松田邦紀元駐ウクライナ日本国大使
全面的侵略戦争が始まった以上、ロシアとの間に何事もなかったかのような二国間関係を続けることは無理である
8月13日にロシアのプーチンが被占領下の択捉島に入域した。それから1か月以上が経つが、高市政権は抗議の声明を行うだけに留まっている。日本社会からは、政府の行動の不在への批判と共に、ロシアから天然ガスを購入し続けていることが理由だとか、現在の露宇戦争後のロシアとの関係を見越した対応ではないかとの推測が聞かれる。また、森英介衆議院議長がキーウを訪問したものの、高市首相も閣僚もウクライナを今のところ訪問していない。
この中で、ウクルインフォルムは、行事への出席のためにキーウを訪問された松田邦紀元駐ウクライナ日本国大使(2021〜2024)と会い、日本の対ウクライナ支援の失速の可能性、対露政策のあり方、日本と欧州の戦略面の連携、将来のウクライナ日本の関係などにつき質問した。
聞き手・写真:平野高志
日本のウクライナ支援が失速しているというイメージを与えてしまったとすれば、象徴面が原因だと思う
過去2年間の日本の対ウクライナ政策は失速しているのでしょうか? もしそうであれば、なぜでしょうか?
その2年間、日本では岸田政権から石破政権に、石破政権から高市政権に変わりました。ウクライナ支援と対露制裁においては、日本政府は、岸田政権の政策を踏襲しており、支援も継続しています。支援に関しては、石破政権の下で地雷対策の国際会議もやりました。またその後この2年間の間に60億ドルの追加財政支援も実施しています。ですから、実態としては、私は日本の支援がおろそかになっているとは思っていませんでした。
他方で、外交というのは、多分に実態とは別に、象徴的な行動によって形作られます。その象徴的な行動の中には、例えば、首脳レベルや閣僚レベルでの訪問だとか、国際会議の際の首脳外交だとか、あるいは、かつての岸田政権の時の「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」のような、国の内外に対して明確な発言をする、そういうことが全部入ってきます。
外交は、「実態面」と「象徴面」が合わさる必要があると思っています。仮に日本が失速しているというイメージを与えてしまったとすれば、私は多分、象徴面によるのだと思います。実態面できちっと行動しているのですから、日本はそのことを折に触れて国の内外に対して分かりやすい形で示した方が良かったと思います。「自分たちは十分にやってきた」という反論もあるかもしれませんが、「象徴面」というのは多分に受け手の問題ですから。
「政治的サポート」というものですよね。
特に侵略されている国にとっては、実態面もさることながら、ウクライナの政府にとっても、ウクライナの国民にとっても、政治的なサポートが大きな勇気になります。その点では、日本は、今後さらに行動できる余地があると思いますし、そう期待しています。
中国を牽制するためにロシアとの外交を考えるという戦略的考え方は、少なくとも現時点では、妥当性を欠いている
プーチンの被占領下択捉島への入域後、日本政府は断固とした行動をとっていません。ロシアからエネルギーを購入し続けていることが適切な政治決定を下す上での足枷になっているとの見方もありますし、日本は隣国であるロシアとの関係を完全に断つことはできないという議論も日本には根強いです。他方で、日本とロシアの関係の「正常化」や「改善」は、ウクライナや欧州にとって重大な意味を持ちます。ロシア専門家でもある松田さんは、日本とロシアの関係は今後どうあるべきだと思いますか?
