「私はロシア連邦の国益を防衛している」

「私はロシア連邦の国益を防衛している」

ウクルインフォルム
国際共同捜査チーム(JIT)の公開した通話記録は、MH17撃墜捜査や「ウクライナ対ロシア」の裁判の役に立つのだろうか。

ロシアは、ウクライナ東部の武装集団をコントロールしていた。いわゆる「DPR」の指導者は、クレムリンの手中にある傀儡であり、ロシア連邦の命令を直接遂行していた。複数の当時の戦闘員がマレーシア航空機MH17撃墜事件を捜査するJITに証言しており、モスクワからの指示をどのように実行していたかを伝えている。

証言者の一人は、ロシアの連邦保安庁(FSB)とロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が、一つ一つの行動をコントロールしていた、「DPR」の指導者たちは定期的にモスクワに協議をしに行っていたと述べた。

JITは、通信傍受した武装集団構成員とロシア政権高官の会話記録を証拠として公開した。その記録からは、ロシアのMH17事件への関与は明白である。なぜなら、撃墜事件発生当日まで、戦闘員たちはずっとロシアによる武器供給の話をしている。それは実質的にテロへの資金供与である。これは、2019年11月8日に「ウクライナ対ロシア」案件の管轄権を認めた国際司法裁判所(ICJ)の裁判の文脈で非常に重要である。その管轄権の承認をこそ、ロシアは全力で回避しようとしていたのであった。ICJの裁判は、「テロ資金供与防止条約」と「人種差別撤廃条約」の二つの国際条約のロシアによる違反を問うものである。

「DPR」指導者たちは誰と何を話していたのか?国際調査報道グループ「べリングキャット」は、傍受された会話について何を思っているのか?べリングキャット創設者のエリオット・ヒギンス氏は、MH17撃墜へのロシアの関与の証拠をいつ公開するのだろうか?武装集団戦闘員と共謀者たちは、JIT公開の通話記録の中で、困窮に苦しんでいた。彼らは、ほとんど全ての記録の中で、卑語を使っている。

FSB・GRUコントロール下の「DPR」

MH17事件捜査は今も続いており、現在の主要な問題は、地対空ミサイル「ブーク」を操縦していたのは誰か、ボタンを押したのは誰か、命令を出したのは誰か、である。この決定採択プロセスで、ロシアが重要な役割を果たしていることは、JITの、2019年11月14日に公開した通信傍受した通話記録を通じて見えてくる。そこでは、いわゆる「DPR」の指導者たちが、ロシア政権高官とドンバス戦闘員への軍事サポート供与について話をしている。

アレクサンドル・ボロダイ
アレクサンドル・ボロダイ

とりわけ、元「DPR首相」のアレクサンドル・ボロダイと元「DPR国防相」のイーゴリ・ギルキン(ストレルコフ)である。なお、ギルキンは、MH17撃墜関与の容疑で国際指名手配となっている。この二人が、併合されたクリミアでロシアが据えた「首長」、セルゲイ・アクショーノフや、ロシア連邦大統領の補佐官であり、ロシア政権高官のウラジスラフ・スルコフと話をしていたのだ。

公開された2014年7月3日の会話で、ボロダイは、こう述べている。「私は、命令を実行しており、ある国、ロシア連邦の国益を防衛しているのだ。そう、それが全てだ」。

実際、2014年7月10日の記者会見時、ボロダイは、モスクワに行ったこと、ロシア連邦からの支援を待ち望んでいることを述べている。その際、ボロダイは、「私は、政治的協議を行った。非常にうまくいったと思っている。誰と話したかは、私は、もちろん発表しない。私はロシア連邦の近い将来の支援を強く期待している」と述べていた。

彼の望みは聞かれた。ロシアの地対空ミサイルシステム「ブーク」がロシアの支配するウクライナ領に持ち込まれたのだ。そして、2014年7月17日、マレーシア航空機MH17が被占領下ドンバス地方で撃墜される。MH17には、283名の乗客と15名の乗員が乗っており、その全員が死亡した。事件後、「ブーク」は、ウクライナ領から持ち出された。

2018年5月、オランダとオーストラリアは、MH17撃墜事件への関与につき、正式にロシア連邦を断罪した。

ロシア連邦の責任については、公開されたもう一つの通話記録も示している。会話が行われたのは2014年7月1日。特定されていない男性が、「DPR」戦闘員に対して、「ショイグのところから権限を持った人たちが来る。ロシア連邦国防相のセルゲイ・ショイグのことである。そして、地元出身指揮官はモスクワから来た人たちと交代となった。

また不明の人物で、自身を「マキーウカの司令官」と呼ぶ戦闘員は、2名のロシア人の命令を執行しなければならないと強調した。その二人とは、アレクサンドル・ボロダイ(元「DPR首相」)とイーゴリ・ギルキン(元「DPR国防相」)である。

