【ウクライナ東部ドルジュキウカ取材】前線から12キロメートルの有刺鉄線と手入れされた花壇の町

ウクライナ東部ドネツィク州のこの町が防衛への準備を進める中、住民たちはプラスチック容器で水を運び、本を読みながら、明日を生き延びられるかどうか分からずにいる。

全面侵攻が始まる前、ドルジュキウカは工業都市であると同時に、緑豊かな快適な町であった。ここには5万人以上が暮らしていた。ロシア軍による絶え間ない攻撃は、あたりのあらゆる物を認識できないようにしてしまった。

過去数か月で、この町への攻撃回数は大幅に増加した。ロシア軍はFPV無人機や「グラート」で町を攻撃し、滑空爆弾を投下している。物流ルートや生きとし生けるもの全てを意図的に破壊している。同時に、ドルジュキウカが完全に無人になったわけではない。ガス、水、電気が止まっているにもかかわらず、ここには5000人以上の民間人が残っている。

絶え間ない爆発の下、人々はどのようにして廃墟の中で暮らしているのか。ウクルインフォルムが取材した。

執筆:ハンナ・ボドロヴァ(オデーサ)

写真:ニーナ・リャショノク

「ドルジュキウカ行きのタクシーを手配しましたか?」

クラマトルシクからドルジュキウカへ到達するのは、極めて困難な課題だ。この方面では、ロシア軍があらゆる輸送車両を破壊しようと試みている。しかし、私たちは運が良かった。前日に知り合った軍人たちが助けてくれたのだ。

ドルジュキウカへ向かう道の途中の焼け焦げた車両

若い軍人たちは「ドルジュキウカ行きのタクシーを手配されましたか?」と冗談を言う。防弾チョッキとヘルメットを急いで着用し、車に乗るようにと言われる。私たちは車に飛び乗ると、「吹き飛んだ」。…時速180キロメートルで走る車のことは、それ以外に形容しようがない。

対無人機用のネットが張られた道路の両側には、焼け焦げた装甲兵員輸送車や自動車が転がる。1台、2台、3台……それ以上は数えても意味がないことがわかる。

若者たちは、「この車は昨日まではなかった。これもだ」と言う。「あの装甲兵員輸送車は、夜中にロシア人に焼き払われたやつだ…」

ドルジュキウカに近づくと、二輪カートを引いて町の方向へ歩く高齢女性の姿が見えた。その中にはパンと数本の水入りのプラスチックボトルが入っているのが見えた。

後になって、私たちは、この町では皆がこのような容器を持って移動していることを知ることになる。人々は水を探しているのだ。

地表から消し去られている町

ドルジュキウカに入る。通り沿いには有刺鉄線が張られ、障害物としての有刺鉄線が置かれている。町はロシア軍に抵抗するための準備を進めている。軍人たちによると、方角によって異なるが、占領軍は12〜20キロメートルの距離に迫っているという。この距離だと、敵の光ファイバー無人機が容易に到達できる。それらには電子戦機器が効かないため、ここへの道路は徐々に「キルゾーン」へと変わりつつある。敵は後方の自治体の物流を遮断しようと試みている。

ドルジュキウカ市内には、無傷の建物はもう長らく存在しない。ロシア軍は滑空爆弾、榴弾砲、無人機で町を消し去っている。爆発はほぼ絶え間なく続く。私たちは車を中庭の木の下に隠した。そうしなければ、敵に「狩られて」しまうからだ。そこからは徒歩で進む。若者(軍人)たちは、足元に注意し、音に耳を澄ますよう言う。彼らによれば、今は町は静かだが、状況は一瞬で変わり得るという。

中庭を進む。入り口のそばには、石で囲まれた焚き火の炭が見える。ガスも電気も久しく止まっているため、人々はこのような形で料理している。

中庭では、焼け焦げた自動車や破壊された建物のゴミを背景に、花壇が咲き誇っている。花々が手入れされていることはすぐに分かった。誰かがここに残り、自分の家を愛している。