第二次世界大戦後の日本の外交、経済的な復興と発展、それを支えた政治的・社会的な安定のかなりの部分は、国際社会が国際法の秩序に基づいて運営されていることによると思います。だからこそ、1950年代に国際社会に復帰した後の日本は、率先してその国際秩序を守るために、二国間外交でも、国連をはじめとする多国間外交でも、国際司法裁判所(ICJ)や国際刑事裁判所(ICC)でも、国際秩序を守るために努力してきました。
その前提に立てば、この全面的な侵略戦争が始まった以上、ロシアとの間に何事もなかったかのような二国間関係を続けることは無理であり、侵略戦争が続いている限り、日露関係もそれを前提に考える必要があると思います。
日露関係については、日本には、中国との関係が緊張しているため、中国を牽制するためにロシアとの関係を改善するという考え方がありました。しかし、侵略戦争が始まった後、中国とロシアはむしろ接近し、日本の周辺でも共同の軍事演習を行っています。そう考えると、中国を牽制するためにロシアとの外交を考えるという戦略的考え方は、少なくとも現時点では、妥当性を欠いていると思います。
一方、隣国同士として、漁業や海洋汚染、北方領土問題、日本企業の権益の擁護などの問題を解決するために一定の関係を持つ必要があるというのは、私はその通りだと思います。けれども、ロシアが行っている侵略戦争は、日本の存立の基盤である国際秩序そのものへの挑戦です。そこを踏まえれば、隣国とはいえ、二国間関係にはおのずと限界があります。
日本側から無理をして先にアプローチすれば、ロシアから「圧力をかければ日本は制裁やウクライナ支援を緩めるかもしれない」と受け止められ、日本が弱い立場に追い込まれる恐れもあると思います。
そのため、日露関係には、将来はいざ知らず、今は限界がある。そのことを前提に外交すべきでしょう。
また、ロシアとの関係を日露二国間の狭い枠組みだけで解決しようとするから無理が生じるのであって、同盟国であるアメリカや、ロシアからの脅威に対する問題意識を共有するヨーロッパの国々、あるいはアジアでは韓国などと関係を強化し、日本単独ではなく、仲間と一緒にロシアとの関係を構築していくことが必要だと思います。
プーチンの択捉島入域の後、日本は声明しか出していないんですが、どうしてなんでしょうか?
私は今政府の人間ではないので、政府内の議論は分かりませんが、このような問題が起きた時には、まず日本の立場を声明で示し、ロシア側の対応を見て次のステップを考えるのが普通だと思います。
そして、択捉島訪問の後、日本の菊の御紋を破壊するモニュメントや、中国との共同軍事演習など、その後の様々な動きを考えると、私は当然、日本は次のステップに移ることを考えるべきタイミングに来ていると思います。日本政府がそう考えていることを強く期待します。
国際秩序の基本的な構図が変わりつつある今、日本はあまり経験したことがない外交を今やるべき
中露関係で言うと、最近中国は、日本は「新型軍国主義」をやめるべきだと主張していますが、その主張は、全面侵略当初にロシアがウクライナに対して「ネオナチ」と主張していたのを思い出させます。どちらの方が「ネオ〜」なのは明らかですし、前述のモニュメント然り、ロシアはナラティブ面でも中国の肩を持っていますし、中露には協調できる部分が多いのですよね。
平野さんの指摘は、重要な問題をはらんでいます。2022年に我々が「今日のウクライナは東アジアかもしれない」という危機感を持ち、ウクライナ支援と対露制裁をG7や同志国と実施してきたのは、ロシアを支援する国やロシアの真似をする国が出てくることを恐れたからです。
あれから4年以上経ち、ロシアと中国が協力し、北朝鮮はロシア側に立って参戦しています。我々は、4年前よりも日本と東アジアの安全保障環境が悪化してしまったということを厳粛に受け止めて、ロシア、中国、北朝鮮との外交を考える必要があると思います。
そして、その外交を日本一人で全部行うのは無理があります。どんなに難しい政権であっても、やはりアメリカとの間の対話や政策のすり合わせは行わなければいけない。ヨーロッパやウクライナのように、何度でも手をかえ品をかえアメリカと話をし、アメリカを説得する必要があります。同時に、ロシア、中国、北朝鮮、さらにはイランがこのまま一つの陣営として固まるのを許すのではなく、同志国とともに外交的なくさびを打つ努力も必要です。
国際秩序の基本的な構図が変わりつつある今、日本は、問題を単独で背負い込むのではなく、仲間を増やしながら新しい状況に対応して、新しい秩序を構築するという、これまであまり経験したことがない外交を今やらなければいけないと思っています。
この2年間、ウクライナからは、日本に対して、より大きな軍事・政治的支援を求める声が挙がっています。一方、日本からは、踏み込んだ支援には制度的・政治的制約があるとの主張が強く聞かれます。ウクライナは日本に何を求めるべきで、逆に何は期待できないのでしょうか? 日本との関係強化のためには、ウクライナはどのように行動すべきだと思いますか?
