ヘルトオン・フォン・デン・ベルフ、マーテン・サンダース 「スキタイ黄金」裁判のウクライナ側弁護士
ウクライナが最高裁判所でも勝つと信じている
23.11.2021 15:32

7年間の司法戦争を経て、アムステルダム控訴裁判所は、「クリミア 黒海の金の島(スキタイの黄金)」展の展示品をウクライナに返還するよう命じる判決を下した。ウクライナ代表団は、アムステルダムにて、その判決を拍手で迎えた。ウクライナの利益を弁護するオランダの弁護士である、ヘルトオン・フォン・デン・ベルフ氏とマーテン・サンダース氏も、喜びを抑えることなく、ウクライナの勝訴を祝った。

しかし、「スキタイの黄金」を巡る闘いは、まだ終わっていない。控訴裁判所での事件終了は、控訴判決であって、まだ最終判決ではない。クリミアの4つの博物館、タウリダ中央博物館、ケルチ歴史文化保護区、バフチサライ歴史文化保護区、ヘルソネス・タウリダ国立保護区は、オランダ最高裁判所に上告する権利を持っている。ロシアは、今回の控訴判決を「完全に政治的な判決」だとし、クリミアから持ち出された物はクリミアに戻されるべきだと主張しており、ロシアの代表者も上告の意向を隠していない。クリミアの博物館が上告することができる期間は3か月間。この裁判の「綱引き」が続く内は(少なくとも破棄院の判決が出るまでは)、所蔵品はアムステルダムのアラード・ピアソン博物館にて保管され続ける。

本件にて最終判決が下されるまであとどれぐらいかかるのか。次の裁判に向けた準備はどのように行われているのか。オランダ最高裁判所にてウクライナが勝訴するチャンスはどの程度あるのか。ウクルインフォルムは、同裁判でウクライナ司法省やキーウ(キエフ)の弁護士事務所とともに、ウクライナの立場を弁護しているオランダの弁護士2人に、この「スキタイの黄金」事件について尋ねた。

聞き手・写真:イリーナ・ドラボク(ハーグ)

オランダがクリミア併合を認めていないことが裁判にとって重要

あなた方にとって、アムステルダム控訴裁判所での勝訴にはどんな意味がありますか。

ヘルトオン・フォン・デン・ベルフ 控訴裁は、ウクライナが自らの遺産につき自国の「博物館・展示法」にしたがって指示を出し、コントロールする権利があることを認めました。私たちは、同裁判所が本件で、ウクライナの文化遺産権という複雑な問題を理解したことを歓迎しています。裁判所は、博物館の所蔵品はウクライナ博物館基金の国有部分に属しており、同国の文化アイデンティティの不可分の要素である物としてみなすべきとする、ウクライナの当初からの主張を認めました。ウクライナは、主権国家として自らの文化遺産に対するあらゆる権利を持っているということです。

ロシアは、今回の控訴裁の判決は政治的動機にもとづいていると述べています。あなた方は、ロシアのこの声明をどう考えていますか。

マーテン・サンダース アムステルダム控訴裁の判決は、法的基盤に基づいています。オランダが(国際社会の圧倒的多数派と同様)クリミアの併合を認めていないということが、言うまでもなく、裁判所の判決にとって重要な(背景)事情となっています。控訴裁は、展示品はクリミアから送られたものであるから、「クリミアの遺産」として検討すべきであるとし、すなわち、1991年から存在している「ウクライナの文化遺産」である、ということを確立しました。その確立は、ロシアによるクリミア自治共和国の実質的な占領と併合がオランダにおいて法的効力を持っていないことを確認するものです。

国際法はウクライナの立場を完全に支持している

2016年12月には、アムステルダム地区裁判所が展示品をウクライナへ返還しなければならないとする判決を下していました。クリミア裁判所の代表者たちは、その判決を控訴したわけで、それによりアムステルダム控訴裁判所における審理が始まりました。この7年間は、あなた方にとってどの程度大変でしたか。そして、オランダ最高裁判所での審理に向けて、どのような準備をしていますか。

サンダース 本件は、裁判所がウクライナ法と国際法の複雑な法的問題を審議しなければならないという点でも、司法上の挑戦でした。さらに、ウクライナによる2回の裁判官排除の要請を受け、それまでスキタイ黄金事件を扱っていたアムステルダム控訴裁裁判長がその審理プロセスから外されました。その後、私たちは、新しい裁判官たちに最初から本件を説明する必要がありました。

