ドイツ緑の党の躍進

独露間で建設されているノルド・ストリーム2に関しては、緑の党は当初から批判している。

筆者:オリハ・タナシーチューク(ベルリン)

世論調査の結果だけでなく、ドイツ社会が「緑の」未来を選択しそうであることは様々な点から明らかになってきている。

5月の最初の週には、環境政治の観点からいくつかの重要な出来事があった。特に、ドイツ連邦憲法裁判所がドイツ政府に対して、温室効果ガス削減目標を見直し、これまでの予定より5年前倒しの2045年までに目標を達成するよう求めたのだ。ペータースベルク気候対話が行われ、そこでアンゲラ・メルケル独首相は、ドイツの気候保護と再生可能エネルギーの割合増加のためにドイツがあらゆることを行うという約束を繰り返した。ドイツ自然保護連盟(NABU)は、ガスパイプライン・プロジェクト「ノルド・ストリーム2」を再び提訴した。その提訴は、建設を止めるとまではいかずとも、少なくとも完工を遅らせることが目的だろう…。

アンゲラ・メルケル独首相 写真:dpa

これら全てが示すことは、ドイツ社会にとって「緑」の将来が魅力的に映っているということである。そのなかで、環境政党「緑の党」はドイツ国民の夢を叶えることができるのだろうか? それは時が示すことである。ただし、すでに多くのドイツ国民が、国家を環境面で発展させるとする同党へと投票する意思を示している。

最新の政党支持を問うテレビ局RTLとNTVの世論調査では、緑の党が選挙戦のトップとなっており、支持率は28%。続いて、現与党の中道右派のキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟(CDU/CSU)が23%、社会民主党(SPD)が14%となっている。比較のために、2017年の選挙では、CDU/CSUは32.9%、SPDは20、5%であり、同盟90/緑の党の得票率は8.9%に過ぎなかった。これは、その際議会に議席を獲得した6党の中で最も低い得票率であった。

ドイツ連邦議会2021

今年の9月26日のドイツ議会選挙では、議員数は701名となることがすでにわかっている(現在はドイツ史上最大数の709名)。

仮に今選挙が行われた場合、緑の党は210議席の最大会派となる。そして、その場合、保守のCDU/CSUは176議席、SPDは105議席、自由民主党は90議席、左翼党は45議席、ドイツのための選択肢(AfD)は75議席となる。

もし仮にドイツ国民が首相を直接選出できるとしたら、現時点では、緑の党のアンナレーナ・ベーアボック共同党首が16の連邦州の内15州で勝利する。ベーアボック氏の支持は31%、これに対し、アルミン・ラシェットCDU党首の支持は17%、オーラフ・ショルツSPD候補は12%に過ぎない。なお、40%の回答者がこの3名のいずれにも投票しないと答えていることにも注意を向けた方が良いだろう。

これらの数字は、非常に多くのことを物語っている。ただし、第一には、選挙投票日までの期間に、まだ多くのことが起こり得るということを覚えておく必要がある。第二に、最も面白くなるのは、選挙後に各政治勢力が与党連合形成を行い始める時期であるということだ。2017年の経験からして、与党連合形成プロセスは非常に長く、痛みを伴うものとなる可能性がある。

現時点で最も現実的な与党連合の組み合わせは、368議席をとなり得る「緑+黒」連合、つまり緑の党とCDU/CSUの組み合わせであり、その他、「信号」連合(緑、赤(社民)、黄(自由民主))の405議席、あるいは緑・黒・左翼の360議席の組み合わせもあり得る。

他方で、保守のCDU/CSUと社民党と自由民主党(371議席)が、最大議席数となった緑の党を野党として、与党連合を作る可能性もなくはない。

アンナレーナ・ベルボック緑の党共同党首

つまり、議会選挙でトップになった政党が自らの候補を首相にすることは、必ずしも保証されていないのである。

真に活発な選挙戦はまだ始まっていないのだが、旧来の政党から緑の党に対しては、いささか「寛大な」メッセージが飛びかっている。例えば、同党は若い、候補者は若い、政府内での経験がない…といった具合だ。

しかし、旧来政党は気を抜くべきではない。若さや、ステレオタイプからの脱却というのは、昨今の流行だからだ。そして、世論調査は、若者たちが、環境や健康な生活と結びついた未来を選択する傾向があることを示している。

外政

アンナレーナ・ベーアボック緑の党共同党首が、これまで外政について話す機会はそれほど多くはなかった。例外として、独露間で建設されているノルド・ストリーム2に関しては、緑の党は当初から批判してきた。

しかし、同党もあらゆる問題について、自らの立場を明確にして、選挙公約を発表しなければならない時が訪れている。

写真:Christoph Soeder/dpa

特に、ウクライナを巡る最近の情勢は、好例である。最近、ドイツ議会の緑の党会派は、会合を開き、その後ベーアボック氏は記者団に対する発言の際に、ウクライナ問題にも触れている。そして、実際のところでは、彼らは「失敗」を回避できなかった。というのも、ベーアボック共同党首は、ウクライナ東部の欧州安全保障協力機構(OSCE)ウクライナ特別監視団(SMM)の業務への妨害についての発言の際、政府管理地域と一時的に親露武装集団が支配する地域を混同したのだ。もしかしたら、単に言い間違えただけかもしれないが、その時、彼女はその問題を「よく理解していない」印象を与えた。そして、そのようなことはその時に限らず、それ以前にも見られている。

