ポクロウシク住民「この町がウクライナであり続けることを信じている」

写真ルポ

この記事は、ロシア軍によって地表から消し去られようとしている、ウクライナ東部ドネツィク州ポクロウシク市からのルポである。

ウクルインフォルムの記者は、かつて大きな産業中心地だったこの町を訪れることができた。この町は今、強靭性と痛みの象徴と変貌している。

執筆・写真:ニーナ・リャショノク

「無人機の音が聞こえたら、すぐに木を探せ」

ポクロウシクへ入るのは、極めて難しい課題だ。どのような自動車も敵が電子戦機器が通じない光ファイバー無人機で攻撃してくるし、FPV無人機でも攻撃される。町の近くで夜を明かし、朝から徒歩で出発する。軍人から指示を受ける。「無人機の音が聞こえたら、すぐに身を隠すための木を探すように。あなたにとって空の『鳥』全てが潜在的に危険だ。それが私たちの無人機かどうかを考えている内に、悲劇が起こるかもしれない。」

10メートルの間隔を保ちながら並んで歩く。軍人が同行する。最初の数メートルは怖い。ある瞬間、引き返すべきではないかという思いが生まれる。だが、その時2人の女性と出会った。彼らは、小さなお店の近くにいた。なお、この店は、私たちがここで見かけた営業中の、文字通り唯一の店だった。2人は、名前を明かすことも、録音した会話を行うことも嫌がった。短い言葉を交わすと、温かいヤギのミルクをご馳走してくれた。1人が写真撮影に同意してくれた。明るく別れて、先に進む。粘ついた恐怖はもう後退していた。ここには人がいる。ここには生活がある。

無傷の建物は1つもない

遠くからポクロウシクの集合住宅を見る。無傷の建物がないことは一目瞭然だ。民間の建物を通り、開発地区に到着する。町は死んだように見えるが、しかしそれは、最初だけだった。ほら、袋を持った女性が歩いている。ほら、男性が自転車で通り過ぎる。若者さえいて、スクーターで私たちの近くを通って行く。自動車はなく、ある瞬間まで静寂が支配していた。そこで、突然上から『ブブブ…』という音が聞こえる。「木へ!」同行者が断固たる口調で言う。私たちもすでに空いている木を探していた。1人1本だ。

国家警察の最新のデータでは、ポクロウシクに残っているのは2000人以上。最初は、あり得ないと思った。そして、町の中心に近付くと、地元民に出会うことが多くなってきた。ほぼ完全に破壊された市場へ行く。しかしながら、そこでは、人と話せるし、コーヒーが飲めるし、食べ物が買えるし、服やペット用品まである。入口近くでは、箱の中に猫が子猫と一緒にいた。ペットのエサを売っている女性のところへ向かう。私たちは、500グラムの猫のエサを持っていたのだが、その女性は、「もし市場の猫のためなら、要りません。私たちは彼らをとても沢山食べさせているので、町中の通りの猫にあげてください」と言う。

「どこから来たんだい?」コーヒーを手にした白髪の男性が私たちに尋ねる。

「オデーサからです」と答える。

紹介しよう。彼の名は、ヴィクトル・ミコラヨヴィチだ。彼は船乗りで、航海士。だからオデーサへも行ったことがあり、他にも色々な場所に行ったことがあると嬉しそうに語る。世界一周旅行を2回したことがあるという。彼は私たちに、足の水虫をどうやって治したら良いか聞き、ポクロウシクの医療機関は開いていないと述べる。別れ際、彼は私たちに、自らのことを守るよう、全身全霊で祈念した。

中庭の新しい墓

先へ進む。多くの建物が、単に壊されているだけでなく、焼け焦げている。私たちの同行者は、これが敵の戦術だと言う。「町を焼き尽くすことがだ」。

私たちが出会う人は誰もが、痛み、恐怖、喪失で鍛え上げられている。「これは私の町、私の大地、私の家。どうして私が去らなければいけないの? ポクロウシクはウクライナのままであり続けると信じている。私たちは全部再建するよ」と、通りの女性が私たちに答える。私たちは、「怖くないですか? どうして脱出しないのですか?」と尋ねているのだ。思うに、敵は、市民の意志を焼き尽くすことはできない。

中庭の1つで、新しい墓を見かけた。住民たちは、ここには3月に亡くなった男性たちが埋められていると述べる。隣人が彼らを埋めたのだという。

近くには、紐に下着が干してある。2人の老人が建物の入り口のところに並んで座っている。建物には窓がない。開いた窓の先の壁には物が残っている。おもちゃ、おむつ、テレビ。

「残念ながら、泥棒はいる。」同行者が私の質問に答える。

もう1軒の壊れた5階建ての集合住宅を通り過ぎる。それは「死んだ」建物のように思える。しかし、そこで犬の鳴き声が聞こえた。ベランダに犬と猫がいる。入り口の近くには、バーベーキューセットがある。ここで人が暮らしている。

夜は砲撃の烈度が上がる。私たちは、滑空爆弾の発射が警告され、最初に見つけた地下室に非難した。大地が震えるのを感じた。

今、ポクロウシクは、生き残りをかけて戦っている。ロシアの恒常的砲撃と破壊の中でも、住民たちは、信じ難い強靭性と「生きたい」という願いを示している。この町は、私たちの注意、支持、支援を必要としている。