また中庭には、「水」と書かれた井戸もある。しかし、私たちが調べた井戸は空であった。市軍行政府の情報によると、自治体内には飲料用水の井戸が3か所、技術用水の井戸が12か所整備されており、住民には共同利用の井戸や個人の敷地内にある井戸からも水が供給されているという。

「義母は第二次世界大戦を生き延びたが、この戦争が彼女を連れ去ってしまうだろう」

この町の最初の住民に出会う。自転車に乗った年配の男性だ。かごには、やかん、水用のボトル、食料の包み、そして本が積まれている。自転車の後部にも大きな包みが固定されている。彼は記者に出会ったことに驚いており、私たちもここに地元住民を見かけて同様に驚いた。なぜ人々がドルジュキウカに残り、それでなくても疲弊している防衛者やボランティアの作業を増やしているのか、理解が追いつかない。

挨拶を交わす。男性は、15時から町で外出禁止令が始まるため急いでいるが、まだ多くの用事があると言う。しかし、それでも立ち止まって話をしてくれた。名前はイーホルという。

イーホルさん

「戦争の前、私たちの町がどれほど素晴らしかったか、知って欲しいものだ! 最高の町だった! 公園があり、2本の川が流れる。産業も盛んだった。炭鉱用機器の製造工場、金属製品工場、そして磁器工場。想像してみてほしい、ドルジュキウカには約7万人の人口がいたのだ! しかし今は、ほとんど誰も残っていない」と、イーホル氏は悲しそうに語る。

彼はまた、病をわずらう93歳の義母と73歳の妻の世話をしているため、町にとどまっていると述べる。

「義母に食料を届けるところだ。彼女は寝たきりで、近所の人たちも残っておらず、誰もいない。私だけが通っている。彼女はあの戦争(編集注:第二次世界大戦)を生き延びた。おそらく、この戦争が彼女を連れ去ってしまうだろう」

イーホル氏は町の破壊について穏やかに語る。例えば、これは昨日の滑空爆弾によるもので、広場の近くにあるあのクレーターは1週間前の着弾によるものだという。彼は同じように、知人らの死についても静かに話す。

「市内にはまだ数店舗の食料品店とウクルポシュタ(編集注:国営郵便)の支店が営業している。それだけだ、他には何もない。通信は『不屈の拠点』でしか繋がらない。2か月以上電気がなく、水道も長らく止まっている。水はバプテスト教会の近くにある井戸で汲んでいる。私は今、郵便局を経由して通り抜けようとしているところだ。町から逃げ出したが、全ての物は持って行けなかった近所の女性のために、荷物を送る必要がある。それで少しずつ物を送っている」と語る。

彼は、ここでは略奪行為が多発しているため、安全な町へ避難した知人らの10軒の部屋を見守っていると語る。

「今後どうなるかは分からない。出ていくとなれば、部屋を借りて食事をするための資金が要る。しかし年金は少ない。私は5000、義母は6000(編集注:フリヴニャ)だ。それでどうしろと言うのか?」

かごに入れられている本について彼に尋ねた。

「これは友人と交換するために持っていくところだ。今は日照時間が長いが、夜に何をすればいいと思う? 本を読んでいるのだ。これは戦争について、パイロットについての本だ。真実が書かれている」とイーホル氏は物思いに沈んだ様子で語り、私たちに別れを告げて用事をしに去っていった。

あとから市軍行政府が私たちに伝えたところによると、安全状況の悪化とガス供給の停止により、過去数か月でドルジュキウカからの避難のペースが加速したという。避難はウクライナ国家警察、国家非常事態庁、ボランティア団体(「生命の道」「プロリスカ」「セーヴ・ウクライナ」「ミッション希望の息吹」「クラマトルシク・ボランティア連合」「神からのボランティア」など)によって実施されている。

