「日本はこれからもウクライナと共にあり続ける」=森英介衆議院議長のウクライナ議会での演説全文

日本の衆議院は18日、森英介同議長が9月14、15日のウクライナ親善訪問の際にウクライナ最高会議(国会)で演説を行ったことを報告した。

18日、衆議院公式サイトに森議長のウクライナ訪問の報告と同演説の全文が掲載された。森氏の演説は以下のとおり。


ウクライナ最高会議における森議長演説

ステファンチューク議長、ご列席のウクライナ最高会議の議員の皆様、ロシアによる侵略下にあっても機能し続けるウクライナの強靱な民主主義の中心である最高会議の議場において、全てのウクライナ国民を代表する皆様に対し、日本国会を代表してご挨拶できることを大変光栄に思います。それと同時に、今、この場に、日本国の衆議院議長として立っていることを運命のように感じます。

ウクライナとの関わり

私は、これまでの政治活動において、ウクライナには特別な思いを持って取り組んできました。私が初めて衆議院議員に当選したのは1990年のことですが、その5年後の1995年3月、当時のクチマ大統領の来日を契機として、「日本・ウクライナ友好議員連盟」が発足します。私は議員連盟の設立当初から運営に携わり、以来30年以上、活動を続けてきました。その間、来日されたウクライナの大統領や首相のほとんどの方と面会しております。ゼレンスキー大統領とも、大統領ご就任後間もない2019年10月にお会いしました。天皇陛下のご即位の礼で来日された折、私が友好議連会長として主催した朝食会にお招きし、議連の仲間と共に親しく懇談いたしました。若々しく清廉・誠実なお人柄に触れ、一同、深く感銘を受けたことを思い出します。

2023年には、G7下院議長会議に出席するため来日されたステファンチューク議長から、私と盛山正仁議員に対し、ゼレンスキー大統領からの勲章を授与していただきました。私たちにとって生涯忘れ得ぬ経験であります。当時、私と共に叙勲の栄に浴した盛山議員は、文部科学大臣を務めていた2024年にウクライナを訪問し、ロシアによる侵略後、二度目の訪問として今回私に同行し、本日この議場にも来ております。彼は、2011年に議員連盟の会長となった私と二人三脚で、両国の友好親善のため奮闘したかけがえのない同志であり、本日この議場にお集まりの皆様にご紹介できることを心から誇りに思います。

日本とウクライナの共通点(1):ロシアの隣国であること

ロシアによる侵略が始まって以降、善良な国民が理不尽に傷つけられ、美しい街が、豊かな自然が、人々の営みの結晶である文化が破壊されていく様は、私たちの心に、言葉では到底尽くし得ぬ深い悲しみと強い憤りを刻み続けています。ウクライナをウクライナでなくするが如きロシアの行いは、人類が幾多の悲劇を乗り越え、長い歳月を経て築き上げてきた国際社会の在り方や価値観を根底から覆す蛮行です。力による一方的な現状変更の試みは絶対に許してはなりません。ロシアに対して一歩も引くことなく、情勢や技術の変化に適応し、常に進化を続けながら戦い続けるウクライナ国民の勇気と祖国愛に対し、心からの敬意を表するものであります。

欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は密接に関係しています。北朝鮮については、拉致問題や核・ミサイル問題といった懸案があります。その北朝鮮は、ロシアとの軍事協力を急速に深めています。また、東シナ海や南シナ海において、力又は威圧による一方的な現状変更の試みを許してはなりません。インド太平洋の厳しい安全保障環境に鑑みれば、ウクライナでの出来事は、日本にとって決して他人事ではないのです。

2022年、ロシアによる侵略が始まる2週間ほど前、私は、志を同じくする各党の議員と共に、「ウクライナを巡る憂慮すべき状況の改善を求める決議案」を衆議院に提出しました。ウクライナを巡る緊迫した状況を憂慮し、常にウクライナ国民と共にあることを表明し、力による現状変更は断じて容認できないという内容の決議案であり、日頃多くの課題でぶつかり合う与野党も、この時ばかりは団結し、衆議院の意思として決議を行いました。

