とても正しいキーウ区行政裁判所の解体

ウクルインフォルムが専門家にコメントを求める場合、彼らが満場一致で大統領の決定を支持するということは、稀である。しかし、今回、その稀な事例が生じた。長らく待ちわびられた悪名高い裁判所の解体法案についてである。

執筆・聞き手:ミロスラウ・リスコヴィチ(キーウ)

未解体、未改革、良心の欠如…。これら言葉は全て、「キーウ区行政裁判所」、通称「ヴォウクの裁判所」(編集注:ヴォウク裁判長が牛耳っている裁判所の意)を形容するものだ。私たちは、同裁判所の活動が論理的帰結に近づいていることを期待している。ゼレンシキー大統領がとうとう最高会議に、緊急法案として、このウクライナの裁判制度が「自慢」する同裁判所の解体法案を提出したのだ。大統領は、「同裁判所は、信頼を取り戻すことのできず、代わりに、スキャンダルを起こし、正義の理解とはほと遠いおかしな判決を下してきた裁判所だ。同裁判所幹部と関係のある人物の数百万の現金の入った金庫や、裁判官執務室のスキャンダルなやり取りのさらなる記録は、もう沢山である」とし、同裁判所が、国家が達成してきた改革成果を一つの判決でもって葬り去ることができる裁判所となっていることを喚起した。

ウクライナ国民の1.7%しか裁判所を完全に信頼している者がいないということを見れば、ウクライナの司法の問題は極めて深刻であること、その問題は、裁判所そのもの、個別の裁判官、一つの「区行政裁判所」のみにあるわけではないとことを確信できる。2016年に始まった裁判改革は、憲法改正から、複数の新しい機構の設置まで、様々な内容を包括していた。しかし、残念ながら、実際には、裁判所の名前が変わっただけでほとんどの裁判官が自らのポストを維持してしまった。今回、ゼレンシキーは、明確にほのめかしを行なっている。「司法への尊重を裏切ってきた全ての裁判所に対するシグナルだと思ってもらいたい」と述べたのだ。

そのため、あちらこちらで腐り切っており、ウクライナに長らく害をもたらし、現在も激しい抵抗を続ける裁判制度と闘う上で、「ヴォウクの裁判所」の出来事が最後の一歩ではなく、あくまで始まりに過ぎないことを、控えめな楽観的気分で期待したい。

私たちは、大統領の決定への評価、キーウ区行政裁判所の悪名高いヴォウク裁判長はどうなるのか、どのようなリスクを予想すべきかについて、司法専門家たちに質問した。

「ゼレンシキーは、ウクライナ裁判制度の悪性腫瘍をとうとう取り除く」

ヴィタリー・シャブーニン汚職対策センター理事長

大統領の決定は、非常に正しい。私は、立ち上がって拍手したいほどだ。ユシチェンコはその裁判所を解体できなかったし、ポロシェンコはそもそも解体を望まなかった。そこに来て、ゼレンシキーは、ウクライナの裁判制度の悪性腫瘍をとうとう取り除くことができるかもしれないのだ。

どのようなリスクがあり得るか。まず、最高会議(国会)は、その法案を否決することができない。なぜなら、そのような投票行動は、有権者を前にしての自殺行為となるからだ。ただし、投票日を遅らせることは、大いにあり得る。その場合、毎日パウロ・ヴォウク(裁判長)に、ウクライナのほぼ全ての改革を解体するチャンスを与えることになる。その場合、私たちは、全ての改革をやり直さないといけなくなる。

憲法裁判所は邪魔するだろうか? それはないだろう。なぜなら、今回の決定は間違いなく合法だからだ。ウクライナ憲法第125条によれば、裁判所の設置、再編、解体は、ウクライナ大統領が高等司法評議会との諮問の後に最高会議に法案を提出することで行われることになっている。諮問というのは、全くの形式的なものであるし、そもそもその諮問はすでに行われている。2020年11月25日、大統領府は、高等司法評議会に対して書簡を送っており、2020年12月22日、評議会は書簡で返答している。

ヴォウクの裁判所の裁判官はどうなるのだろうか。彼らは、現在一定の地位に就いている。ただし、彼らが判決を下してきた裁判所は、今後消滅する。その後、彼らについて個別に対応することになる。現時点では、まずウクライナの改革に脅威をもたらしている彼らの「不当判決コンベアー」を止めることこそが重要である。ヴォウク(裁判長)本人については、キーウ区行政裁判所が解体されたら、彼は何者でもなくなる。彼は、多くの最悪な汚職行為と起訴済み案件を抱く、干された裁判官なのだ。