失われた未来

私たちは「散歩」を続ける。どの中庭でも、破壊された児童用の広場を目にする。誰かが滑り台と階段を自分の小さな車庫に溶接していた。滑り台は現在、おろし金のようになっており、全面を破片が貫いている。車庫の中では、錆びついた子供用のソリがその命を終わらせつつあった。

町の静寂をカッコウの声が破り、銃声がつんざいた。敵のFPV無人機を迎撃しているのだ。軍人たちの指示に従い、少し待つために高い建物に入る。割れたガラスは5階まで片付けられており、そのことから、ここには人が残っているという結論が導き出せる。それより上の階では誰も破片を片付けておらず、アパートの扉は開いたままか、爆風で吹き飛ばされている。それを見るのは辛い。それぞれの部屋で誰かが暮らし、将来の計画を立て、愛し合い、子供を育てていたのだ。今やその全てが、まるで存在しなかったかのように、過去のものとなってしまっている。

市軍行政府のデータによると、5月にドルジュキウカ共同体からは全ての児童が避難させられたという。合計で2669名の児童が避難させられた。全面侵攻までは、同共同体には1万387名の小さな住民が暮らしていた。

軍人たちは本の代金を残していく

若い軍人たちは、建物から出てさらに進むよう合図を出す。かつて図書館だったところを通り過ぎる。窓は金属製の格子ごと吹き飛ばされている。本棚の本は埃を被り、ガラスの破片が大量に降り積もっている。窓枠には、数枚のコインや20フリヴニャ札が置かれているのに気が付いた。

図書館

防衛者たちによると、軍人たちがこのような伝統を維持しているのだという。彼らは本を持っていき、返す時にまるで「年会費」を支払うようにお金を置いていくのだという。誰が窓枠からお金を回収しているのかまでは、彼らは追跡していない。

傷付いた「恋人たち」

ソボルナ広場に到着する。周囲の全ての通りにはネットと有刺鉄線が張られている。ここ、かつての民事登録所の向かいには、ブロンズ製の恋人たちの彫刻がある。これは2019年、「世界プロレタリアートの指導者」(編集注:レーニン)の銅像の跡地に設置されたものだ。

町の全ての新婚夫婦が「恋人たち」のそばで写真を撮影し、それが幸せをもたらすと思われていた。今では、彫刻もまた敵の攻撃によってひび割れている。

「パンはもう持ってこない」

まだ営業している小さな食料品店が見える。そこでの会話は拒否され、店員は私たちの背中に向かって、「あなたたちの首都では、私たちがここで何に直面しているか知っているのに、何も助けてくれない」と叫んだ。

店にパンを届けた男性が不満を漏らしているのが耳に入った。彼は、来る途中で「FPV無人機の攻撃を受けた」ため、車の修理に長い時間がかかると話していた。そのため、パンはもう持ってこないという。

郵便局の最後の数日

私たちは「ウクルポシュタ」(編集注:国営郵便)の支局にも入った。そこでも同様に追い出された。その後、職員の1人が、リスクは理解しているが業務を続けるために残っていると語った。

女性は、「私たちはここで必要とされている。ここにはまだ人がいる。(編集注:民間の)『ノヴァ・ポシュタ』は自動受け取りボックスだけを残して支店を閉鎖した。しかし私たちはまだ持ちこたえている。ただし、いつまで耐えられるかは分からないが。状況は急速に悪化している」と早口で述べた。

アイリッシュはまだある

ドルジュキウカでは、小さな商店のほかに、いくつかの大きめの店も営業している。その1つに向かう途中、人々が避難していくのを目撃した。荷物が上部まで詰め込まれ、猫用キャリーバッグも運ぶ古い「ジグリ」だ。トレーラーには古い冷蔵庫が積まれている。助手席の女性は涙をこらえきれずにいた。

