ドンバス情勢解決「プランB」とは?

ドンバス情勢解決「プランB」とは?

ウクルインフォルム
プランBとなり得るのは、「ミンスク諸合意」の最悪の項目を見直すこと、米国を協議プロセスに加えることから、国際平和維持軍の展開や紛争の凍結まで様々なものが予想されている。

問題は、ドンバス情勢につきウクライナに「プランB」があるかどうかではない。問題は、その計画がどのようなものであり得るか/あるべきか、である。現時点で明白なことがすでに一つある。それは、現状のミンスク諸合意は、ロシアに現政権が存在する間は絶対に機能しないということだ。

ミンスク諸合意の見直し

民主イニシアティブ基金のマリヤ・ゾルキナ政治分析員は、ドンバス情勢について現在二つの可能性があると考えている。

マリヤ・ゾルキナ
マリヤ・ゾルキナ

一つ目は、いわゆる「クラウチューク・プラン」だ。ゾルキナ氏は、「8月以降、三者コンタクト・グループ(編集注:TCG、宇露欧州安全保障協力機構(OSCE)からなるドンバス情勢解決協議フォーマット)の作業部会の活動が妨害されていることから、近い将来にノルマンディ4国(編集注:独仏宇露4国からなるドンバス情勢解決協議フォーマット)の会談が開かれないことは明白である。そこで、最も実現可能性があり、すでに実現が始められているシナリオは、いわゆる『クラウチューク・プラン』だ。つまり、ミンスク履行のための方策パッケージ(編集注:TCGが2015年2月に署名した合意)における最もひどい項目の見直しを目指すものだ」と発言した。

同氏は、第一にそれはミンスク初号位の国境関連項目の見直しのことだと述べ、(現在占領されている地域において)選挙運動が始まる前に国境管理がウクライナ側に戻されることを意味すると指摘した。

同氏は、第二には治安項目の具体化であると説明する。具体的には、違法武装集団と外国(ロシア連邦)部隊の撤退のことだとし、「(現存する合意の)項目には、いつ、どのように、どのような手段でそれ(外国軍のウクライナ領からの撤退)が行われるか書かれていない」と指摘した。

第三の見直し点は、地方自治体の特別性に関する項目だという。同氏は、それは国内法のレベルにおいて定められるものであって、ウクライナ憲法改正で定めては決してならないと強調した。

その上で、同氏は、「この原則的な3項目が、(ドンバスの)占領政権の解体と彼ら(武装集団)との直接的対話の拒絶を具体化するものである。つまり、ロシア連邦の直接対話のアイデアは破棄される内容である」と指摘した。

同氏は、「全てを変えるため、この3点について説明が行われている。これは、実質的にこれまでと全く異なる戦術である」と説明した。

同氏によれば、前述のミンスク諸合意見直しの根拠付けは、少なくとも半年は準備されてきたものだという。ゾルキナ氏は、「いわゆる『諮問評議会』なるものが破綻した後、ロシア連邦が『直接対話』『国境問題』『特別地位問題』に関する自らの要求に固執していることが明らかとなった。そのため、存在する出口は二つのみに限られた。一つは、ロシアの主張に同意するというもの。もう一つは、戦術を変えることであった」と指摘する。その上で同氏は、「『クラウチューク・プラン』は、多くのリスク、欠点があることから、多く批判されているし、私もその批判者の一人なのだが、しかし、(同プランの)唯一の情報面での利点は、それはTCGの協議でまず提示され、それから、ノルマンディ4国レベルで、前述の(3点の)条項の変更が不可欠だという見解を提示する内容となっている点である」と説明した。