クリミアの博物館は、控訴裁の判決をオランダ最高裁に上告すると述べています。その段階で重要となるのは、(事実関係ではなく)権利問題のみです。私たちは、クリミアの博物館は、ウクライナの「博物館・展示法」の適用を否定してくると思っています。他方で、私たちは、1970年付ユネスコ条約適用が有効である根拠を示します。ウクライナ国内法同様、国際法もまた、ウクライナへの展示品返還が優位であることを示しています。私たちは、最高裁の特別アドバイザーとともに、最高裁審理に向けて準備をしていきます。

お二人の考えでは、いわゆる「ロシアのクリミア博物館」がオランダ最高裁判所で勝つ可能性はどの程度あると思いますか。最高裁判所が彼らに有利な判決を下す可能性はありますか。ハーグ(最高裁)における同事件審理は、どのように展開する可能性があるのでしょうか。

ベルフ アムステルダム地区裁判所も控訴裁判所も、所蔵品はウクライナの国家文化遺産だと認めました。そのため、ウクライナの博物館法、そして国際法は、ウクライナの立場を完全に支持していることになります。私たちは、クリミアの博物館がその論拠を覆すのはかなり困難だと考えています。そのため、私たちは、ウクライナは最高裁でも勝訴すると信じています。

クリミア博物館の主張

クリミアの博物館の主張はどのようなものですか。

ベルフ クリミアの博物館は、クリミア自治共和国が部分的に所蔵品を所有していたのであり、博物館にはその扱いを決める権利があると主張していました。彼らは、博物館のその「緊急管理」権がウクライナ国内法より上位に来ると主張していたのです。彼らはさらに、アムステルダム所在のアラード・ピアソン博物館は所蔵品の返還を保証していたのであり、同博物館は政治的状況とは無関係に契約上の義務を履行すべきだとも主張していました。

ウクライナの主張はどのようなものですか。

サンダース ウクライナの立場は、国際法は現状の送り元の国へ所蔵品を戻すことを義務付けており、所蔵品は国家としてのウクライナに属している、というものです。さらに、私たちは、ウクライナの博物館・展示法により、ウクライナ文化・情報政策省に、クリミア一時的併合期間中における所蔵品の保存手段を定める権限が与えられていることを説明しました。

ウクライナの勝訴を受けたクリミアの博物館の反応はどのようなものでしたか。

ベルフ クリミアの博物館は、政治的状況の犠牲者であり、クリミアの博物館は、同判決を最高裁判所で上告することができると発表しました。

現代の法の歴史におけるユニークな事件

「スキタイの黄金」事件を「前例」と呼ぶことは可能ですか。この事例は、将来の博物館間の関係に影響をもたらし得るものでしょうか。

サンダース アムステルダム控訴裁が、国家は自国の文化遺産を失うリスクがある場合にはそれを取り戻すことができる、と認めたことは、間違いなく重要なことです。裁判所が1970年のユネスコ条約からも結論付けられると判断していたら、より良かったのですが。そうであれば、その判決は、博物館関係における文化遺産交換を促進し得たでしょう。もし博物館が、所蔵品は常に送り元の国に戻さなければならないと知っていれば、博物館や国家が互いに所蔵品を一時的に貸し出し合う際の助けとなるからです。

あなたにとって、この事件において最も重要なことは何ですか。

ベルフ 本件は、現代の法の歴史においてユニークな事件です。私たちが、ウクライナの要件を根拠立てるためにウクライナ法の他に利用した、1970年ユネスコ条約は、類似の事件で適用されたことはこれまで一度もありませんでした。しかしながら、私たちは、類似の事件は同条約が解決しなければならないと確信しています。

ロシアはどのように影響力を行使しようとしたか

オランダの報道機関は、ロシアがMH17事件(編集注:2014年7月のマレーシア航空機MH17撃墜事件)の遺族弁護士を脅そうとしていると報じていました。あなた方は何らかの圧力を感じていますか。「スキタイの黄金」事件に携わることで、何か問題が生じていますか。

サンダース 私たちは、脅迫は一度も感じていませんし、脅迫の兆候も一切ありません。しかし、私たちは、本件もまた、ロシア連邦の関心を大いに引くものであり、彼らが本件を注意深くフォローしていることは、認識しています。

ロシアは、本件にどのように影響力を行使しようとしましたか。

サンダース 私たちは、ロシアによる控訴裁への直接的な影響力行使は見ていません。しかし、ロシア政権は、公の発表を色々していました。特に、キーウ(キエフ)に展示品を渡すことは政治的行為だと発言したり、今後の一切の文化財の一時的利用のための交換、貸し出しを止めると脅したりしていました。例えば、サンクトペテルブルクのエルミタージュ博物館からオランダの博物館への貸し出しなどです。言うまでもなく、そのような発言は裁判に影響を及ぼしていません。

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