ナタリヤ・バス プラハのウクライナ料理店「ボルシチ」共同経営者
チェコにはウクライナ人が多く住んでいるが、これまでプラハに本当のウクライナ料理屋はなかった
16.11.2021 16:05

世界中でウクライナ料理の人気が日々高まっている。その中でも、何より人気なのは「ボルシチ」だ。ボルシチはウクライナの国民食だが、それはしばしば国外では「ロシア料理」だとみなされている。大きなウクライナ人コミュニティーの存在するチェコですら、その状況は同じである。しかし、ウクライナの外交官、料理人、ディアスポラたちの力により、状況は少しずつ変わってきている。

今年9月、あるウクライナ出身の夫婦が、プラハの歴史地区にウクライナ料理レストラン・ビストロとしては初となるお店「ボルシチ」を開店した。クロピウニツィキー市出身のプログラマーのアレクス・マルティノウさんと教師を務めるナタリヤ・バスさんが共同経営者だ。二人は、チェコの首都プラハにはこれまで真のウクライナ料理屋がなく、あるのはソ連料理屋と「ロシアのボルシチ」だけだったと述べる。二人は、自分たちの店では、訪れる客に料理を出すだけでなく、ウクライナ料理についての説明もしているという。

レストラン「ボルシチ」の赤ボルシチ、ホルブツィ(編集注:ロールキャベツ)、シルニク(編集注:ウクライナの丸型チーズケーキ)は、在住ウクライナ人やチェコ人だけでなく、プラハを訪れる外国観光客にも楽しまれている。料理は、店内で食べることもできるし、持ち帰りや、宅配もできる。

レストラン「ボルシチ」には、どのような料理が出されており、どのような営業をしているのか。共同経営者のナタリヤ・バスさんがウクルインフォルムに話してくれた。

聞き手:アンドリー・ペトリンシキー


ウクライナ料理はチェコ人にとって「エキゾチック」

レストラン・ビジネスは常に高リスクのビジネスですが、特にコロナ危機の過去2年間は厳しかっただろうと思います。お二人はレストランの開店をコロナ拡散によって延期したと聞きましたが、しかし、それでも秋に開店しましたね。待つのに疲れたのでしょうか。それとも何か他の理由がありますか。

コロナが私たちを特に妨害したわけではなく、足止めとなったのは店舗の改修作業でした。お店は、プラハの歴史地区にあり、使われなくなった地下室のある築100年の建物で、それまでは7年間、ここにはスリランカ料理屋がありました。この場所は、全てを改修するだけでなく、空調システム、配電、水道管、ガス管も変えなければなりませんでした。言語の壁もあり、修理作業の諸問題を解決するのに、多くの時間がかかり、資金もたくさん必要でした。でも、コロナの影響は特にありません。開店した時には、チェコでは、すでに約600万人がワクチン接種を終えており、防疫措置も緩和されていたからです。

お二人のレストランのコンセプトを教えてください。

チェコ共和国には、大きなウクライナ人ディアスポラ・コミュニティがありますが、これまで真のウクライナ料理屋というのはありませんでした。ウクライナ料理だけ出すお店はなく、ソ連料理や「ロシアのボルシチ」というような「混ぜ物」しかありませんでした。「ウクライナ料理」はチェコの人々にとって「エキゾチック」なものだったのです。そこで、私たちは、ウクライナ文化が、現代的で、柔軟で、面白いものだということを伝えたいと思ったのです。私たちのお店は、壺や花輪の並べられた居酒屋ではありません。私たちは、ボルシチと(メキシコ料理の)ブリートを組み合わせてみたり、お客さんとともに、実験したり、分析したりして、常に学び、成長しています。

レストランの開店に向けて、一番大変だったことは何ですか。財政面ですか。それとも、ロジや書類・手続きの面ですか。

一番大変だったのは、書類・手続きでした。たくさんの許可が必要で、ある許可を得るためには他の許可が必要だったりしました。私たちは、前の賃借人が去ってから、ほぼ一からお店を作りました。費用は、当初の予定より高くなりました。予定額の3倍かかったのです。結局、クラウドファンディングを通じて資金を募らなければならなくなりました。デザインに取り組んだ時は、私たちは、とてもウクライナ的で、同時に現代的で、明るく、フレキシブルなデザインしたいと思っていました。お店は小さいのですが、私たちはその空間を150%利用するために努力しています。

COVID−19はチェコの食生活に影響をもたらしましたか。レストランは今どのように営業していますか。持ち帰りなのか、それともお客はレストラン内で食事ができますか。それとも、どちらも可能ですか。

今はもう、ロックダウン(都市封鎖)はありません。私たちのお店でどんな料理も食べてもらうことができます。コロナは、もちろん食生活にも影響を及ぼしました。プラハの人々は、コロナ禍で一番儲けたのは食事の出前業者だと、冗談を言うほどです。私たちも、最近出前業者と契約を結びました。今後は、私たちのお店でも、店内で食べるか、持ち帰るか、宅配にするかの選択肢があります。

どのような客層がレストランを訪れますか。チェコ人ですか、それともチェコ在住のウクライナ人ですか。お店のコンセプト作成時、どんな層をターゲット層にしようと思っていましたか。

