
【ロシア軍の対スーミ州攻勢】スーミまでは到達しないが、絶え間ないテロが生じる
執筆者:ミロスラウ・リスコヴィチ(キーウ)
数か月前に始まったロシア軍によるスーミ州北部への攻勢は、長い間、絶えずウクライナ国民を不安にさせている。分析プロジェクト「DeepState」によると、現在、同州の約190平方キロメートルが占領下にある。「赤」ゾーンには、ホチン、ユナキウカ、ミロピッリャ各共同体の数十の村が部分的または完全に含まれる。同方面の状況は困難だが、しかし、危機的状況と言えるのだろうか? 敵の真の目的は何であり、それはスーミ市への襲撃も予期しておくべきなのだろうか? 著名軍事専門家の分析と共に現在の状況を把握する。
困難だが危機的ではない 状況の比較分析
一見すると、状況はかなり憂慮すべきものに見えるかもしれないが、ロシアの他の作戦との比較すると、その懸念は払拭される。「情報抵抗」グループの軍事分析員であるオレクサンドル・コヴァレンコ氏は、何より投入されている戦力の違いを示す説得力ある統計を提示する。コヴァレンコ氏は、「スーミ州北部の状況は依然として困難であるが、それはロシア占領軍が数的優位を利用していることに起因している。同時に、状況の困難さにもかかわらず、現時点では、それを危機的と呼ぶだけの根拠もない。例えば、2024年5月のハルキウ州北部へのロシア軍の攻勢では、ヴォウチャンシクとリプツィ方面から、敵は1か月で約180平方キロメートルを占領したが、その際の戦力は3万5000人だった。これに対し、スーミ州北部では、敵はすでに6万人以上の兵員を投入しているが、3か月半以上で約190平方キロメートルしか制圧していない。つまり、兵力が2倍あるにもかかわらず、ハルキウ州攻勢時と比較して、前進速度が3分の1に過ぎないのだ」と述べる。

この情勢は、軍事専門家であり、ウクライナ軍参謀本部元報道官のウラディスラウ・セレズニョウ氏も説明している。
同氏は、敵の前進には、ウクライナの防衛を受けた明確な限界があると指摘する。その際同氏は、「幅15キロメートル、深さ6~8キロメートルの戦線で、敵は私たちのスーミ州に侵入できている。それ以上進むことはまず不可能だろう。なぜなら、正にその距離から、以前からここに建設されている工兵技術施設や要塞のネットワークが始まるからだ。(中略)なぜ工兵要塞線がこのような距離にあるのか? それは、(編集注:それより手前だと)国境に近すぎるため、安全上の理由からそれより近くに建設することが不可能だったからだ」と説明する。
すなわち、ロシアの現在の前進は、客観的な理由から強力な防衛線を構築することが不可能だった、国境付近のいわゆる「グレーゾーン」で生じているということだ。現在、敵はウクライナの主要防衛線にぶつかっており、さらなる前進にははるかに多くの資源が必要となるということである。同時に、コヴァレンコ氏が指摘するように、状況は一方的ではない。同氏は、「ロシア領クルスク州内の一部地域は、ウクライナ防衛戦力の支配下にある。例えば、オレシュニ地区だ…。また、私たちの部隊がチョトキノで活動しているという情報もある」と述べる。それは、ここの前線が流動的であり、ウクライナ軍が防御だけでなく、反撃も行い得ることを示している。
その点につき、軍事専門家のセルヒー・フラブシキー氏は、ウクライナの戦術の柔軟性を「非常に粘り強く、機動的な戦闘が行われている。とりわけ、事実上維持できない、あるいはそこに留まることが自殺行為となるような陣地からの撤退も行われている」と描写する。これは後退ではなく、より価値の低い空間を時間と引き換え、敵に最大限の損害を与えるという意識的な戦略であり、現代の機動防御の基礎である。
「ジグリ」に乗る軍隊 ロシアはスーミ州に何を持って来たのか?
