ボルトン回顧録には、ウクライナについて何が書かれているか?

ボルトン回顧録には、ウクライナについて何が書かれているか?

ウクルインフォルム
トランプ米政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を努めていたジョン・ボルトン氏の回顧録は、ウクライナ問題にへのドナルド・トランプ大統領の見方を明らかにしている。

ボルトン氏の『それが起きた部屋 ホワイトハウス回顧録』が米国でようやく発売される前夜には、どうして米司法省がこの本の発売を禁止したがっていたのか、どうしてトランプ氏がボルトン氏の訴追の可能性に言及したのかが明らかとなっていた。

ボルトン氏の本には、トランプ大統領が国益ではなく個人の利益を追求していたと書かれており、トランプ氏に外政問題や国家安全保障問題の知識がないことも暴かれている。ウクライナ問題には一章があてられており、トランプ大統領が誰からウクライナ情勢の情報を得ていたのか、ウクライナ問題がどのようにトランプ氏とプーチン露大統領との対話を阻んでいたのか、ウクライナのポロシェンコ前大統領やゼレンシキー現大統領についてどのような考えがあったのかなどにつき、詳細に記述されている。ウクライナに関してはいくつかのエピソードがあるが、しかし、全体の結論としては、トランプ氏の対ウクライナ政策は間違っていたのであり、それは大災害となりかけていた、と言える。

トランプ氏によるウクライナ問題の理解

ホワイトハウスにおける安全保障担当補佐官というのは、その外政への影響力で言うと米国務長官と比較できるものであり、その影響力は大統領が誰をより信頼するかに左右される。ボルトン氏は、ポンペオ国務長官やその他安全保障関連機関幹部と何度も協議を行なったと書いており、彼らは皆、ロシアの侵略を受けるウクライナを支持する、という一貫した立場を維持していたという。

一方で、トランプ大統領自身は、なぜ米国がウクライナを助けなければいけないのか、何のために2億5000万米ドルの防衛支援が米議会により定められているのかを理解していなかった。トランプ氏は、この資金を米国ではなく北大西洋条約機構(NATO)が払うことすら望んでいたというが、ボルトン氏はそれは「実質的に不可能なこと」と指摘している。

ところで、トランプ氏は、NATOに関しても独自の見方を持っていた。同氏は、財政面を理由にNATOからの離脱さえ欲していたが、補佐官たちが彼を思い止まらせたという。そのトランプ氏に同程度の居心地の悪さを生み出していたのがウクライナ問題であった。

「ウクライナは、私たちとロシアの間の壁だ。」ボルトン氏は、ある会議の際のトランプ氏の発言をこう引用している。ボルトン氏は、大統領はウクライナの状況について深い理解がないと強調している。

同氏はまた、トランプ大統領がインテリジェンス機関代表者たちによる世界情勢の報告に全く意義を見出していなかったと述べる。その報告には、ロシアによるハイブリッド脅威も含まれていた。

米大統領は、情勢把握のために、インテリジェンス機関幹部の報告を毎日聞くことが義務となっているが、トランプ氏はこの会議に苛立ちを示し、毎日の報告を週一回の報告に変えてしまった。ボルトン氏は、この件について「私は、このブリーフィングがそれほど有益であったとは思わないし、インテリジェンス・コミュニティの代表者たちもそう思っていただろう。なぜなら、会議の時間の大半は、トランプ氏が報告を聞くのではなく、(出席者が)トランプ氏の話を聞くことになっていたからだ」と回顧している。

指摘すべきは、ボルトン氏の回顧録が米政権にとって、再度の「暴露テスト」となっている点である。「再度」というのは、米国ではこれまでにも機密情報や秘匿情報であるはずのものが公の目に晒されることがあったからだ。このような暴露は、機微なテーマや協議の詳細を明らかにするだけでなく、大統領の弱点も暴くものである。なお、それは、対抗国である、中国、ロシア、イランなどが利用する可能性もある。

他方で、米国では、秘匿情報がマスコミやウィキリークスなどで明るみに出るケースは少なくない。そのため、政権幹部は、常に法に従って行動することを余儀なくされている。最近の類似の順法事例は、トランプ大統領の弾劾手続の際にあった。米国外交官や政権幹部たちはその時、議会を前に、ウクライナ問題に関連する自身の行動について、公の場で報告しなければならなかった。

そして、それが世界で最大の民主主義国家だと思われている国、米国のルールである。おそらく、それこそが、この国ではあらゆる違法な行動が速やかに暴かれてしまうことの理由であろう。

トランプ氏の情報源とプーチン

トランプ氏が、国家安全保障について自国インテリジェンスや補佐官の報告を聞かなかったのであれば、彼は誰の話を聞いていたのであろうか。ボルトン氏は、大統領がより信頼をしていたのは自らに近い顧問弁護士たちであったと説明している。その弁護士の一人が、ルディ・ジュリアーニ氏であり、彼はトランプ氏と直接面会でき、大統領執務室内で大統領本人としばしば話をしていたという。ジュリアーニ氏によるマリー・ヨヴァノヴィチ当時駐キーウ(キエフ)米大使解任の試みを巡るエピソードは、その見方を補強するものだ。ボルトン氏は、「ヨヴァノヴィチ当時大使はクリントン氏に投票した」「米政権を批判している」、ヨヴァノヴィチ氏は大統領が将来弾劾されると皆に言い振り回している、LGBT問題以外何も仕事をしていないなどという報告がトランプ氏に対して行なわれていた、と書いている。