その後、2回の総選挙を経ましたが、衆議院の意思は不変です。日本がウクライナと共にあることを改めて内外に示すためにこそ、衆議院を代表する私と、両国関係の発展に尽くす超党派の仲間を代表する盛山議員はここに来たのです。日本とウクライナは遠く離れていますが、ロシアの力による一方的な現状変更の試みを許してはならないという立場は共通しています。我々は、ロシアの揺さぶりに屈することなく、ウクライナ支援を続け、しっかりと両国が連携して毅然と対応していきたいと思います。

日本とウクライナの共通点(2):原子力災害の経験

日本とウクライナは、不幸にして、深刻な原子力災害を経験したという共通点もあります。衆議院議員になる前、私は、民間企業の技術者として原子力の分野に関わっていました。福島第一原発の事故については、技術的な視点からも思うところが多々あったわけですが、東日本大震災発生直後、原発の危機的状況が続く中で私の心を打ったのは、当時のミコラ・クリニチ駐日大使の行動でした。ウクライナに一時帰国していた大使は、まさに震災発生の当日、日本へ帰って来られたのです。原発事故の収束が全く見通せない状況にあっては、東京よりも原発から遠い地域に移ったり、本国に帰ったりすることもできたわけです。しかし、大使は自らの持ち場を離れることなく、東京に留まり、外交官としての職務を全うされたのです。我が国の状況が極めて厳しく、苦しい時に寄り添ってくださった大使の姿は、真の友情とは何かを雄弁に物語るものであったように思います。

震災当時、ウクライナは、国としても、我が国に対して揺るぎない連帯を示してくれました。地震発生から6日後には毛布約二千枚を届けてくださり、その後、放射線サーベイメーター千個、防護マスク千個等の支援物資も送ってくださいました。当時我が国に寄せていただいたご厚情と、支援に携わっていただいた全ての関係者のご尽力について、ウクライナ国民を代表する議員の皆様の前で、改めて心からの御礼を申し上げたいと思います。

日本とウクライナの共通点(3):利用可能なエネルギー資源の乏しさ

私は、日本とウクライナには三つの共通点があると考えています。そのうちの二つは、これまでにお話しした「互いにロシアの隣国であること」、そして「深刻な原子力災害の経験」です。そして、日本とウクライナの共通点の三つ目。それは、潜在的な資源大国ではあるものの、現時点で利用できる国内エネルギー資源は乏しいということです。エネルギーは経済の基盤であり、その供給を海外に依存する国の経済は、国際情勢の変化や他国の政策の動きに、その命運を握られてしまいます。

昨今は、石油やガスといった天然資源はもちろん、精密機器の製造に欠かせない重要鉱物を経済的な威圧の手段として利用する例も見られます。こうした脅威に対抗するため、石油や重要鉱物の備蓄を充実させたり、供給源を多角化したりする動きが、我が国のみならず各国で推進されていますが、それのみならず、新たな技術の開発等によって一つ一つの課題を克服し、持てる資源を最大限活用できるようにする努力を積み重ねていかなければなりません。

科学技術と国民の力で切り拓く未来

この4年余りの間、ロシアに対し、ウクライナの国家と国民は、国の存立が脅かされる危機的な状況にあっても、勇気と祖国愛を原動力として、戦争の現実に適応し、ドローンやロボット、AI等の技術の開発・進化によって、絶えず戦い方を変えながら、国を守り抜いてきました。ロシアによる侵略後、ウクライナが短期間で世界に冠たるドローン生産国となったのは、もともと際立った科学技術の開発力を持っていたのが理由の一つではないかと思っております。

昨日、キーウ工科大学を視察した際、エフゲニー・パトン博士の銅像を拝見しました。私の元技術者としての専門は溶接技術ですが、溶接技術者にとっての神であるパトン博士がウクライナ人であると知って、改めて、ウクライナの科学技術のバックグラウンドに敬服しました。