ウクライナから見て、日本がさらに色々なことができるのではないかと期待するのは、私は当然だと思います。なぜなら、日本自身で安全保障に関する国内の議論を高め、政府内では年末に向けて安全保障に関する基本となる3つの文書の改定も議論されているからです。だから、ウクライナは安全保障・防衛分野の協力を含め、日本により多くのことを期待している。その期待は私はよくわかります。
ただ日本が議論の結果として、来年、再来年以降にできることと、今ウクライナとして日本に何をしてもらいたいのかということは、分けて考えた方がいいと思うんですね。
現時点で、ウクライナが日本に大いに期待すべきなのは、2026年から27年にかけての冬季に向けたエネルギー協力です。エネルギーインフラの防護や修理・修繕について、政府間だけでなく、ウクライナと日本のエネルギー企業、金融機関などの間で具体的な協力に関する議論はあってしかるべきだと思います。
そして、再度ウクライナ、ロシア、アメリカの3か国協議が再開できるかもしれない中で、日本が今できることで、ウクライナが将来的に望むことは、ウクライナの将来の「安全の保証」です。これは決定から実施まで時間がかかりますから、停戦・和平の外交が動くかもしれないということも踏まえて、将来の安全保障の分野で日本がどのような協力ができるのか、ウクライナは今から問題提起すべきだし、日本も今検討すべきだと思いますね。
一方で、物事が動く時には圧力をかける必要がありますから、新たな対露制裁も議論すべきだと思います。さらには、ロシアによる損害賠償、そのための凍結資産の活用。また、日本ではほとんど報道されていませんが、(編集注:侵略戦争を扱う)「特別法廷」設置の議論。ウクライナは、これらの問題についても日本にさらなる協力を求め、日本も何ができるかを考えることが重要です。
もしウクライナが今すぐ日本に完成品としての武器をウクライナに提供して欲しいと言われても、現時点でそれを議論して実施するのは大変難しいでしょう。しかし、それ以外の分野は今でも議論できることは多いと思います。
では、ウクライナは具体的にどうすべきか。私が見ていて、他国にあって日本とウクライナの間に十分でないのは、議員外交です。日本の国会議員がウクライナの現状を見に来るとともに、ウクライナの議員も日本を訪れ、現状や問題意識を伝える必要があります。アメリカやヨーロッパでは、政府間外交だけでなく議員外交が活発に行われています。それによって、ウクライナとの関係が重層的になり、それぞれの国のメディアや世論にも影響を与えています。日本とウクライナとの間でも、政府間の関係と同時に、やはり議員外交が必要だと思いますね(編集注:9月14、15日、森英介衆議院議長がキーウを公式訪問)。
松田さんは、当時「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」とのスローガンを繰り返し発信していらっしゃいました。他方で、日本では、ロシア・ウクライナ戦争を依然として欧州の問題として見ている向きもあります。日本では、現在この戦争をどれだけ日本自身の安全の保障の問題、あるいは安全保障とつながっている問題と見られているのでしょうか?
これは日本の誰と話すかによって、実はニュアンスがあるんです。私は大使を辞めた後、北は北海道から南は沖縄まで色々なところで講演をして回っていますが、その中で気がついたのは、東京から離れれば離れるほど人々はこの戦争をより身近な問題として捉えているなということです。特に日本海側の人たち、それから大陸に近い地域の人たちから、東アジアで同じような戦争が起き、多くの人が日本に逃げてきたらどうするのか、北朝鮮がロシア側に立って参戦しているが、それは東アジアの安全保障環境にどう影響するのかというような具体的な質問を受けます。地方の行政、メディア、財界の方がより自分の問題として身近に感じている、という印象を受けています。
ひょっとしたら、東京では様々な問題があるために、ウクライナの問題の日本にとって持つ意味が相対化されてきてしまってるのではないかと少し心配しています。
4年前より現在の方が、日本にとっての安全保障はより緊張度を高めている。この戦争で初めて人類が経験しているドローンやAIが戦場の状況をどのように変えるのかを、中国や北朝鮮が真剣に分析している。そうであれば、日本も同じような問題意識を持つべきですし、その問題をより緊張感を持って捉えている人が、日本では、実は距離的に大陸に近い地域の人たちの中の方に多いということは申し上げたいです。
欧州では、ロシアを最大の安全保障上の脅威と見ています。一方で、日本では、中国が最大の戦略的課題だと見られます。日本とウクライナ/欧州の間でこのような安全保障認識のギャップがあることを踏まえて、欧州と日本は今後どのような協力が可能だと思いますか?
