最高会議選挙はどのようなシステムで行われるか 現実的なシナリオは?

最高会議選挙はどのようなシステムで行われるか 現実的なシナリオは?

ウクルインフォルム
今年中に行われる最高会議(国会)選挙。現在、どのような選挙制度で行われるか議論が活発化している。新しい選挙法典案の採択か、別の法案か、これまでの法律を使うのか、改正が行われるのか。ウクルインフォルムが専門家に尋ねた。

大統領選挙は既に過去のものとなった。現在、ゼレンシキー次期大統領の就任式の開催日発表を残すだけである。最高会議は、次の会合週(5月14~17日)にて開催日決定の4つの決議案の審議を行うことになる(その数は増える可能性がある)。2つは、5月19日を、1つは20日を、もう一つ(現職大統領の会派代表登録)は6月1日の案となっている。

そして、ウクライナでは、もう一つの重要な選挙、最高会議選挙が控えており、当然ながら選挙法の話が活発化している。ゼレンシキー次期大統領チームは、新たな選挙法案の採択を主張している。4月初頭、同チームの重要人物の一人である、オレクサンドル・ダニリューク元財務相は、「最高会議選挙は、新たな選挙法典によって行われるべきだ。小選挙区制はなしだ」と発言していた。2週間前には、無所属のボリスラウ・ベレーザ議員が、自身のフェイスブック・アカウントにて、最高会議には、小選挙区制廃止、(政党が議席を獲得するために必要な)閾値の低下、複数政党がまとまって選挙戦を戦うための「ブロック」形成の許可を主張する勢力が現れたと述べていた(編集注:最高会議選挙の現行法のシステムは、450の議席のうち、225を小選挙区制、225を拘束式名簿の比例制(政党が候補者に順位をつける方式。5%の閾値以上票を獲得した政党は、その得票に応じて政党候補者リストの上位から議員を当選させる)で選出するシステムとなっている)。ベレーザ議員は、この選挙制度変更を支持するだけの賛成票は確保できるとの考えを示している。同時に、同議員は、もしゼレンシキー次期大統領が最高会議を解散させたら、選挙制度の変更は間に合わず、繰り上げ選挙は現行制度で行われることになると指摘した。

ベレーザ議員が指摘したシナリオ(新しい法案の採択)の他、シナリオは他に二つあり得る。1つは、既に第一読解を通過している選挙法典案第3112-1を第二読解で投票すべく、4000の修正案の審議を継続すること。あるいは、現行法を改正すること(小選挙区制廃止、非拘束式名簿の比例制採択、比例制における政党が議席を獲得する閾値の低下、等)もあり得る。

ウクルインフォルムは、専門家たちにどのようなシナリオが現在ウクライナにとって最も現実的かつ可能性があるのかを質問した。

オレクシー・コーシェリ市民団体「ウクライナ有権者委員会」代表

「拘束式名簿による完全比例制の実現と閾値の3~4%への低下、あるいは、小選挙区制への決選投票導入」

現在、複数の政党が新しい選挙法典による最高会議選挙の実施を支持している。この選挙法典は、非拘束式名簿による比例制を導入することを定めたものである。しかし、この法典はまだ第二読解を通過していない。同法典案の審議と修正には、少なくとも最高会議の会合が開かれる週が2週、あるいは3週必要である。つまり、理想的な速さでも、その法典案の採択が可能となるのは、選挙戦開始の1か月前となる。そのため、「有権者委員会」は、「非拘束式名簿での選挙実施は、極めて深刻なリスクをもたらす」という立場をとっている。私たちの考えでは、同制度導入の場合、選挙ではなく、大きなカオスが生じるおそれがあり、非拘束式名簿に対する大きな批判が生じ、選挙とその結果に対する非常に大きな不信感を生み出すおそれがある。そのため、選挙法典案は個別に審議するとしても、その導入時期は2020年以降とし、並行して、別の新しい最高会議選挙法案を採択するか、現行法を改正するかした方が良い。