我が国は、石油危機のような経済的な苦境はもちろん、第二次世界大戦による荒廃、阪神・淡路大震災や東日本大震災のような巨大な災害等を乗り越えた経験があり、復旧・復興についてはどの国にも負けない知恵や技術、実績を持っております。ウクライナが復興のステージに進んだとき、我が国の経験がお役に立つのではないかと自負しております。

ウクライナという国、そして、一人一人の国民が負った傷は深く、大きく、完全に癒えることはないのだろうと思います。ウクライナの驚異的な粘り腰と力強さの陰に、国民のやり場のない憤りや底知れぬ悲しみがあることに思いを致せば、ウクライナの歩みと我が国の歩みを単純に比べることはできません。いや、比べること自体、控えるべきなのかもしれません。しかしながら、日本とウクライナが、科学技術と国民の力によって未来を切り拓いてきたことは事実であり、今後は、両国の協力を通じて国際社会の平和に貢献していけるのではないかと思います。

二国間関係

二国間の協力の地平を広げていくための基礎は、既に築かれています。ウクライナの独立、主権と領土一体性を支持し、「ウクライナと共にある」という姿勢を貫く日本は、G7をはじめとした各国と連携し、人道、財政、復旧・復興の分野で総額約200億ドルのウクライナ支援を表明し、着実に実施しています。また、産業振興、インフラ、食料・農業分野を始めとする分野で官民ミッションが派遣され、ウクライナにおける日本企業の活動が活発化するなど官民一体となった取組に具体的な進展が感じられます。例えば、戦争で荒廃した農地の再生等、農業大国ウクライナの再建のため、日本人の技術者が奮闘しています。こうした協力は、ウクライナの復旧・復興にとって重要なものですが、そこで得られた新たな経験が、今後の協力を一層推進する原動力になることを期待いたします。

加えて、欧州統合に向けたウクライナの改革努力に期待しており、我々としても支援していきたいと考えております。こうした支援を含め、国と国との関係を支え、強固にするのは、人と人との結びつきです。

今、我が国の国技である相撲の世界では、貴国出身の大関・安青錦が、力士最高位の横綱を目指して奮闘し、大いに相撲界を盛り上げ、日本中の注目を集めています。また、毎年国技館で行われている子供たちの相撲の全国大会で優勝を果たした貴国の少年もいます。こうした様々なレベルでの交流が両国の絆を確実に強めてくれています。

民主主義と議会

我が国は、国際情勢が厳しさを増す中においても、自由、民主主義、人権、法の支配といった価値や原則を重視し、これに基づく国際秩序の維持・強化に、一貫して取り組んでいます。我々が共に信じる民主主義は、一人一人の国民の声と政治を繋ぐことによって国民を統合し、国民の持てる力を引き出して、活力ある社会を築くための基盤です。

我々議会は、社会が発展するための基盤としての民主主義の重要な担い手として、国を思い、社会を思い、家族を思い、未来を思う国民一人一人の意思を真摯に受け止め、信頼を獲得し、それを維持しなければなりません。私は議会人の一人として、日本国衆議院の同僚とともに、そして、ウクライナ最高会議の議員の皆様とともに、この不断の取組を地道に続け、法の支配を貫徹し、ひとりひとりの人権が尊重される社会を実現していく決意であります。

結語

お互いの姿に重なるところの多い日本とウクライナが、議会のみならず、エネルギーや科学技術、農業はもちろん、文化・芸術等、幅広い分野において、互いの強みを生かしながら、未来に向けて共に歩んでいくことを、私は願ってやみません。自由と民主主義を守るウクライナ国民への尊敬と連帯の気持ちは、決して変わることはありません。日本国と日本国民は、これからもウクライナと共にあり続けます。ありがとうございました。
 


これに先立ち、14、15日、森英介衆議院議長率いる日本の代表団がキーウを訪問していた。森議長は15日、ゼレンシキー宇大統領とも会談した

写真:ステファンチューク最高会議議長(フェイスブック