日本とNATO、日本とEUの間で、安全保障認識を共有し、それを踏まえた防衛協力をこれまで以上に進める必要があると思います。中国によるロシアへの協力や北朝鮮のロシア側への参戦が、この戦争を長引かせている理由だということは、ウクライナの人はもちろん、ヨーロッパの関係者も理解し始めています。
そうであれば、我々は、ロシアの侵略と東アジアにおける安全保障の結び付き、具体的には(編集注:ロシア・ウクライナ戦争における)北朝鮮や中国の行動が欧州及び東アジアの安全保障とどのように影響しており、それが今後の国際社会全体にどのような構造的な変化をもたらすのかについて、これまで以上にヨーロッパの人に伝える必要があると思います。
この戦争が始まった直後に、ドイツ、イギリス、フランス、イタリアといった欧州各国の軍艦が次から次へと東アジアを訪問したことを覚えています。ああいう象徴的な行動も含め、日本とウクライナ、日本とNATO、日本とEUとの間の制度的な対話と協力をさらに強化しておく必要があると思います。
また、一時期フランスの反対もあって棚上げされているNATOの東京事務所を開設するというのは、極めて象徴的な意味があり、改めて協議することが特に重要だと思います。
そして、かつて同盟関係にあり、現在最も緊密な同志国の一つである英国は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的協定(CPTPP)に欧州の国として初めて加盟したこと象徴的に表れているように東アジアの問題に対する関心を強め、外交的関与を強化しています。その英国との間で中国やロシアに関する認識と政策を擦り合わせることは極めて重要であると考えます。
その他、ウクライナのヤルタ安全保障会議にも日本の国会議員が参加することもあって然るべきですし、アジアのシャングリラ・ダイアローグや日本が主催する様々な会議にも、ウクライナやヨーロッパからさらに多くの人に参加してもらうことも大事だと思いますね。
ゼレンシキー大統領も8月の大使会議の時に、アジアの安全保障関係の会議でウクライナのプレゼンスを高めないといけないと話していました。
また、安全保障の構図が変化していることを踏まえれば、日本は一人で背負い込むのではなく、日本と韓国が一緒になってウクライナやヨーロッパの問題に関与することも必要だと思います。日本はASEANに対してもしっかり働きかけ、より外交的に近い国であるオーストラリアやニュージーランド、そしてインドとも、この問題(編集注:ロシア・ウクライナ戦争)についてさらに対話を深めるべきだと思います。
私が一番恐れるのは、ウクライナの戦争と東アジアの安全保障の問題が、違う問題だと思われて、停戦・和平が実現した時に、ヨーロッパの人が「これで一丁上がりだな」と安心してしまうことです。ウクライナの戦争によって変化した東アジアの安全保障環境、言い換えれば、ロシア、中国、北朝鮮の協力に、日本が一人で対峙しなければいけないような状態だけは、絶対避ける必要があります。
ウクライナのための「安全の保証」に日本が参加できるものがあるなら、参加すべき
ロシア・ウクライナ戦争がどのように終わるかというのは日本にとっても重要な問題です。公正で永続的な平和の実現のためには、日本は今後どのように行動すべきでしょうか?
私は、先日木原官房長官が、ロシア・ウクライナ戦争の停戦和平に関しては、まずは当事者であるウクライナの立場、そしてウクライナの利益を考えるべきであるということを明確に発信したのは、とても正しいと思っています。そうであれば、日本として何ができるか? 私は、何でもかんでも日本にも参加させてくれと言う必要はないと思うんですが、でもウクライナにこの停戦外交に関しても、日本はウクライナを支援すると明確に伝えることは現時点でもできるでしょう。ウクライナの利益や立場、ウクライナの将来がしっかりと反映されなければいけないということを、ウクライナにも関係国・主要国にも伝えていく。そして、それを目に見える形で内外に発信する。
そして、その先にあるウクライナの「安全の保証」に日本はどう関与できるのか? それを主導するのがヨーロッパであるのは当然だとしても、その中に日本として参加できるものがあるのであれば、私はあると思うんですけども、参加すべきだと思います。早晩停戦監視団は必要になってきますし、将来のウクライナの安全保障を担保するためのウクライナの防衛産業の増強もあります。色々な分野で、日本が今から考えて準備して協力できるものがあるのであれば、今から準備しておく必要がある。そのためには、日本はウクライナ、アメリカ、ヨーロッパの主要国との間で対話するとともに、日本としてできる範囲で協力していきますと議論の中に入っていく必要があると思います。
日本は、技術、デジタル化、民間防衛をウクライナから学ぶことができる
日本は今のウクライナから具体的に何を学ぶべきだと思いますか?