ボルトン氏は、「3月25日、トランプ氏は私をホワイトハウス執務室に呼んだのだが、私は彼とルディ・ジュリアーニ氏とジェイ・セキュロー氏ともう一人の顧問弁護士が、小さな食堂にいるのを目にした。彼らはムラー(特別検察官)のロシア捜査の報告を、明らかに楽しく議論している様子だった。そのミーティングを見て、私は、ヨヴァノヴィチ氏の噂の発信源がジュリアーニ氏であると確信したのだ」と述べている。

プーチン露大統領とトランプ米大統領
プーチン露大統領とトランプ米大統領

同時に、ボルトン氏は、トランプ氏がロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領に対して特別な態度を有していたが、それを他者と共有することは決してなく、またプーチン氏がトランプ氏の情勢認識に一定程度影響を及ぼしていたと説明している。

回顧録にて、ボルトン氏は、「プーチン氏自身に関する評価について、トランプ氏が自らの考えを表明することはなかった。少なくとも私の前ではなかった」と述べる。続けて同氏は「私は、トランプ氏に見解について聞いたことは一度もなかった。もしかしたら、それを聞くのが怖かったのかもしれない。彼(トランプ氏)のロシア大統領に関する個人的立場は、今も謎のままだ」と回顧している。なお、ボルトン氏は、新たな対露制裁の発動が必要だと説得しようとしたが、トランプ氏は決して支持しなかったとも伝えている。

ケルチ海峡事件へのトランプ氏の反応

ボルトン氏は、(2018年11月末の)ケルチ海峡でロシア側が武器を用いてウクライナ艦船をだ捕し、乗員を捕虜とした事件の際の、トランプ氏のロシアとウクライナへの態度について詳細に書いている。

ボルトン氏は、「最初、トランプ氏は、ウクライナが、将来の大統領選に向けて、自ら本件を引き起こしたとの考えを述べた。しかし、もしかしたら、ロシア側がクリミアの『併合』を合法化しようとして、対立を望んだのかもしれない(とも述べた)」と書いている。ボルトン氏は、その際、黒海における対立について確認の取れた情報が少なく、情報は在キーウ米大使館から届いていたと説明している。ボルトン氏は、「トランプ氏は、たとえロシアに罪があったとしても、迅速に何かを行なうことには関心を抱いていなかった」と回顧している。

ケルチ海峡での事件は、2018年11~12月にアルゼンチンで予定されていたG20でのトランプ氏とプーチン氏の会談の直前に起こったものだった。クレムリンによる新たな明白な侵略行為が行なわれた中で会談をするというのは、ロシアの行動に目を瞑ることを意味するのであり、その実現は不可能であった。しかし、トランプ大統領は、それでもプーチン氏との対話の可能性を模索していた。

ボルトン氏は、「トランプ氏は、私に電話し、プーチン氏が会談前に艦船と乗員を解放すると宣言するなら二者会談実施に同意すると述べた。そのような宣言は、彼らの解放を実質的にトランプ氏が達成したと解釈できるものだからだということだった」と記述している。

結局、ロシア側は、この提案に同意せず、ウクライナ海軍軍人に対する裁判プロセスを開始した。しかし、トランプ氏は、それでもG20の際にプーチン氏との短い対話の時間を見つけ出した。ボルトン氏は、トランプ氏がその後のメルケル独首相との会話の中で、「ウクライナでロシアに親近感を覚える大統領が誕生すれば、第三次世界大戦は回避できるかもしれないし、ロシア人も喜ぶだろう、とほのめかしていた」と伝えている。

ボルトン氏の記述によれば、トランプ氏がケルチ海峡事件の際にロシアに対して厳しい行動を取ることを望まない中で、最終的に米国の概ね強硬な対応を形成するに至ったのは、ニッキー・ヘイリー駐国連米国常駐代表のおかげであったという。ボルトン氏は、ヘイリー氏が政権代表者として最初に弱腰の立場を表明することで、メディアからの批判を受けることを望まなかったのだと伝えている。

親ウクライナのボルトン氏

ウクライナ関連の章にて、ボルトン氏は、ウクライナ独立記念日の際の軍事パレードに米国代表として出席した、自らのキーウ訪問を回顧している。

ボルトン氏は、「マティス(米国防相)は、同様の式典に2017年に参加した際、私同様、米国が断固としてウクライナの独立と能力を今後もサポートすることがどれほど重要か感じたはずだ。ロシアによる一方的なクリミア併合、ロシアのウクライナ東部の『反対勢力』への明白な支援とコントロールを考えれば、この懸念を単なる仮説としておくわけにはいかない」と指摘している。