では、その提案にロシア連邦はどのように反応するだろうか? ゾルキナ氏は、ロシアは、その提案に徹底的に抵抗すると指摘する。ロシア連邦は、ウクライナがドンバス協議を破綻させていると批判しているが、同時に、公式には協議プロセスを凍結しようとはしていないのだという。ゾルキナ氏は、「ロシアは、その地(ドンバス被占領地)を彼らの望む条件で(ウクライナ政府の管理下へ)戻したいと思っている。だから、完全に(協議を)止めることはしない。しかしながら、私たちは、2016〜2019年にそうであったのと同様の、のろのろとしか進まない状況に戻ることになる。ただし、それは最悪のシナリオではない。そのシナリオは、十分に合理的であり、利益があるものだ。しかし、有益なのは、急激な行動へ向けた準備がなされていない時だけである」と発言した。

国連平和維持軍

もう一つのあり得る「プランB」は、ウクライナ外務省が長らく支持しているプラン、ドンバス地方への国際ミッションの展開だ。ゾルキナ氏は、「私個人は、そのプランが最も正当化できると思っている。しかし、それは移行期の国際統治とセットでなければならない」と強調した。

ジョージアで
ジョージアで活動するEUの文民監視ミッション

ゾルキナ氏は、過去の世界の紛争解決の歴史、特にウクライナのものと比較可能なものを見ると、紛争の終結は、国際的要素が機能した場合だけだという。しかし、その国際ミッションは、文民のものではなく、軍事要素が必要だという。「ジョージアを例に挙げよう。同国には、欧州連合(EU)の文民ミッションが活動しており、ジョージアと南オセチア/アブハジアの間のコンタクト・ラインに彼らは滞在している。ただし、彼らは、一時的被占領下ジョージア領に入ることは一切できない。彼らは、ジョージア側でコンタクト・ラインのコンタクト・ライン沿いの治安状況をフォローしているだけなのだ」とゾルキナ氏は説明する。

同氏は、文民ミッションは、紛争の最終的解決には役立たない、戦争があるのなら、国際ミッションは軍事要素が不可欠であり、そこに文民が加わるのでなければならないと指摘する。同氏は、「私は、しばしばクロアチアの事例を思い出している。同国では、国際ミッションが存在し、一時的、2年間の国際移行期統治が行われていた。ミッションが一時的被占領地において選挙を準備し、選挙によって地方自治体が形成されるまで、クロアチア政権の中央政府期間の代表者が活動を始めるまで、国際ミッションが同地を統治していた」と指摘した。同氏は続けて、「いずれにせよ、治安項目が履行されていないのに、政治的再統合が始まってしまったら、国家は破綻する。ボスニア・ヘルツェゴビナが良い例であり、デイトン和平合意にもとづいた停戦体制と非軍事化が政治統合と結びついていた。それで全てであり、国連の庇護の下で国家は存在するのであり、実質的な外からの統治となる」と説明した。

「ウクライナは、クロアチアのシナリオを分析すべき」
「ウクライナは、クロアチアのシナリオを分析すべき」

ゾルキナ氏は、ウクライナは、クロアチア・シナリオを注意深く分析すべきだと発言し、非軍事化は、第三者が責任を持って行うべきであると指摘した。同氏は、その理由として、いわゆる「DPR/LPR」の戦闘員の言葉を真に受けることは何があってもしてはならないからだと述べた。同氏は、「国際的な紛争解決基準にしたがった武器放棄のプロセスというのは、組織立ったものである。誰か、それを行う権限を得た主体、マンデートを得た主体が存在しなければならず、武器を記述し、保管場所を定め、解体し、どこかへ運ぶといったことを実行する何者かが現れなければならない」と指摘し、加えて「部隊撤収も同様だ。撤収プロセスは、誰かが検証しなければならない。OSCEにはマンデートはないし、そのようなマンデートは持ち得ない。悪いが、OSCEはあまりにも無力なのだ。そのため、その仲介役は、国連が担うべきである」と強調した。