現在、社会に必要な選挙システムはどのようなものか。非常に残念なことながら、ウクライナでは伝統的に、選挙法改正は、「個別の政治勢力にとって得か損か」という形でのみ審議されてしまっている。今年も例外ではない。現在、例えば、比例制の閾値低下、政党候補者名簿を拘束するか否かといった議論が行われているが、この議論は「私たちには得か損か」で行われているのである。その中で、私は、現在最も最適なシナリオは、拘束式名簿による完全な比例制の導入だと思っている。なぜなら、同システムでの選挙は既に行われたことがあるため、有権者が理解できるものだからである。さらに、同システムは運用が難しくない。つまり、2019年10月27日までに導入することは全くもって現実的なのである。そして、おそらく重要なことは、このシステムでは実質的に有権者買収が不可能となることである。現在、小選挙区制は、各選挙区を有権者の票を売買する場所にしてしまっている。過去半年の間でも、有権者委員会は、小選挙区出身議員や出馬を目指すものたちが、有権者を「誘惑」するメカニズムの利用に必死となっている。例えば、食品類を贈ったり、無料の旅行サービスといった慈善行為を行ったりといった形である。私たちは、7月27日の最高会議選挙期間の開始をもって、多様な票の買収技術が例外なく全ての選挙区で生じるだろうことを確信している。そのため、もし拘束式名簿での完全比例制へと回帰したら(編集注:同制度はユシチェンコ大統領時代に一度導入されている)、大きな問題の一つである票の買収問題を解決できる。他方で、その場合も、もう一つの問題である、政党名簿に掲載されるための(政党と出馬希望者間の)「取り引き」の問題は残ることになる。しかし、このシナリオも実現可能性は実は大きくない。なぜなら、繰り返しになるが、100%比例制に回帰するための過半数の票が見つかるというシナリオが描きにくいからである。

より現実的なシナリオとは。私は、小選挙区制への決選投票導入のシナリオだと思う。関連法案は最高会議に既に登録されている。その制度は、小選挙区での競争を高め、「票の誘導」技術の効果を低減することになる。

選挙法におけるもう一つの重要な改正項目は、閾値である。私の考えでは、閾値は下げられるべきである。過去数年、ウクライナには、非常に活発な市民社会が現れている。多くの市民団体、ボランティア・グループ等が政党に変貌しようとしているのである。私は、(比例区で政党が議席を獲得するために必要な投票率の)閾値を3~4%にまで下げることで、彼らにチャンスを与えるべきだと思っている。しかし、それ以上に下げるような実験はすべきでない。なぜか。現在、「野党プラットフォーム・生活のため」党は、この閾値を1%にまで下げることを提案している。これは非常に危険である。なぜなら、国家にとっての潜在リスクが生まれるからである。最初のリスクは、最高会議の細分化である。つまり、非常に多くの会派が最高会議に現れ、与党連合、安定した多数の形成が困難となり、政治汚職も促進してしまう(小政党が与党への加盟への条件に様々なポストを要求したりする)。さらなるリスクは、分離主義リスクである。閾値が非常に低くなると、最高会議に、法的には全国政党でも、実際には地方政党である勢力が入れるようになってしまうからである。

まとめれば、現時点では、最高会議に圧力がかけられ、複数の会派が立場をまとめた場合に、最も現実的なシナリオとなるのは、拘束式名簿の完全比例制への移行であり、その際の閾値を3~4%まで下げることである。閾値はそれ以上下げてはならない。このシステムも、残念ながら完全ではないが、汚職体質の小選挙区制と比べれば、大きな前進となる。

