベルで合意した全ての合意のキーウ(キエフ)政権による履行、何よりまず、ドネツィクとルハンシクとの直接対話成立とドンバス特別地位の法的側面解決部分の履行の重要性を強調した。ロシア側からは、ウクライナにより引き起こされた衝突ライン上の武力衝突激化と、2020年7月にコンタクト・グループにより合意された『停戦体制強化のための追加的方策』に対する実質的な履行拒否に関して、深刻な懸念が表明された。」

これに対して、フランス大統領府の発表は、「ロシアはドンバス停戦体制安定化の義務を負うべきで、ミンスク諸合意に従い、危機からの脱出を促進すべきだと強調された」と書かれている。そして、ドイツからは、「ウクライナ東部の紛争解決も協議された。ドイツ首相とフランス大統領は、ミンスク諸合意実現のためにノルマンディ・フォーマットでの協議を進めるよう要請した」と主張された。

お分かりの通り、同じやりとりについてだが、解釈が若干異なっている。はっきりしているのは、プーチンが勝手なことを述べているところに、二人が異なる内容で返答する、というやりとりだったということだ。ただし、これらのコメントには、一滴の雫に映る反射のように、ドイツ、フランス、ロシアの、ウクライナ東部の戦闘行為や、我が国の領土一部の占領に対する真の態度が映し出されている。

強調するが、メルケル独首相とマクロン仏大統領がドンバス情勢とその激化に対するロシアの責任について、一歩も譲歩していないということは、重要であり、かつ励まされるものである。というのも、発表には直接的に「ドンバス停戦体制安定化のロシアの義務」「ミンスク諸合意実現のためにノルマンディ・フォーマットでの協議を進めるよう要請した」と書かれているからだ。このことは、この2つの仲介国が、プーチンに対して、ドンバスにて真の和平プロセスが始まるかどうかは、あなたにかかっている、と明確に述べたことを改めて証明しているのだ。また注意してもらいたいのは、フランスとドイツのコメントが相当に簡潔となっている点である。これはつまり、独仏にとって、プーチンに言うべきことは、これ以上はない、ということを意味する。そのような立場は、私たちに一定の楽観的気分を与えてくれる。

これに対してロシア側は、自らをさらけ出している。2014年以降の、存在しないウクライナのあらゆる罪を口数多くひたすら数えているのである。「国内紛争」なる嘘もまた出てきているし、ウクライナと傀儡「DPR/LPR」が「直接対話」することがあたかも不可欠かのような主張もされている。そして、ロシア的には、またしてもウクライナだけが紛争激化を煽ったことになっているわけだ。なお、その点で指摘すべきは、ウクライナが、「直接」ではないにせよ、三者コンタクト・グループ(TCG)の枠内で、「DPR/LPR」代表者という明白な犯罪者と対話を余儀なくされていることである。

クレムリンの発表の大半は、ウクライナについてであった。しかし、実際にはドンバス戦争についてだけ話されたわけではない。それにより、プーチンがこの会談を主導した理由が「ウクライナについてウクライナ抜きで話すことは可能だ」ということを強調したかったから、というのが完全に透けて見えている。好きなだけ話せば良い。ただし、私たちに関する決定を、私たち抜きで採択することだけはやめてもらいたい。

ウクライナを脇に追いやる方法

実際には、マクロン、メルケル、プーチンには、議題が積もっていたのであり、彼らはウクライナ以外のことも多く話している。いずれの発表も、最初の議題はコロナウイルスの世界的拡散とその対策であり、ウクライナの他にも、ベラルーシ、シリア、リビア、イランについて話しており、フランス発表には、アレクセイ・ナワリヌイのことも思い出されていた。過去数週間、EUとロシアのやりとりが激しくなっていっていたことを思えば、「換気する」ことが必要だったのだろうし、何らかの対話のための戦術空間を見出す必要もあったのだろう。

率直に言おう。コロナパンデミックの第3の波が到来する中、EU首脳は、外政に手が回っていない。再び状況コントロールが利かなくなっており、社会の緊張が高まり、複数の国で制限措置に反対する抗議が騒動に変わっている。そういった報道の数が増えている。今はまだ、それはオランダ、オーストリア、チェコ、スロベニアといった国だけであるが、ドイツとフランスで今後何が起こるかは誰も知りようがない。一方で、その最中、世界の報道機関は、ロシアのコロナワクチンがあたかも有効であるかのような情報を拡散しているのだ。

メルケルとマクロンが個人的に望むか望まないかは別として、彼らはプーチンとその「スプートニクV」について話さざるを得ないのである。ウイルス専門家のふりをしてワクチンについての情報の矛盾について話すことはここでは避けるが、しかし、ロシアの自国産製品に関するプロパガンダキャンペーンが一定の効果を出しているのは事実であろう。

それらは、ウクライナとドンバス侵略に何の関係があるのだろうか。当然ながら、メルケルとマクロンには、ロシアのワクチン登録と交換に、その他の問題で妥協することを検討するつもりはない。彼らには、そのような準備はない。しかし、プーチンには、その準備はあり得るだろう。ロシアの過去数年のそのあけすけな行動と、情勢を激化する全くの図太さから見て、そうであろう。

プーチンには、ドンバス問題を自身のシナリオで解決するという結果が必要である。そして、そのためなら彼は、メルケルにもマクロンにも、どのような人道的・経済的な提案でも行う準備があろう(ノルド・ストリーム2のことも忘れてはならない)。そして、二人が彼の提案を受け入れなければ、軍事情勢の激化で脅すのだ。全くもって現実的な話である。

ウクライナができることは?

では、何をすべきか。ウクライナの参加のない協議という事実は、多くの人々に、ウクライナにとって悪いニュースとして受け止められている。その点、私たちは、前述のとおり、若干異なる見方をしている。ただし、それは、欧州諸国が自らが抱える問題に疲れているということを示しているとは言えるかもしれない。プーチンが彼らを疲れ果てさせることを防ぐのは、私たちの課題であろう。

本件については、政治専門家のヴォロディーミル・フェセンコ氏がフェイスブック・アカウントに書いた話を聞くのが一番良いと思う。

「それは、ノルマンディ・フォーマットをターゲットにした、それを破壊するための新たなクレムリンの挑発である。ウクライナを分離主義者との協議に無理やり追いやり、ウクライナをドンバス問題の国際協議フォーマットから追い出すことが目的だ。ドイツとパリがロシアのそのような提案に懸念を持って接したことは明白である。しかしながら、ウクライナ政権は、そのような挑発には断固として対応すべきである。外務報道官の発言だけでは不十分だ。ウクライナ外相とパリ、ベルリンの同僚との間でコンタクトを取り、ロシアの『イニシアティブ』を厳しく批判的に評価し、ウクライナ問題をウクライナ抜きで協議してはならない、という原則的立場を確認することが必要だ。そのようなシグナルは、大統領府からもノルマンディ・フォーマットの同僚に送られるべきである。」

その通りであろう。ウクライナ外相がドイツとフランスとの間でビデオか電話の会談を行い、そこでロシアの主張を否定するのだ。その情報がたとえ自明のものであろうと、それでも執拗に一貫して行動しなければならない。たとえ、それが形式的に私たちの立場を再確認するだけとなろうとも。

そして、全ての問題は、ノルマンディ・フォーマットでの直接対話においてのみ、ロシアの侵略の新しい証拠と戦争の責任とウクライナ領占領の責任について話してのみ、解決可能である。


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