紛争の一時的凍結

ドミトロー・シンチェンコ
ドミトロー・シンチェンコ

被占領地の返還例としては、クロアチアとアゼルバイジャンがウクライナの状況と類似したものとして成功例である…。政治学連合代表のドミトロー・シンチェンコ氏はそのように述べる。同時に同氏は、「軍事力を行使せず、協議と制裁だけで自らの領土を取り戻した国の例というのを、私は一つも知らない。そのため、どのようなプランBなるものもあり得ない。計画は一つでなければならない」と強調する。その計画とは、軍・特殊部隊の最大限の強化・近代化、敵のプロパガンダからの情報空間の保護、あらゆる可能な分野(経済、政治など)における最大限の敵の弱体化、被占領地解放を目的とした、迅速な軍事作戦の実施、だという。同氏は、「地政学的に好機となる状況を待ち、被占領地解放を目的とする迅速な軍事作戦を実施せねばならない。それまでは、私たちは、敵側の合意履行を際限なく待ちながら、結果の出ない誰かを満足させるためだけの協議なるものを続けることは可能である。国際社会に対しては、どうして私たちが自分たちだけ一方的に合意を履行することができないかを説明をしないといけない。ミンスク・フォーマットだろうが、ノルマンディ・フォーマットだろうが、ブダペスト・フォーマットだろうが、いずれも決定的な役割を果たすことはないだろう」と発言した。

ミハイロ・ベサラブ
ミハイロ・ベサラブ

類似の見解は、「降伏反対運動」共同コーディネーターのミハイロ・ベサラブ氏も述べている。「プランBはどのようなものがあり得るか、どのようなものであるべきか? まず言いたいことは、前大統領も現大統領も、ウクライナ国民に真実を伝える勇敢さを持っていなかったということである。私は、ウクライナ社会は、正当な対話を示されるだけの行動をしてきたと思う」と発言した。

同氏は、「ロシア連邦がウクライナに対して武力侵略をし、ウクライナ領を占領しているのであり、この問題にはシンプルな解決法は存在しない。なぜなら『迅速に』解決が可能なのは、ロシアが提示する条件を飲むしかないからだ」と指摘した。

続けて同氏は、ゼレンシキー大統領は、いずれ必ず領土を取り戻すが、ロシア連邦の前に恥ずべき妥協をすることもないことを明言すべきだと述べた。「私たちはその地を、奪取される前の状態で取り戻す。ロシア連邦は、圧力を受けて、何らかの状況下でそこを立ち去ることになる。国際制裁によってか、法律にしたがってか、いずれにせよウクライナは自力で奪取された領土に憲法秩序を回復させることができる。それは将来のことだ。しかしながら、私たちは、屈辱なく自国領を取り戻さなければならない」と発言した。

ベサラブ氏は続けて、「理想的な解決法はない」とし、「最適な決定をしなければならない。それは、一時的な紛争の凍結だ」と発言した。同氏は、被占領地の地位は国際法にて明確に定められていると述べ、「占領地とは何か、誰が占領地の活動を保障する責任があるのか、領土を占領された国は何をすべきか、ということについては詳細な定義がある」と指摘した。加えて同氏は、「同時に、国を改革しなければならないし、発展しなければならないし、国内を強化しなければならないし、その領土の解放に向けた準備をしなければならない。1年後か、2年後か、10年後か、30年後か、そこに違いはない。しかし、解放は、ウクライナの提示する条件で実現されねばならない」と強調した。

その他の意見

ボフダン・ペトレンコ/写真: アポストロフ
ボフダン・ペトレンコ/写真: アポストロフ

ウクライナ過激主義研究所のボフダン・ペトレンコ副所長は、「プランBは、すでに発表されている。それは、平和維持軍か、『壁』の設置だ。私は、どちらも良くないと思う。なぜなら、壁とは、領土の拒否であり、分断の深刻化だからだ。平和維持軍は、何であれ、ロシアが同意しなければ不可能だ」と発言した。