ドルジュキウカの空気は、総じて、人間の悲しみに貫かれているかのようだ。

店ではコーヒーをご馳走になった。

スヴィトラーナさん

「アイリッシュ?もちろん、うちにはまだそういうのもあるよ」と店員のスヴィトラナ氏は誇らしげに語りながら、しかし、もうすぐ店を閉めるとも述べた。

彼女は、クラマトルシクやスロヴヤンシクからの商品は自分たちで運んでいると語る。

「道路で何が起きているか見たでしょう。今日は届けられたけれど、明日は届けられないかもしれない。車に着弾したこともある。車はその後修理した」と彼女は述べる。

店内には、いたるところと同様に破壊の跡が見られる。天井が一部崩落しており、全ての窓は合板で塞がれている。

彼女は、「少し着弾したことがあるのよ。まあ、おそろしかったけど、壁の裏で待って、その後片付けをして、それだけよ。持ちこたえている。仕事があるうちはここにいる。避難するためにはお金が必要だから、稼いでいるの。バルボヴァール(編集注:鎮静剤)を飲んで、前に進むだけだよ」と語る。

コーヒーを飲み終えて、町にある「不屈の拠点」へと向かう。そこは人々が電子機器を充電し、インターネットに接続できる唯一の場所だ。このような拠点は市内に2か所しか残っていない。そのうちの1つは教会の向かいに位置しているが、地元住民の話によると、少し前の土曜日の典礼中にそこへ「着弾」があったという…。

「あまり汚れないようにしないと」

「不屈の拠点」の中は賑やかだ。私たちはここで約30人の人々に出会った。全員が充電を行い、何かを話し合っている。

不屈の拠点

不屈の拠点の当番であるボリス氏は、「ここには1日あたり150人が訪れる。以前はもっと多くの拠点があったが、閉鎖されたり爆撃されたりした。電気、水、ガス、通信がない。残っている全員がここに来る。ここにはスターリンクがあるからだ。町中のみんながプラスチック容器を持って歩いており、バプテスト教会の近くにある井戸で水を汲んでいる。技術用水は川から汲み、私は雨水も集めている」と語る。

人々はどこで衣類を洗濯しているのかと質問すると、男性は微笑みながら「あまり汚れないようにしないとね」と答えた。

また彼は、「最大の問題はトイレだ。建物内の配管が詰まっているが、清掃する人がいない。そもそも公共企業の職員がいないのだ。私には仕事があるから、今のところは残っている」と説明する。

別れ際に、ボリス氏は私たちに幸運を祈り、気を付けるよう、どんな音も聞き逃さないよう助言した。あらゆるものが危険をもたらし得る。

ドルジュキウカ市軍行政府は私たちに、安全状況により、市内での公共サービスの提供は制限されていると説明した。

行政側は、「ロシア軍の攻撃によるインフラの損傷のため、ガス、電力、水の供給は停止している。絶え間ない攻撃や公共機材への着弾、公共サービス従事者の生命と健康への脅威のため、現時点での修理・復旧作業は不可能だ。公共サービスの職員たちは、攻撃被害の除去、地域の美化保全、家庭ゴミの搬出に集中している」と伝えた。

そして、医療は、2か所の市営病院と5か所の診療所で提供されていると付け加えた。加えて、共同体内には医薬品および医薬関連商品の配布拠点が運用されており、住民は無料で医薬品を受け取ることができるという。

廃墟の上の蝶

車に戻る途中、市内のさらに数本の通りを通り抜ける。景色はどこも同じだ。破壊。水を探すまばらな人々。金属製のワイヤー。空の薬莢が散らばったアスファルト。そして、ところどころで見られる、様々な色の夏の花の咲く手入れされた花壇だ。

それらの上を、昨日までは建物であった物を背景にして、蝶が舞っている。あらゆる方角から戦争が迫り来るこの傷ついた町から飛び去るには、彼らの寿命はあまりにも短い。