同氏は、自身の訪問時のウクライナ政権幹部との会談についても記述している。特に、同氏は、ヴォロディーミル・フロイスマン(当時首相)が述べた、ウクライナはプーチン氏にとっての「レッドライン」だとする見解に同意を示している。ボルトン氏は、「もし彼(プーチン氏)がレッドラインを越えることに成功したら、彼は、欧州全体、世界全体における自らの行動は罰せられることはないと感じることだろう。そして、それは、米国において、完全に根拠のある懸念を生み出すことになるのだ」と述べている。

ボルトン氏は、ポロシェンコ大統領が兵器供与につき米国に複数回謝意を伝えたことも回顧している。自著にてボルトン氏は、ウクライナ側との協議の難しさにつき、「ポロシェンコ氏は、より多くの米国の兵器を欲しがっていたが、私たちは、ウクライナの企業が中国に航空機用エンジンの最新の部品を販売していることを懸念していると説明した。その懸念は、私がキーウを訪問するまでの過去1年で拡大するばかりであった」と説明している。

ボルトン氏はまた、ポロシェンコ氏との対話の詳細についても記述している。その際、ポロシェンコ当時大統領は、米国が将来のウクライナ大統領選挙にて自身をサポートする可能性はあるかとボルトン氏に尋ねたそうだが、それに対してボルトン氏は丁寧にその可能性は「ない」と回答したという。

ボルトン氏は回顧録にて、「ポロシェンコ氏が真に欲していたのは、アメリカが、ウクライナのオリガルヒ(大富豪)であり、当時ユリヤ・ティモシェンコ氏を支持していたイーホル・コロモイシキー氏に対して制裁を科すことであった。ティモシェンコ氏は、2019年大統領選挙におけるポロシェンコ氏の主要な対抗馬であった。なお、その時のやり取りでは出てこなかったが、コロモイシキー氏は、(ティモシェンコ氏以外に)ヴォロディーミル・ゼレンシキー氏も支持していた。ゼレンシキー氏は世論調査で人気がトップとなっていたが、しかし、彼は真剣に受け止められていなかった。結局のところ、彼は当時単なる俳優だったのだ」と書いている。

同時に、ボルトン氏は、ゼレンシキー氏を俳優と書いたのはリベラル派の読者に対する冗談だと補足し、「米国で最も認められている大統領の一人であるロナルド・レーガンもまた、俳優であった」と説明した。ボルトン氏はまた、ポロシェンコ氏の依頼に対しては、コロモイシキー氏に関する証拠は全て米司法省に送ることができると返答したと言う。

回顧録の中でボルトン氏は、ポロシェンコ氏について非常に強力な反露的大統領だと繰り返し記述している。

『それが起きた部屋』にはまた、ウクライナやロシアに関する興味深いエピソード以外にも、その他、中国、トルコ、イラン、シリア、ベネズエラ、北朝鮮などといった、ワシントンにとってホットな話題が記述されている。様々な内容の中で、ボルトン元大統領補佐官は、当時ウクライナ問題をホワイトハウスの外政に残しておくことが、どれだけ困難であったかを伝えている。ボルトン氏は、「私は、トランプ氏がウクライナ問題につき、どのように決定を採択していたかにつき、知りたい以上のことを知ってしまっていた」と述べている。彼の念頭にあるのは、言うまでもなく、ジュリアーニ氏からゼレンシキー大統領への圧力の試みに関するものであろう。それは、その後、米国議会にてトランプ氏弾劾の公聴会における主要なテーマとなったエピソードだ。

同時に、ボルトン氏は、当時ホワイトハウスには、ロシア連邦による対ウクライナ侵略の状況や、ロシアによる文明世界への脅威全般を適切に理解する影響力を持つ人物がいたし、彼らは今もホワイトハウスに残っていると述べている。

もしその影響力ある人物たちや、米国議会の主要2党によるウクライナへの支持がなければ、現在のホワイトハウスの長の行動がどのようなものになっていたであろうか。想像するのは難しい。

ヤロスラウ・ドウホポル、ワシントン


Let’s get started read our news at facebook messenger > > > Click here for subscribe

インターネット上の全ての掲載物の引用・使用は検索システムに対してオープンである一方、ukrinform.jpへのハイパーリンクは第一段落より上部にすることを義務付けています。加えて、外国マスメディアの報道の翻訳を引用する場合は、ukrinform.jp及びキャリー元マスメディアのウェブサイトにハイパーリンクを貼り付ける場合のみ可能です。オフライン・メディア、モバイル・アプリ、スマートTVでの引用・使用は、ウクルインフォルムからの書面上の許可を受け取った場合のみ認められます。「宣伝」と「PR」の印のついた記事、また、「発表」のページにある記事は、広告権にもとづいて発表されたものであり、その内容に関する責任は、宣伝主体が負っています。

© 2015-2020 Ukrinform. All rights reserved.

Website design Studio Laconica

詳細検索詳細検索を隠す
期間別:
-