私は、大使時代からずっとこの問題意識を持っていて、本の中でもまとめて書きました。1つは、当時よりもさらに進歩した無人機、それを支えるAIやロボットの技術。これを、日本の防衛に加えて、日本の一般的な治安の維持や防災、海難救助、環境保全、あるいは最近で言えば熊対策だとか、日本の様々な分野に、ウクライナのシステムや経験を学び、導入する姿勢が大事だと思います。
2つ目は、例えば、今のウクライナの空襲警報もそうですが、社会や行政のサービスを極限までデジタル化し、様々なことにスマートフォン一個で対応できる技術です。これは、日本が遅れている分野です。空襲警報もさることながら、戦時下のウクライナでは、例えば膨大な民間及び軍事の調達をするにあたっての「プロゾッロ」のシステムだとかも含め、できるだけ省力化して、できるところはどんどんデジタル化していくという姿勢が見られます。このウクライナが作り上げた、戦時下の社会・行政のサービスを迅速かつ省力化して提供する技術とノウハウも、少子高齢化や財政難で十分な数の公務員を確保できない日本は、学ぶべきだと思っています。
3つ目は、ウクライナでは領土防衛隊と呼ばれていますが、より一般的な言葉で言えば、民間防衛のシステムです。これは、軍事的な意味合いのみならず、自然災害の対策としても、日本にいるたくさんの志のある民間の人たちを平和の時からどれだけ組織化して、緊急事態に対処するかということだと思います。必要に応じて、行政部門と一緒になって、自然災害等の緊急事態に対応する民間防衛のシステムとして、ウクライナの領土防衛隊のシステムを私は学ぶべきだと思っています。
日本では、ようやく防災庁という名のもとに一つの統合的な組織を作ることが決まりました。防災庁の下で普段から技術があり志のある民間の人たちがいざとなった時に、自然災害などの日本の緊急事態の時に参加できる仕組みを今から作っておけば、将来、不幸にして万が一、安全保障上の問題が起きた時もそのシステムを応用できると思っています。
日本は、軍事という話に狭くすると急に思考停止になる傾向がありますが、現在、少子高齢化や財政難で既存の行政組織が十分に対応できない問題について、民間の人たちの技術、ノウハウ、経験を活用するためには、ウクライナが作り上げた「領土防衛隊」という名の民間防衛のシステム、経験、技術、ノウハウを学ぶことは大いに意義があると考えます。
松田さんがご著書の中で、新しいものを導入する時、日本だったら、高齢者の方がなかなか対応できないということで、みんな後ろ向きになりがちだけど、ウクライナ政府の人は、それで裨益する人がいるのであれば、その人たちのために、まず新しいものを導入しなければいけないという話をされてたのが非常に印象的でした。新しいものを導入するという考え方が日本とウクライナでは全然違うんですよね。
日本は良い意味で真面目な国ですけれども、真面目さも程度問題であって、やる前から100点取らないといけないと思うと何もできなくなるんですよ。その結果、0点になってしまう。私の両親がよく言ってたのは、100点は取らなくていいから、とにかく60点取ってくれということでした。そうすれば世の中が回っていくんだと。私はその通りだと思って、外交官としても100点主義ではなくて、60点主義でずっとやってきました。
松田さんは、最近はどのような活動をなさっていますか?
最近はですね、ウクライナの復旧・復興に関係するウクライナの企業及び日本の企業を助けるということをやっています。私が知っているウクライナに関する知識やノウハウ、私が持っているウクライナのネットワークを活用してもらえるのであれば、それをどんどん提供しています。
加えて、引き続き多くの日本人にウクライナの戦争を自分の問題として理解してもらうための、いわゆる広い意味でのパブリックリレーションズもしています。一般人や経済人向け、大学などでのレクチャーもやっています。さらに、声がかかれば、テレビや新聞のインタビューも受けるようにしています。
私は、2021年から24年まで日本の特命全権大使としてウクライナに在勤して、あってはならない侵略戦争を経験した以上、これが1日も早く終わるように、そしてウクライナにとって公正で持続的な和平が来るように、そして、そのために、民間企業も含め日本の持っている力を、どこまでウクライナのために提供できるのか、それをずっと考え続けています。ほとんど朝から晩までこの戦争について考えていると言っても過言ではない毎日ですね。