アンドリー・アンドルシュキウ市民団体「センターUA」パブリック・ポリシー局長

「非拘束式・地域名簿による比例制導入が現状・将来にとって最も重要」

選挙法は確かに重要である。選挙が現行法で行われれば、二つの大きな問題を抱えることになる。一つは、議会が、ヤヌコーヴィチ時代の法律で形成されることになり、多くの議員としては非効率な無所属・小選挙区議員が現れ、彼らが自らの利益を模索し、政府の決定にとって非常に問題となっていくことになる。このような議会は、最も非効率なものとなる。また、この小選挙区制と比例制の並存システムでは、議会で親ロシア勢力が伸張するおそれがある。なぜなら、親露候補は無所属候補として小選挙区から出馬し、選挙時には自らのイデオロジー上の傾向は見せず、議会に入ってから正体を現すようになるからである。そして、小選挙区制自体、最も危険なものである。2015年にチェルニヒウ市の補選で繰り広げられたベレゼンコ氏とコルバン氏のむごい闘いが、200回繰り返される様を想像してもらえばいい。

政党間ブロックを認め、閾値を3%まで下げた上での完全比例制への移行に関しても、非常に悲しい過去がある。議員たちがこれにより議席を維持しようとしているのは理解できる。しかし、その移行は、どのような結果になるであろうか。最高会議に入る政党が10~12党となり、それぞれが互いに衝突し合い、与党連合は弱く能力を失い、議会と政府の間に常に危機が生じる。他方で、完全比例制にすると、80%の議員がキーウ出身者になってしまう。このようなシナリオを導入することは、議会への不信を高めることになる。

第3のシナリオは、完全比例制ながらも、「非拘束式・地域名簿」による比例制とすることである(編集注:地域名簿とは、各政党の比例候補者名簿を、全国で1つ作成するのではなく、地域ごとに作成するというもの。各地域の得票率に応じて地域名簿から議員が当選することになる)。これが、私の考えでは、現状・将来にとっての最も重要なステップだと思う。その場合、地域組織をともなった、真の政党機構が生まれることになる。なぜなら、85%の議員が、地方選挙区から当選することになり、政党は地方の利益グループと活動しなくてはならなくなるからである。最高会議時代に現れる政党は、この場合5~7政党に抑えられる。制度変更のための時間はまだある。6月には、最高会議会合の開かれる週が2週あり、あわてることなく法案を採択することができる。その後、中央選管も、新制度での選挙準備をするための時間は十分ある。有権者にとって選挙改革は最も優先されるものの一つであり、社会における抵抗も最小限であることを考えれば、次期大統領と現在の最高会議は、市民の需要を実現すべきである。

ミコラ・ヴィホウシキー市民活動家(選挙改革活動に従事)

「選挙法典案の第二読解採択のための障害はない。可能である。全4000の法案修正は委員会の作業部会でよく作業されている」

ベレーザ議員の述べた案は、単なる案に過ぎない。最終的な合意内容は、現在は予想が困難である。しかしながら、私は、最高会議議員に対して、閾値の低減や政党ブロック形成許可という案について警告したい。これらの案は、最高会議に入る政党数を劇的に増加させることになり、その結果、与党形成と組閣が困難となる。そのような議会は効率的な活動ができず、議会政治の危機の原因となり、それはロシア政権に利用されることになる。そして、政治汚職も消えない。拘束式名簿比例制では、名簿の順位の取り引きが盛んとなり、議会をビジネスの場に変えてしまう。

最善の案は、小選挙区を廃止し、非拘束式名簿での比例制に移行することを定めた選挙法典案を採択することである。同法典案採択の障害はない。4000の修正は委員会作業部会でよく作業されている。

逆説的に聞こえるかもしれないが、選挙法典案は、小選挙区出身議員の一部にとっても利益のあるものである。自身の選挙区での知名度があり、大きなスキャンダルがなければ、旧小選挙区議員も将来の所属政党も多くの票を得ることができる。先送りすることなく、迅速に選挙法典案を採択すれば、秋までに新制度を導入することは十分に可能である。私の中央選管内の情報筋も、新制度を完全に導入する準備があると述べている。

ミロスラウ・リスコヴィチ、キーウ


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