同裁判所に今ある案件はどうなるか。私は、キーウ区行政裁判所の案件はキーウ州を管轄する行政裁判所へ移管するのが最も論理的だと思っている。

「長らく期待されていた行動である。司法マフィアと妥協しないことが重要」

ミハイロ・ジェルナコウ市民団体「デユーレ」理事長

(大統領のキーウ区行政裁判所解体に向けた)行動自体は、良い。つまり、大統領が議会に法案を提出したことと、彼が公に、ユーリー・ゾントウとヴォウク裁判長の兄弟の最近のスキャンダルなど、諸々のことにコメントしたことは、良いことである。同時に、今後あらゆることが、司法マフィアとの間で、またしても妥協に陥ってしまわないか、という別の疑問はある。というのも、過去に何度もそういうことがあったからだ。憲法裁判所大統領代表のフェージル・ヴェニスラウシキー氏は、解体後のキーウ区行政裁判所の裁判官を「キーウ市とキーウ州に管轄権を持つ別の裁判所」に移すことが提案されているとすでに発言している。私が理解するところでは、それは「選考なしで」ということのようだが。ただし、まずは法案本文の公開を待とう。現時点では、3つの問題がある。1つ目は、解体後、キーウ区行政裁判所が扱っていた案件がどうなるか、つまり、どこに移管されるのか、誰が暫定で審理するのか、ということだ。2つ目は、キーウ区行政裁判所の代わりはどうなるか、である。新しい裁判所を設置するのだろうか。そうであれば、誰がそれを作るのか、その設置プロセスに、公正性と非公正性の違いをよく理解した国際専門家が加わるのか否か。3つ目は、現在のキーウ区行政裁判所の裁判官をどうするかである。なぜなら、解体は、単にその存在を消すために行われるのではなく、裁判官に公正性についての再評価審査を受けさせるために行われるからだ。つまり、現行裁判官の内、誰を解任するか(キーウ区行政裁判所の場合は、大半となろう)、誰を残すかが論点だからだ。これら全ての疑問に対して回答が得られてはじめて、この解体が本当にサクセスストリーなのか、それともまたしても妥協の産物なのかについて、答えを出すことが可能となる。

パウロ・ヴォウク(裁判長)はどうなるだろうか。私は、今回ヴォウク氏が直面しているのは、単なる「さらなる危険」ではないと思っている。それは、「司法の未来」であり、その未来は彼にとって否定的ものとなるとと思っている。

「キーウ区行政裁判所がなければ、パウロ・ヴォウクは誰にも必要がない。そのため、彼の影響力と繋がりは霧散するだろう」

ヴァディム・ヴァリコ市民団体「アウトマイダン」メンバー、汚職対策センター司法専門家

私は、キーウ区行政裁判所の解体を全面的に支持する。法案が「緊急法案」と定められたことも、肯定的だ。大統領が呼びかけメッセージにて、その裁判所が100%解体されるとと述べたことも、国会の与党議員の大半にその法案の支持を義務付けることとなった。他方で、今のところその法案自体は公開されておらず、さらにコメントすることは控えている。ただ、皆が認識すべきことは、キーウ区行政裁判所の解体は、はじめの一歩にすぎないということである。腐敗した裁判制度の問題は、その解体だけでは解決しない。次に大統領が取るべき行動は、高等司法評議会から尊厳のかけらもない人物たちを完全に排除することと、公正な高等裁判官選考委員会を形成し、空席を埋めることなどでなければならない。

法によれば、全ての裁判官は、同レベルの別の裁判所へ移動させることができる。同時に、裁判官を移動させるには、高等裁判官選考委員会の関連の決定が必要であるが、その決定は今のところない。その決定が出るまでの間、今のキーウ区行政裁判所の裁判官は宙吊りとなり、給与は受け取り続けるが、案件の審理はできなくなる。高等裁判官選考委員会による決定ができたら、キーウ区行政裁判所のほぼ全ての裁判官がそれをパスしなければならない。言うまでもなく、一部は間違いなく解任されるし、残りは移動となる。移動を断った場合は、それが解任根拠となる。問題となるのは、解任の最終決定は、高等司法評議会が下す点だ。

特別な変更がすぐに実現するとは期待すべきではない。ヴォウクは解任されていないし、彼には裁判官不可侵の保証が適用されている。しかし、彼は、これまで同様、反汚職裁判所における政権奪取と高等司法卯評議会・高等裁判官選考委員会への影響力行使の案件の被告である。また、キーウ区行政裁判所「通信傍受」案件も審理される。つまり、ヴォウク氏は、弁護士への支払いをせざるを得ない。他方で、彼はもう、「政治的性風俗」は行えない、つまり、自らのサービスを政権幹部に提案することはできない。キーウ区行政裁判所がなくなれば、パウロ・ヴォウクは誰にも必要のない人物となるのだ。そのため、彼の影響力と繋がりは霧散することになろう。

そして、最後に注意してフォローすべきは、解体直前にキーウ区行政裁判所がどのような判決を下すかである。なぜなら、「全ての難しい問題」に判決を下すかもしれないからだ…。また、どの議員が解体に賛成票を投じないかもよく見る必要がある。つまり、そのような議員とヴォウク、キーウ区行政裁判所には、繋がりがあり、彼らにとってそのような裁判所は「有益」だということになる。