捜査協力に同意した、かつて武装集団に所属していた元戦闘員たちが、JITに語った内容から、「DPR」のあらゆる内部プロセスが、ロシアの特殊機関に厳しく管理されていたことがわかる。そのうちの一人は、「DPR」指導者たちは、定期的にモスクワへ行き、FSBとGRUの中の自らの連絡相手と協議をしていたことを認めた。そのことも、通信傍受された通話記録で裏が取れている。とりわけ、2014年7月18日、「シェリフ」と称する戦闘員と「モンゴル」と称する戦闘員が電話しているものである。彼らは口論を始め、その後、互いに、モスクワのどの機関から指示を受け取っているか明かし合っている。

「そして、おれたちは…直接…もう一週間…全部…モスクワだ、それでおれたちは指令を受けるのだ(以下略)」

「おれたちもモスクワから指令を受けているよ。同じだ」

「でも、お前たちはFSBだろ?そうだろう?」

「そうだ」

「おれたちはGRUだ。ほら、そこが違いだ」

「それは良く知っているよ」

MH17撃墜事件後の2014年8月、撃墜関与の容疑がかけられて国際指名手配されている、いわゆる元「DPR国防相」のイーゴリ・ギルキン(ストレルコフ)は、「DPR」を去っている。そのことにつき、彼は、元「DPR首相」のボロダイに電話で伝えている。公開された通話記録は、2014年8月13日のもの。

ボロダイ「もしもし、お前は今どこだ?」

ギルキン「本部へ戻るところだ」

ボロダイ「本部へ戻るって?」

ギルキン「ああ、ここは終わりだ。コンセプトが変わっている。私たちはもう金持ちの家畜業者ではなくて、貧しい文無し…何と言うっけか…すってんてんだ」

ボロダイ「(略)で、本部へ行くのか?」

ギルキン「そうそうそう。お前も本部へ戻りな。じゃあな!」

ボロダイ「わかったよ。じゃあな。本部へ行こうか」

イーゴリ・ギルキン(ストレルコフ)
イーゴリ・ギルキン(ストレルコフ)

その後、この二人のロシア国民は、ドンバスを離れてモスクワへ行っている。2017年、露ニュースサイト「インサイダー」の公開したギルキンのインタビューで、ギルキンは、ロシアに戻ったのは、「DPR」に新しい首長のオレクサンドル・ザハルチェンコが現れたからだと述べている。なお、ザハルチェンコはその後殺されている。 

ギルキン「彼らは、私に、指揮権をザハルチェンコに渡すように求めたのだ。ザハルチェンコの軍事の才能は、私はゼロだと評価していたし、その評価に間違いはなかったよ。警察の下士官で、私の知る限り、従軍経験すらない人物が、戦闘のコントロールなどできわけがないし、彼が無能という印象を覆すことはなかったよ。」

記者からの質問「あなたの考えでは、どうして、彼(ザハルチェンコ)が選ばれたのだと思いますか?」

ギルキン「うーむ、わからないな。彼はボロダイと一緒にスルコフに会いに行ったんだが、それで、多分、選ばれたんだろう。つまり、形式的な指揮官だ。どうしてそんなことになったのか…。スルコフはいつもクソみたいなやつを選ぶんだよ。」

誰が、ボロダイやギルキンに命令を出していたのだろうか?どうして指揮権はザハルチェンコに渡されたのか?その質問の答えはまだない、少なくとも、公式には。

証言者の発言から、ロシアのいわゆる「DPR」への影響力が非常に大きかったことが判明している。戦闘員たちへの軍事支援だけでなく、指導者たちには特殊通信機器が渡されていた。

保守された電話

ウクライナ保安庁(SBU)が武装集団戦闘員の通話記録を公開し始めた頃、ロシアFSBは、通信傍受の不可能な電話を彼らに供与することを決めた。その電話を使っていたのは、「DPR」の重要人物であった。その特殊通信機器を手に入れた幸せ者は、GRU大佐であり、「DPR/GRU」のトップであり、通称「フムーリー」のセルゲイ・ドゥビンスキーが含まれる。なお、彼は「ブーク」使用管理者であったと思われている人物である。

2014年7月3日のドゥビンスキーの発言記録:

「この私たちのこの電話のこと、知っているか、特殊通信用の?インターネットを通じてだな。保守回線で。(中略)これは特殊電話なんだ。買えないぞ。モスクワから来るんだ。FSBを通じてだな。(中略)ほら、読んで聞かせるよ、誰がいるか。ストレルコフ、ボロダイ、グバレフ、アガプ、チャパイ、それから、クラマトルシク指揮官、コスチャンティニウカの…えー、私の電話と、イズヴァリネ、モズゴヴォイ、それから、スニージュネ、ザハル…そして、『オプロト』、わかったな?(中略)それから、カリミウス、グバレフ…ロストフのグバレフだな?ドルジキウカ指揮官、アクショーノフ、プルギン、えーと、ボツマン、ビス、カリミウス。これらが、今、この直接回線を持ってる者たちだ。それで3つの番号でかけるんだ…」