敵の能力の限界を理解するには、この方面で活動する「クルスク」部隊の数だけでなく、質も考慮する必要がある。専門家たちは、その編成が深い突破や大型都市の制圧といった任務には合致していないという点で意見が一致している。
コヴァレンコ氏は、壊滅的な評価を下している。同氏は、「その部隊は、主力戦車や装甲車両の定数装備レベルにおいて、ロシア軍の中でも最低水準だ。他方で、火砲は異常なほど充実している」と指摘する。
フラブシキー氏は、これを具体的な数字で裏付けているが、それは攻勢部隊としてはほとんど滑稽なほどで、「6万人の兵力に対し、戦車はわずか120両、装甲戦闘車両は500台に過ぎない」と述べる。
この装甲車両の不足により、ロシアは、この戦争におけるロシア軍の代名詞となった戦術「肉弾突撃」を行わざるを得なくなっている。コヴァレンコ氏が皮肉を込めて指摘するように、攻撃の際、ロシアの歩兵はあらゆる移動可能なものに乗って突撃している。「軽車両、つまりオートバイ、クワッドバイク、バギー、民間車両の『ジグリ』、『ニヴァ』、UAZなどだ」。そして、これらの襲撃は全て、集中砲火、空爆、FPV無人機の援護下で行われている。
ロシアのこのような戦術は、国境地帯の防御をゆっくりと「齧って穴を開ける」ことを可能にするが、大都市への突撃や、十分に準備された防御の奥深くへの突破を試みる場合は、自殺行為となる。
クレムリンの真の目的:スーミを悪夢と化しつつ、予備兵力を拘束する
では、スーミへの突撃が目的でないなら、彼らは一体何のためにこれらのことを行っているのだろうか? その答えは、クレムリンの戦略的優先課題と、その冷笑的な戦争遂行方法にある。専門家たちは、2つの主な目標を挙げている。その1つは作戦・戦略的目標、もう1つは戦術的な目標、事実上のテロである。
戦略的目標:ウクライナ軍を分散させ、予備兵力を拘束すること。
これは、ほぼ全ての専門家が指摘する重要な見方である。
コヴァレンコ氏は、それらの行動の目的は「ウクライナ防衛戦力を拘束し、重要な前線方向への予備兵力の投入を阻止し、後方に予備兵力を維持しなければならない必要性を生み出すことだ。そうすることで、敵は東部、特に現在ロシア軍の主力が集中しているポクロウシク、コスチャンティニウカ、リマン〜クプヤンシク地域における私たちの部隊の増強を妨げようとしているのだ」と説明する。
セレズニョウ氏も、スーミ州はハルキウ州と同様に補助的戦線であり、敵にとっての優先目標は依然としてドンバス地方、特にスロヴヤンシク=クラマトルシク集積地であることに同意する。
戦術的目標:スーミを「死の町」に変えること。
都市を占領できないなら、住むことのできない町にしなければならない、というものだ。ロシア・ウクライナ戦争の退役軍人で、「アイダル」大隊の元隊長であったイェウヘン・ディーキー氏は、その構想を的確に描写する。同氏は、「彼らがそれ以上進むつもりがあるかどうかは、非常に疑わしい。しかし、町自体を『悪夢と化す』、つまり普通の生活に適さないものに変えてしまい、スーミ市民に大量にそこから避難させること。それこそが彼らに現在課せられた課題だ。ロシアのFPV無人機が人々を乗せた路線バスを追いかけ回す(南部)ヘルソンの状況を再現することである。おそらく、ウクライナ軍司令部は、FPV無人機と榴弾砲が市内に届かない距離まで敵を押し戻す方法を考えているだろう。なぜなら、都市が『イスカンデル』やKAB(滑空爆弾)といった人工的なもので『悪夢』に変えられるのと、通常の砲弾やFPV無人機で『悪夢』にされるのとでは大きな違いがあるからだ」と指摘する。

そのためには、ロシア占領軍は具体的な軍事課題を解決する必要がある。
「情報抵抗」グループのコーディネーターで予備役大佐のコスチャンティン・マショヴェツ氏は、ロシア軍は「ユナキウカ周辺の高地に進出し、コスチャンティニウカからヴォロディミリウカにかけての帯状地域で、スーミにできるだけ接近し、榴弾砲だけでなく、戦術空間用の無人機を使って恒常的にスーミを攻撃する能力を得ることを目指している」と説明する。
コヴァレンコ氏は、このテロ計画を詳述する。「スーミ州北部のロシア軍は、FPV無人機を使って重要な物流幹線道路、すなわちR-44、R-61、H-07、H-12の幹線道路と、ローカルな道路を支配下に置くべく接近を試みるだろう。」
防壁と能力の限界 敵にチャンスはあるか?