ベーアボック氏は、緑の党の首相候補の候補として選ばれた後、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙の大型のインタビューを受けている。そこで彼女は、自分の外政上優先課題の一つとして、権威主義体制の行動のラインを定める、特にロシアに対する制裁圧力を強化することを挙げていた。その際彼女は、ノルド・ストリーム2プロジェクトを喚起し、ドイツ政府による同プロジェクト支持の立場を批判していた。彼女はまた、ロシアによるウクライナに対する脅威は大きいままだと発言した。しかしながら、その際、ウクライナができるだけ早く北大西洋条約機構(NATO)に加盟したいと思っていることと、ドイツがロシア侵略に対抗するためにウクライナに武器を供与する可能性については、評価を避けていた。

彼女は、「現時点で最も重要なことは、ミンスク諸合意遵守のために、ロシアに対して圧力を強めることだ。現時点の優先課題は安定化だ。それまでは、NATO加盟のステップは非現実的である。ロシアの行動の観点からして、ロシアとの協議は困難であろうが、いかに困難であっても協議は止めるべきではない」と発言していた。

アンドリー・メリニク駐独ウクライナ大使

このインタビューは、アンドリー・メリニク駐独ウクライナ大使に誤解を生ませている。ウクライナは、緑の党を伝統的にドイツにおける最大のウクライナ利益の代弁者だとみなしてきたのであり、大使は、言うまでもなく、同党首からより明確な立場を期待していたのだ。大使は、「がっかりした」と述べ、ツイッター上で、選挙後にドイツ政府の政策が変わるという幻想は捨て去る時が来ており、自らの力を頼りにすべきだと書き込んでいる。

(編集注:なお後日、同党のハーベック共同党首は、ウクライナのNATO加盟と同国への武器供与の問題について異なる見解を示している)。

ベーアボック氏は、連邦安全保障政策アカデミー(BAKS)が主催したディスカッションの際にも、将来の外政の見方について話している。同氏はその際、改めて、気候変動、サイバー攻撃、権威主義体制の脅威について話し、ドイツは自らの安全保障・外政を戦略的に見直すべきだと発言していた。例として、同氏は、EUとロシアの関係を挙げ、欧州の対露政策が消極的であるとして批判していた。同氏は、「私たちは、今、ドイツ政策が、つまり欧州の政策が、積極的に行動するのではなく、対応型の政策となっているのを見ている。クリミアやナゴルノ・カラバフにおける出来事の際に私たちはそれを目にした」と発言した。同氏はまた、緑の党はノルド・ストリーム2に当初から反対しているが、それは環境的な考慮からだけではなく、「そのガスパイプラインがウクライナを孤立させるために利用されるから」だと指摘し、同パイプラインの建設継続は、「致命的過ち」であると形容していた。他方で同氏は、緑の党は、「プラグマティック」に行動していくとし、同プロジェクトに関して「妥協の準備」もあるとも発言している…。

専門家たちは、緑の党が本当に組閣をするのであれば、その際には、魅力的な環境スローガンだけでなく、エネルギー政策に左右される経済問題も扱わなくてはならなくなると指摘している。すると、同党レトリックはいくらか変わるかもしれない。果たして、ベーアボック氏は、揺らぎない立場から後退することは、まだ考えていないのだろうか。

若さ vs 経験

アンナレーナ・ベーアボック緑の党共同投手が、より内政志向であることはよくわかる。ただし、ここでも彼女は、経験を積む必要がある。なお、彼女に経験が不足していることこそを、保守や社民の対立政党や、自由民主党などが揚げ足取りに利用している。

写真:dpa

同時に、その「新鮮さ」こそが、彼女の有利に働く可能性がある。40歳のベーアボック氏は、緑の党40年の歴史において、最年少の首相候補となった。彼女は、感情的で、オープンで、魅力的な人物である。

何とでも言いようのあることではあるものの、「党の顔」というのは意味がある。保守連合のCDUとCSU党首、アルミン・ラシェット氏とマルクス・ゼーダー氏の対立を経て、両党は統一候補としてラシェット氏を選出したのだが、その後同党は支持率を落としている。ゼーダーCSU党首は、ラシェット氏よりもずっと人気があるのだが、CSUはCDUの「妹」政党である。思うに、CDUとラシェット党首は、自らのエゴを克服できず、政権残留へのチャンスを描き続けたのではないか。現時点では、政府に16年残り続けている同党は、妥協をしなければならなくなりそうである。鉄のアンゲラ・メルケル氏とともに、一つの時代が終わりを迎えるのだ。

アルミン・ラシェットCDU党首 写真:dpa
マルクス・ゼーダーCSU党首 写真:bayern.de

ところで、ベーアボック氏は、首相ポストを続けられるのを2期までとする、首相の「時代」の制限を提案している。メルケル氏は、16年政府を率いたが、引退発表をしなければ、もう一度首相に再選することが可能だった。16年というのは、ヘルムート・コール首相(1982〜1998)と同じである。彼らと2年少ないのが、コンラート・アデナウアー首相の14年だ(1949〜1963)。

「緑の」首相は、これまで一人もいない。しかし、緑の党は、政権入りした経験はある。2002年から2005年にかけて、ゲアハルト・シュレーダー社民出身首相の内閣で与党入りしているのである。

前回の選挙から4年、緑の党右派、最下位からトップに飛び上がった。ところで、アンナレーナ・ベーアボック氏は、以前トランポリン競技をやっていたことがあり、大会にも出場したことあるそうだ。彼女のスポーツの経験とエネルギーが同党を勝利に導くであろうか。それは、秋になればわかる。

トップ写真:Annegret Hilse / Pool