ミンスク諸合意を完全に拒否することは、ウクライナの立場を悪化させる。そのため、「ミンスク」は、現在も近い将来も見直すことはできない。ペトレンコ副所長はそのように指摘する。同氏は、「なぜなら、いずれの当事者にも、そのための政治意志も願望もないからだ。そのため、プランBは選ばれないと思うし、(政権は)『ほら、見て欲しい、どれだけのことが過去1年で実現されてきたか』と言うだけであろう」と指摘した。

ペトレンコ氏の考えるプランBとは、次のようなものだという。同氏は、第一に、現行のプランA(ミンスク諸合意)履行のための時間を戦術的に長期化させることを想定するものだという。そして、第二には、プランAによって稼がれた時間を使って、経済、外交、軍事の面でウクライナの能力を向上させる。第三には、積極的に情報キャンペーンを行い、政府管理地域だけでなく、被占領地や侵略国領、ロシアの同盟国の情報空間に対してもキャンペーンを張る(ロシアに対する否定的見方を形成することを目的とする)。第四には、西側諸国全体に、ドンバス問題の解決は価値の問題だけではなく、経済面でも彼らにとって利益のあることなのだという理解を形成する。第五には、ロシアが占領する領土から、専門家と若者を引き抜くための機会を作り出す。そして、最後に、第六には、「大計画」を作成する。大計画とは、クレムリンにとっての問題を作り出し、ドンバスとクリミアの占領をやめなければその問題が解決できないような状況を作ることを想定するのだと説明した。

写真: facebook.com/pavlo.buldovych
パウロ・ブリドヴィチ/写真: facebook.com/pavlo.buldovych

国際政治専門家のパウロ・ブリドヴィチ氏は、真のプランBは現在の妥協計画に対する代替となるものでなければならないと指摘する。同氏は、最近ウクライナが発表した計画(編集注:通称クラウチューク・プラン)も根本的には新しいものでないと述べた。

ブリドヴィチ氏は、TCG開催地変更(編集注:現在はベラルーシ首都ミンスク。新型コロナ感染が拡大してからはビデオ会合)や、ノルマンディ4国首脳補佐官級会合のスケジュール変更というものが行われるべきだと主張する。同氏は、プランBは、何よりもロシアに対する影響力(圧力)強化を目的とすべきであり、その方向においてのみ代替の紛争解決案を模索することに意味があると指摘した。同氏は、「米国の政権交代の時期を利用して、もしかしたら、ウクライナは、ノルマンディ・フォーマットへ米国を加えて拡大するという案をもう一度提起すべきかもしれない」と発言した。

同氏はまた、ミンスク・フォーマットもノルマンディ・フォーマットも最初から外交的な時間稼ぎゲームであったと指摘しつつ、もともとはその戦術がウクライナにとって有益であったとしても、現在はそれを継続するのは危険であると主張する。ロシアはドンバスに根を張り続け、忍び寄る侵略が続く中、ウクライナ領の実質的再統合は、ますます困難になり、その実現は遠ざかっているという。同氏は、「そのため、真のプランBの必要性は緊急のものであり、ウクライナは、世界のプレイヤーがウクライナ政権の意図に疑問を持つことのないように、プランBの進展に向けて最大限積極的に行動すべきである」と発言した。

同時に、プランBの成功のために極めて重要なのは、それを作成する上での前提条件だという。ブリドヴィチ氏は、第一に、その作成は、国家安全保障国防会議(NSDC)や大統領府が作るのではなく、社会の真摯な議論の産物であるべきだと主張している。同氏は、「ドンバス返還戦略に関する社会のコンセンサスがなければ、どのような計画も、議論を巻き起こすだけである」と強調した。同氏は、第二には、国際レベルでの集中的議論を今から始めるべきだという。「重要な地政学上のプレイヤーに対し、現行の内容でのミンスク諸合意には代替がないという言説は現実と乖離しているということを説得しなければならない」と指摘した。

ミロスラウ・リスコヴィチ/キーウ


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