難しいですね。店内がウクライナ人で満席になっていると思える日もありますし、(外国人観光客が多くて)英語のトレーニングをしているんじゃないかと思うような時もあります。チェコ人も私たちのお店に熱い一杯のボルシチを求めてよくいらっしゃいますし、好奇心を持ってウクライナについての本を読まれたり、ウクライナの伝統料理について私たちに質問されたりします。そういう関心を持っていただけるのはとても嬉しいです。この地区に住んだり、働いたりしているベラルーシ人も家族で来店されます。ウクライナ料理についての思い出があり、若い頃にボルシチを飲んだことのある高齢のチェコ人などは、当時と同じような美味しいボルシチがここで作られているか、あるいは、チキン・キーウ(チキン・キエフ)には本当にバターとディルが入っているのか、といったことを確認しに来店されたりします。

多くのチェコ人は「ロシアのボルシチ」しか知らない

最近、世界の情報空間では、ボルシチがウクライナ料理であることを広めるための、ある種の「闘い」が繰り広げられています。チェコでは、人々はボルシチを「ウクライナ料理」だとみなしていますか。それとも、そのことはまだ証明が必要でしょうか。

残念ながら、それは証明しないといけませんね。チェコでも、ソ連の影響が全くなかったわけではありません。私たちへのよくある質問は、「ウクライナのボルシチはロシアのボルシチと何が違うのか」というものです。彼らの大半は「ロシアのボルシチ」しか知らないのです。そのため、私たちには、単にお客さんのお腹を満たすだけではなく、伝達の使命もあるのです。

どの料理が一番人気がありますか。

一番注文が多いのは、牛肉入りの赤ボルシチですね。感動のコメントが一番多いのもボルシチです。ポルチーニ入りボルシチは、ベジタリアン、ビーガンの方々に最もおすすめの料理で、街の端っこからでもわざわざ来店の価値があると思います。ホルブツィは、メイン料理の中で最も人気があります。ウクライナ人は、どうして節約せずに、お米は少しで、こんなにたくさんの美味しいひき肉が詰められるのかと驚いています。人々は、レストランでのこういう料理で肉の量が少ないことに慣れているからです。私たちのお店で一度でもホルブツィやシルニクを食べたチェコ人のお客さんは、再訪し、同じ料理を何度も繰り返し注文されることが多いです。

それから、私たちのお店にはクワスがあります。自家製の生クワスで、お店で最も人気のドリンクとなっています。チェコ人も外国人も、クワスを一度も飲んだことのない人は、興味津々で注文し、飲んでみて、最近流行のコンブチャと比べたり、この変なウクライナの発酵飲料を飲ませようと友人を連れてきたりします。

ウクライナとチェコの食文化はかなり違う

ナタリヤさんの考えるウクライナ料理の特徴や長所は何でしょうか。外国の人がウクライナ料理を口にする時、どんな点が魅力になると思いますか。

ウクライナ文化は、何よりもその背景にある伝統が面白いと思います。各家庭にあるボルシチのレシピ、薄皮で作られるヴァレニキ、特別なリヴィウのシルニク、おばあさんが作る発酵キャベツ…。私たちにとって、ウクライナ料理を人々に紹介することは、私たちの国と私たちの家族の物語を同時に伝えるようなものです。また、私たちは、ウクライナ料理の中で、「禁断の味」と健康食が一体化しているところも気に入っています。

ここでウクライナ料理に適した食材を見つけるのは、大きな挑戦でした。プラハのお店にあるチーズはウクライナの物とは全然違うクリームチーズなので、シルニク用のチーズ探しには1か月以上かかりました。美味しいジャガイモを見つけるのも大変で、あらゆる品種を試す必要がありました。ボルシチやスープに入れるポルチーニも、なかなか見つかりませんでした。しかも、ポルチーニの値段は肉の5倍しました。しかし、ポルチーニなくして、ハリチナ(ガリツィア)地方の料理は紹介できませんから、私たちは、何とか探して、購入しました。魚料理の紹介もしたいのですが、それは今も販売業者を探しているところです。ここでは、フナやニシンより、マグロやサケの方が簡単に見つかります。ウクライナからは、燻製梨など、乾燥果物も取り寄せたいです。ここにはないので。

お店は、食事をするだけの場所ですか。それとも、コンサートや詩の朗読会といった文化イベントも行う予定がありますか。

お店は、かなり小さな場所で、テーブルが数卓あるだけです。私たちは、3部屋ある地下は改修できませんでした。そのため、店内を歩き回ることはできません。ブッククロッシングのために大きな本棚を作ったら、その棚はすぐに埋まりました。今のところ、それが唯一の文化行事です。

ウクライナとチェコの食文化の間には、どんな共通点、相違点がありますか。

ウクライナとチェコの食文化は、かなり異なります。ウクライナでは、10年前だと、レストランへ行くというのは何らかの理由がある時だけでした。他方で、チェコでは、家であまり料理をしないので、昼でも夜でも頻繁にレストランへ通う習慣があるのです。

面白い話をありがとうございます! 多くのチェコ人、ウクライナ人、外国人がお二人のお店を通じてウクライナ料理とウクライナ文化に触れることを願っています!

お店情報:レストラン「ボルシチ」(The Borsch)

住所:U Vodárny 10, 130 00 Vinohrady, 

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