国際連合の数ある部署の中に、「政治・平和構築」という示唆に富んだ名称の局がある。その責任者であり、同時に事務次長を務めるのが、ローズマリー・ディカルロ氏だ。ディカルロ氏はモスクワ、オスロ、そして米国国連代表部で勤務経験のある米国出身の外交官である。
ディカルロ氏は和平への努力を支持し、その構築における仲介役を果たし、加盟国による選挙の実施を支援している。同氏は他の国々のための報告の中で、ロシアがウクライナの民間人に与えている損害と苦痛を伝えている。同氏の4回目のキーウ訪問の際に、ウクルインフォルムは、ウクライナの平和への努力における同氏が率いる局の役割や、国連がその平和構築の使命を達成しているのかどうか、また冷戦時代から紛争がどのように変化したかにつき話を聞いた。
聞き手:イヴァン・コシャキン(キーウ)
写真:キリロ・チュボチン
国連事務総長は、完全で即時かつ無条件の停戦への支持を明確に表明した
ディカルロ事務次長、ウクライナへのご訪問の詳細について聞かせてください。何が達成でき、誰と会談しましたか?
まず第一に、私がキーウへ来たのは、ロシアによる全面侵攻から4年目を迎える中、この特に困難な時にあるウクライナ政府への国連の揺るぎない支持と連帯を示すためです。
ウクライナは私たちにとって他者ではありません。国連事務総長は侵攻開始後、3度ウクライナを訪問しています。私の訪問も今回で4回目であり、これまでに侵攻後に2回、2019年にも1回訪問しました。これは、国連にとってウクライナ国民を支援することがどれだけ重要かを示しています。私たちは、特に私の政治・平和構築局(DPPA)において、関係を強化したいと思っています。
私はまた、第4回国際食料安全保障会議「ウクライナからの食料」にも参加しました。

トランプ氏が米国大統領になって、同氏はウクライナとロシアの間の交渉再開を試みました。政治・平和構築局はこの和平プロセスにどの程度関与していますか?
私たちは、その和平プロセスに直接は参加していませんが、この困難な時期にウクライナを支えています。私たちはここで何が起きているかについて国連安全保障理事会に頻繁に報告しており、ウクライナ国民の苦痛に関して最新の情報を提供するよう努めています。
私たちはまた、人道支援に関連する多くの問題、特に捕虜から解放された軍人のための交渉にも取り組んでいます。
私たちは引き続き、この戦争を終わらせるために必要な全ての支援を提供する準備があります。事務総長は、完全な即時かつ無条件の停戦への支持を明確に表明しています。
ロシア軍がウクライナ人支援のための国連ミッションを被占領下ウクライナ領へ立ち入らせていないことは、事務総長と同氏の事務室に伝えられていますか?
はい、彼は間違いなくそのことを知っています。事務総長と安全保障理事会も間違いなくそのことを知っています。
私たちはブリーフィングで、被占領地にいる住民にアクセスすることが不可能となっていること、彼らの多くが人道支援とサポートを強く必要としていることを強調しています。
ウクライナの主権と領土一体性の尊重が公正な平和の基盤
ロシアによるウクライナとの戦争は、どの様に終わるべきだとお考えですか?
私たちの考えでは、国際的に認められた国境内でウクライナの主権と領土一体性が尊重されることが非常に重要です。それは公正な平和でなければなりません。そして、私たちはウクライナが自国の領土を完全にコントロールした上で、前に進むことができるのを見たいと思っています。

残念ながら、現在の和平イニシアティブの内、いずれのものも、ウクライナが領土一体性を完全に回復することを想定していません。現在の前線での停戦が宣言されることについて、どの様にお考えですか。
それはウクライナ国民とウクライナ政府が決定することで、国連事務局や事務総長が決めることではありません。私たちは、彼らにできるだけ多くの支援を提供したいだけです。
政治・平和構築局は長年にわたり「平和の公式」会合のオブザーバーであり、捕虜交換や児童の帰還をはじめ、ウクライナによる多くのイニシアティブを支援してきました。
ウクライナの国境が回復されず、ロシアの責任が追及されず、国際的な世界秩序が回復されなければ、そこに将来の脅威があるとお考えですか?
私たちは国際法に基づく平和をとても必要としています。その原則は重要です。ウクライナに平和が訪れなければならないのは明白です。
今日の紛争はより複合的になっており、地域全体に拡散している
ロシアは国際法と国連憲章に違反していますが、安全保障理事会において拒否権を保持しています。多くのロシア人が国連の様々な機関で職に就いています。そのことが、あなたの平和構築の目標にとっての障害になっていると思いませんか?
国連におけるいかなる変更も、安全保障理事会の全てのメンバーの立場に基づいていなければなりません。私個人は、近い将来の大きな変更を予測できません。
冷戦下でさえ、国連が安全保障理事会の5つの常任理事国の支援を受けて、数多くの平和イニシアティブに取り組むことができる状況がありました。私たちは再びその協力に戻る必要があると思います。
数多くの紛争の中で、あなたの局はどの様に活動していますか? あなた方の注意が過度に分散してしまっているとは思いませんか?
私たちは現在、主に他者が主導する和平努力を支援しています。例えば、政治・平和構築局はスーダンでの平和確立に積極的に関与しています。私たちは諦めていません。
紛争はより複合的になっています。紛争は二国間で始まり、その後、地域全体に広がっています。より多くのアクターが関与することで、紛争の解決はさらに困難になっていきます。兵器システムの発展のように、他にも問題が多くあります。
冷戦時代でさえ、紛争は今日よりも早く解決できました。状況は非常に複雑です。国際社会は、冷戦終結直後の時期よりも、多くの問題で分断されています。
しかし、私は、私たちが注意を過度に分散しているとは言いません。私たちは、求められる時に、平和の確立に向けた努力を支援しなければなりません。

私たちは紛争予防にもっと注意を払う必要がある
現在の世界の紛争は以前より頻繁に生じていると思いますか? 政治・平和構築局は平和構築の目標に近づいていると思いますか?
それは私たちが問題を解決することをより困難にしています。例えば兵器の改良のように、紛争に影響を与える多くの要因が存在します。
より難しくはなっていますが、それは私たちが目標を達成しないという意味ではありません。政治・平和構築局は数多くのプレイヤーと協力しなければなりません。例えばスーダンでは、アフリカ連合、アラブ連盟、政府間開発機構(IGAD)、国連、及びこの問題の解決を試みている加盟国が存在します。私たちはその取り組みにおいて、より大きな団結を必要としています。
あなたは将来を見据えて、世界での紛争の増加と激化に備えていますか? それとも世界的な緊張の低下に備えていますか?
私たちは緊張の緩和に向けて取り組まなければなりません。1年前、国連総会は「未来のための協定」を採択し、紛争の予防にもっと注意を払うべきであることを明確にしています。しかし、そのためにはリソース、そして最も重要なこととして、政治的支援が必要です。
それは、緊張を緩和し、国内の二者間の武力紛争や地域戦争の挑発を防ぐために、早期段階で時宜を得た関与を行うことです。