メルケルからショルツへ ウクライナのドイツ新政権への期待

メルケルからショルツへ ウクライナのドイツ新政権への期待

ウクルインフォルム
ドイツ3党の連立協約にはウクライナについて何が書かれているのだろうか。

筆者:オリハ・タナシーチューク(ベルリン)

ドイツ社民党、自由民主党、緑の党の3党の連立は、その赤黄緑の政党カラーから「信号」と呼ばれる。その3党の協議は、連立協定の採択によって終了した。これにより、これまでにない組み合わせによる次期連立政権の樹立への道が開けたことになる。

過去2か月、政党トップと専門家が集中的に作業してきたその合意文書は、形式的には、まだ党員による確定を要する。しかし、誰かがそれに反対するというようなことはまずあり得ない。そのため、今後、ドイツの人々が聖ニコラウスの日を祝う12月6日頃に、ドイツ議会で過半数を占める連立3党が、オラフ・ショルツ氏を首相に選出する予定となっている。

「信号は作られた、信号は照らしている。」ショルツはこう述べた。彼は、5分間で、1924年にベルリンのポツダム広場に設置された最初の信号のことを思い出したのだ。その最初の信号は、人々の間に大きな懐疑心を産んだが、しかしそれは非常に便利な発明であることが明らかとなった。ショルツは、楽観的に「あらゆる物が素早く移動する現在、信号なき移動というものは想像できない。この『信号』連立もまた、ドイツにとって革新的な役割を担うだろう」と発言した。

記者会見場には、コロナ期にしてはかなり多くの人が集まっていた(ただし、皆がワクチン接種を終えているか、感染証明書か検査の陰性結果を所持していた)。彼らは、喜び、笑顔で、輝かしいドイツの未来への確信を示していた。

ただし、その連立協約に書かれたかなり野心的な課題を履行するのは、それほど容易ではないだろう。

写真:DPA

ウクライナへの支持

私たちにとっては、言うまでもなく、連立協約の「国際」部分が最も気になるところだ。全177ページの同文書の中で、外政と安全保障の箇所は28ページを占める。

そこには、ウクライナについても記述がある。

導入は、若干ぼんやりした内容となっている。「ウクライナ、モルドバ、ジョージアといった、欧州連合(EU)への加盟を望む国々は、一貫した改革支援を通じて、接近できるようにしなければならない」と書かれているのだが、何に「接近」するのかが良くわからない。EU加盟への接近だろうか、それともより緊密なパートナーシップのことだろうか? 楽観的な人なら、行間の中に、ウクライナの「いつか」「将来の」EU加盟に対するドイツの支持、といったほのめかしを読み取ることができるのかもしれない。

読み進めよう。「私たちは、ウクライナの領土一体性と主権の完全な回復を支援し続ける」と書かれている。また、ドイツはウクライナとのエネルギーパートナーシップの深化を望むとあり、そして、「再生エネルギー、グリーン水素製造、エネルギー効率、CO2排出削減の分野における大きな野心」の実現の道を進むとも書かれている。(おそらく、今年8月の米独間の「ノルド・ストリーム2」合意に従ったドイツの義務のことだろう。連立協約の中では、そのプロジェクト自体には言及されていないが、しかし、「欧州エネルギー法は、ドイツのエネルギー政策プロジェクトにも適用される」とは書かれている。)

また、3党は、ロシアに対して、「ウクライナ不安定化の試み、ウクライナ東部における暴力、違法なクリミア併合を速やかに止める」よう要求する項目を書き入れており、さらに、ウクライナ東部紛争の平和的解決への道と、それに関連する制裁の解除は、ミンスク諸合意の完全な履行に左右されると強調した。

興味深いのは、意図的かどうかは不明だが、ミンスク諸合意に関してはロシア関連項目の中で言及されていることである。

ところで、ショルツ氏は最近、ドイツが積極的に支持を表明する多極的世界の伸長の話をした時、ロシア連邦について一切言及をしなかった。同氏は、影響力の大きな国について指摘した際、「多くの人が思っているような、米国と中国のみに限定されるわけではない」と述べ、アジア、アフリカ、南アメリカといった国々の声がますます大きくなっていると発言した。その際、ドイツ次期首相は、大国、影響力のある国を数える際に、ロシアのことをなぜか思い出さなかったのだ。

ドイツ自身は、超大国の役割はどうやら求めていないようだが、しかし、警告をし、危機を静め、「凍結された紛争」を解決する支援を行い、今も紛争がくすぶる場所では財政・人道サポートの拡大などで支援をしていく、そのような役割を担いたいとは考えているらしい。