セルゲイ・ドゥビンスキー
セルゲイ・ドゥビンスキー

このような電話は、ウラジスラフ・スルコフ露大統領補佐官も使っていて、同補佐官は、ボロダイとの会話で、モスクワからの支援を約束している。別の会話では、ロシア国民ウラジーミル・アンテュフェーエフの「DPR閣僚会議第一副代表」(「国家」安全保障担当)の任命の話もある。実質的に、同人物は、その「ポスト」にスルコフの指示で就いている。

明白なことは、ロシアにおいて、誰がいつどのポストに就くかが決められていたということだ。全ての任命は、モスクワの決定を受けていたのだ。

大規模なロシアのコントロールは、MH17事件の捜査、撃墜に罪のある者の捜索において、重要な役割を担う。JITは、ロシア連邦の影響は、「DPR」の運営面、資金面、軍事面に及んでいたと発表した。現在、捜査官たちは、MH17撃墜を起こした命令を誰が出したのかに関し、情報を集めている。彼らは、公開した通話記録における声の主の特定に協力できる新たな証言者を探している。

テロリズムへの資金供与

「DPR」の幹部の一人は、捜査官に対して、「自称DPR」の予算のほぼ全部が、ロシア連邦からきた資金だと述べた。実際、公開された通話記録の中でも、ボロダイが、ニコライという名の男性に対して、金がなくなりそうだと文句を言っているのだ。相手は、モスクワから金が来るはずだと約束している。

国際調査報道グループ「べリングキャット」の創設者であるエリオット・ヒギンス氏は、今回JITが公開した情報は非常に重要なものだと指摘する。同氏は、事実解明のためのオープンソース情報分析に、新たな可能性をもたらすものだと考えている。

ヒギンス氏は、「この情報は極めて重要なものであり、クレムリンによるウクライナの戦闘員たちの直接コントロールを証明するものだ。ウクライナの分離主義者と言われていた人たちが実際にはクレムリンからコントロールされていたことを改めて確認するものなのだ。これはまた、私たちに、今後の行動と捜索のための多くの潜在的可能性を与えるものだし、私たちは、間違いなく、今回の発表をもとにMH17に関する新しい報告書を公開するよ」と発言した。

エリオット・ヒギンス
エリオット・ヒギンス

「新しい報告書が出るのはいつ?」との質問に対して、ヒギンス氏は、すぐに発表できるという確信はないと返答した。

今回発表された通信記録は、2022年に内容面での審議が始まる国際司法裁判所(ICJ)の「ウクライナ対ロシア」案件にとっても重要である。

オレーナ・ゼルカーリ・ウクライナ外務次官は、今回発表の通話記録にて、いわゆる「DPR」の指導者たちがロシア連邦から武器と資金を受け取っていたことが確認されていると指摘する。それはつまり、ロシアによる「テロ資金供与防止条約」の違反である。ゼルカーリ次官は「ロシアの包囲は、狭まり続けており、同国が責任から逃れることはどんどん難しくなるであろう」と述べる。

オレーナ・ゼルカーリ
オレーナ・ゼルカーリ

「今度は、2019年11月8日の国際司法裁判所(ICJ)の判決を思い出してみよう。裁判所は、国家はテロリズムに関与するいかなる人物への支援も慎まねばならないこと、国家は『いかなる人物による』テロ支援行為も防止し、取り締まることを定めていることを、国連安保理第1373決議が定めていることを喚起している。それは、『いかなる人物』とは、国家の高官も含むのであり、その際は、その違反の責任は国家が負うことになる」と発言した。

国際共同捜査チーム(JIT)は、証言のできる者たちに対し、証言することを恐れないよう呼びかけている。JITの公開した動画では、彼らが返答を求める複数の質問が提示されている。

また、安全のための方策についても詳細に書かれており、特に、JITの代表者と正しく連絡する方法についてが記されている。証言は、居住国の外で提供することも可能となっているし、証言者の個人データは秘匿・保守することができるようになっている。証言者保護プログラムの適用も可能だ。

イリーナ・ドラボク、ハーグ


Let’s get started read our news at facebook messenger > > > Click here for subscribe

トピック

ウクルインフォルム

インターネット上の全ての掲載物の引用・使用は検索システムに対してオープンである一方、ukrinform.jpへのハイパーリンクは第一段落より上部にすることを義務付けています。加えて、外国マスメディアの報道の翻訳を引用する場合は、ukrinform.jp及びキャリー元マスメディアのウェブサイトにハイパーリンクを貼り付ける場合のみ可能です。オフライン・メディア、モバイル・アプリ、スマートTVでの引用・使用は、ウクルインフォルムからの書面上の許可を受け取った場合のみ認められます。「宣伝」と「PR」の印のついた記事、また、「発表」のページにある記事は、広告権にもとづいて発表されたものであり、その内容に関する責任は、宣伝主体が負っています。

© 2015-2024 Ukrinform. All rights reserved.

Website design Studio Laconica

詳細検索詳細検索を隠す
期間別:
-