これまでの全ての情報を考慮すると、スーミ占領の脅威に関する質問への答えは明確だ。コヴァレンコ氏は、「ロシア占領軍は、スーミ市を占領するために必要な資源も、十分な戦闘能力も持っていない」と結論付けている。
専門家たちの見解では、情勢展開はハルキウ州で起こったことと類似のものになるという。すなわち、敵は主要な要塞にぶつかり、そこで攻勢は止まる。コヴァレンコ氏は、「スーミ州でも類似のシナリオ展開となるだろう。初期の機動と戦術的な前進の後、戦略的な成功のないまま、必然的に停止することになる」と考えている。同氏がロシアの攻撃的潜在力が破綻する可能性がある決定的地点として挙げるのは、地形と自然条件が防衛側に有利に働くユナキウカとホチン地域である。
フラブシキー氏もこれに同意する。「州都(編集注:スーミ)が、ロシアの戦車や軍人に囲まれて脅かされるということにはならないだろう。しかし、州都は、ロシアの航空機、多連装ロケットシステム、長距離火砲による絶え間ない攻撃の脅威にはさらされている…。誰もテロは止めていないのだ。」
ただし、占領の脅威がないことは、危険がないことは意味しない。OSINT専門家のヴィタリー・コノヌチェンコ氏は、この方面の強化の必要性を強調している。「ロシア人がスーミ方面で行っている圧力を考慮すると、ウクライナはスーミの防衛にもっと集中する必要がある。幸いにも、スーミ方面に要塞はあるのだが、軍人の言葉によると、長期間効果的に防衛するには十分ではないという。今、またしても軍人の言葉によれば、私たちは正にこの方面を強化する必要があるのだ。無人機部隊を強化し、例えばドネツィク州ですでに機能しており、(敵の数には及ばないものの)私たちのウクライナの光ファイバー(無人機)をここに運び込む必要があるだろう。ドンバスとクルスク地方での戦闘経験を持つ無人機部隊をスーミ方面に移動させなければいけない。」
それは、敵にその戦術的目標である、スーミを絶え間ない砲火に晒す前線隣接都市に変えることを阻止するために必要なことである。
ディーキー氏は、「それを防ぐ唯一の手段は、予備兵力をスーミ州に移動させ、比較的安価かつ大量の手段で、都市に届く距離からオークたちを撃退することだ」と強調する。そして、「あの6万人をロシアの奥深くまで今すぐ追い出す能力は私たちにはまずない。私たちには物理的にそのための兵力が少ないのだ。しかし、押し戻さなければならない」と述べる。
むすびに代えて
スーミ方面の状況分析は、ロシアがここで多層的な作戦を遂行していることを示している。その目的は、州都の占領ではなく、民間人へのテロのための戦術的優位性を確立し、ウクライナの予備兵力を拘束するという戦略的課題を実現することにある。
今日、スーミにとっての主な脅威は、周辺にいるロシアの戦車ではなく、火砲、航空機からの絶え間ない攻撃、そして敵がさらに前進した場合のFPV無人機の大量使用である。状況は厳しい。しかし、ハルキウ州での戦闘経験が示すように、ウクライナの防衛者たちは、そのような攻勢を止め、国境隣接地帯の破壊された村々において、敵の計画をさらなる「ピュロスの勝利」に変えることができるであろう。