対露「信号」制裁

アンドリー・メリニク駐独ウクライナ大使は、ウクルインフォルムへのコメントの中で、ウクライナのテーマがドイツ新政府の連立協約の中で重要な位置を占めていること自体を歓迎すると述べた。大使は、「すでにその事実自体が、ウクライナの人々へのサポート、強力な連帯のシグナルなのだ。『信号連立』がクリミア半島とロシアが奪ったウクライナ東部の脱占領化の支援に向けて、強い意志を表明していることが極めて重要だ。クレムリンに対するそのような強力なメッセージは、実に励まされるものである」と発言した。

同時に大使は、ウクライナは、ロシアをクリミアとドンバスから本当に追い出すために、「その妥協ない言葉に従って、非常に具体的で実践的な行動をすぐに実行して欲しい」と思っていると伝えた。大使は、ノルマンディ・フォーマットの完全な作業の速やかな再開、オラフ・ショルツ新首相の参加を得た上でのベルリン首脳会談の開催を提案し、「もしロシアが引き続きわがままに振る舞い、ウクライナ国境沿いで武器を振り回し続けるようなら、ドイツは、ロシアに対する新しい大型『信号』制裁パッケージを主導すべきだ。そうすることで、ロシアの煮えたぎった頭を冷やし、クレムリンを交渉のテーブルに戻さねばならない」と主張した。

さらに大使は、ウクライナはクリミア再統合を目的としたドイツの質的に新しい政策にも期待しているとし、ドイツ新政府に対して、クリミア脱占領に向けたロードマップを用意し、またクリミア・プラットフォームにおける主導的役割を担うよう要請した。

独新内閣の大臣ポスト

連立協約の最後には、省の分割についての記述がある。

オラフ・ショルツ内閣には、首相と首相府長官の他、社民党から6名(内務、国防、建設、労働・社会、保健、経済協力)、緑の党から5名(外務、家族、農業、環境、経済・エネルギー・環境)、自民党から4名(財務、司法、運輸、教育・科学)が入閣する。

前内閣と比べて、閣僚の席が2つ増える。そして「スーパー省」とも言える、経済・エネルギー・環境省が登場し、同省の大臣は緑の党のロバート・ハーベック共同代表が副首相兼務で担うことになる。ハーベック氏は、数か月前にウクライナへの防衛用武器供与を提案したことでドイツ政界にて議論を巻き起こした人物であり、また「ノルド・ストリーム2」プロジェクトを一貫して批判してきた人物でもある。

もう一人、そのガスパイプラインを激しく批判してきたのが、緑の党のもう一人の共同代表、アンナレーナ・ベーアボック氏であり、彼女は外務大臣となる。

それらは、ウクライナにとって良いニュースではあるものの、ノルド・ストリーム2の完全停止やドイツ政府による武器輸出管理の立場見直しを保証するものではない。それでも、ドイツ新内閣に数名の「友」が入閣するというのは、良いことだ。

ところで、「緑」の政治家は、過去にも外相を務めたことがある。1988年から2005年にかけて外相を務めたヨシュカ・フィッシャー氏だ。彼は、副首相も兼務していた。

ショルツ首相は、各閣僚候補の名前を全ては挙げていない。社民党内での協議がまだ終わっていないからだ。緑と自民は、概ね候補者選出を終えている。

記録に届かないメルケル

緊迫した連立協議は2か月にわたり続いた。閉じられた扉の向こうからインサイダー情報が漏れることは全くなかった。3党は、2017年の失敗を考慮しているのだろう。当時、自民党と緑の党は保守政党(キリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟(CDU/CSU))と協議を行っていたが、その協議は数週間後に公の場での対立をもって破綻した。その結果、連立協議は選挙から約半年も経ってから、CDU/CSUと社民党という、別の連立政権の樹立で幕を閉じたのだった。

今回、首相指名は、聖ニコラウスの日の後の1週間の内に投票される予定である(12月6〜12日)。

首相を16年務めたアンゲラ・メルケル首相の最後の閣議は、11月24日に開かれた。今のところ財務相・副首相を務めるショルツ氏は、閣僚全員を代表して、メルケル氏に対し、その国のためのたゆまぬ努力と仕事への謝意を伝えた上で、大きな花束を渡した。

なお、そのアンゲラ・メルケル氏は、その前夜、予想外なことに、新しい連立の幹部と会っている。その時何を話したのかは、明かされていない。もしかしたら、その「鉄の首相」は、新政権に対して、彼女の首相在任期間記録樹立について、手助けしてくれないかと冗談でも言ったのではないだろうか。というのも、もし新首相の任命が12月19日になれば、メルケル氏の首相在任期間は5871日となり、1982〜1998年に首相を務めたヘルムート・コール氏の在任記録5870日を超えることになるからだ。


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