米国のトランプ大統領は、プーチンを交渉のテーブルに着かせるという希望を捨てきれないため、ロシアへの圧力をためらっている。同時に、彼は全てが自分の計画通りに進まないことに苛立ちを募らせており、ロシアに対して「イラン・シナリオ」を適用する可能性がある。
トランプ大統領は、ウクライナのゼレンシキー大統領に対しても苛立ちを覚えているが、同時にトランプ氏はゼレンシキー氏の姿勢に感銘も受けている。
米国からの兵器供与は、おそらく今後も続くであろうが、トランプが物事を「取引」で考えるため、有償となる可能性が高い。プーチンは、そのメンタリティから、いかなる取引にも同意しないだろう。彼が戦争を止めざるを得なくなるのは、資金投入ができなくなった時のみであり、それ以外に、この支配者との間に平和は決して訪れない。
そして、戦闘が終結しない限り、トランプ氏によるキーウの訪問もモスクワの訪問も期待しがたい。
このような意見を、2017年から2019年にかけて米国務省のウクライナ担当特別代表を務めた米国外交官カート・ヴォルカー氏が、ウクラインフォルムとのインタビューの際に語った。
聞き手・写真:オリハ・タナシーチューク(プラハ)

戦争の終結はトランプの優先課題の1つ
ヴォルカーさん、ワシントンでは、米国がウクライナとロシアの和平交渉における仲介者の役割を放棄する可能性があると述べられており、トランプ大統領は交渉プロセスからの撤退をちらつかせて脅しています。トランプ大統領がこの戦争への関心を本当に失い、ウクライナへの兵器供与を停止する可能性がありますか?
私はそうは思いません。戦争の終結は、トランプ大統領にとって主要な優先課題の一つです。彼は何度もそう述べています。
彼は、状況が自分のシナリオ通りに進んでいないことに非常に失望しています。ウクライナ、米国、欧州の全てが「戦闘を停止せよ、停戦を達成しよう」と言ったのに、プーチンがそれを望まないことに、彼はとても失望しているのです。
多くの人々がトランプ大統領にプーチンへの圧力を強めるよう助言していますが、彼はそれを行うことを望んでいません。なぜなら、そうすればプーチンを取引に傾けさせることがより困難になると考えているからです。
私は、彼がちょうどイランに対して行ったように行動するだろうと思います。彼はイラン人に対して、「取引しろ、取引しろ」と言いました。彼らがそうしなかったところ、その後イスラエルが攻撃を仕掛けました。そしてトランプ氏は、「言っただろう。取引すべきだったのだ」と述べました。
今、同じことがロシアとの間でも起きていると思います。上院には84人の上院議員がいます。これは多く、ロシアの石油、天然ガス、金融部門に対する制裁強化の法案を支持する用意がある者たちです。そして彼は、その法案を拒否権で覆すことはできません。
ですから、トランプは彼らに青信号を出し、「やりたまえ!」と言う可能性があります。そして彼はプーチンに向かって「私が何に対処しなければならないかを見てみろ。私はあなたに全ての機会を与えたのだから、それらを利用してこの戦争を止めろ。さもなければ、これらの制裁を課さざるを得なくなるぞ」と言うかもしれません。
トランプ政権が上院議員に対し、リンジー・グラム議員らが準備した当該制裁パッケージを緩和するように求めているという報道がありましたが、それはどう受け止めるべきでしょうか?
つい最近、そのことについて聞きました。具体的に何が言われたのかは知りませんが、ともあれ、おそらくトランプ政権は国家安全保障上の猶予を求めているのでしょう。つまり、大統領がこれらの制裁を導入しないことが米国の国益に適うと判断した場合、彼は制裁を解除できるというものです。正直なところ、それは標準的な慣行です。どの政権もそれを行っていますし、それはトランプ氏の場合に特異なことではありません。もしかしたら、彼は行動の自由を得るためにそれを求めているのかもしれません。あるいは、そもそも制裁を導入したくないのかもしれません。これは彼に制裁を交渉の道具として使う能力を与えます。
トランプは物事を取引というくくりでのみ考える
しかし、何らかの措置を導入するための期限は、見ての通り、ずっと延期され続けています。トランプ大統領はいつ、最終的に「もう我慢の限界だ」と言うのでしょうか?
残念ながら、彼はそのようなくくりでは物事を考えていないと思います。大統領は「取引」というくくりで物事を考えています。彼は戦争を終わらせ、長期的な合意を達成し、米国とドナルド・トランプがその功績を認められることを望んでいるのです。
彼は、感情に流されたり、突然「オーケー、今後は新しい政策にする」と言ったりするつもりはありません。彼はこれまで通りに行動し、おそらく徐々にプーチンへの圧力を強めていくでしょう。
私は、彼がウクライナに兵器の購入を許可すると本当に思っています。しかし、もう納税者の資金がウクライナのために使われることはないと思います。
つまり、有償でなら兵器は手に入るということですか?
はい。彼が米国の産業への支援を見て喜ぶでしょうし、兵器販売であれば間違いなくそうです。それは彼が満足することです。しかし、彼はそのために納税者の資金を使いたくないのです。そのため、兵器そのものには何の制限もないと思います。
実際、私が特別代表だった彼の最初の任期中、私たちは対戦車ミサイル「ジャベリン」について話していました。彼が提起した唯一の問題であり、オバマ時代の兵器禁輸措置を解除し、ウクライナに殺傷兵器を供与することについて彼が懸念していたことは、兵器の殺傷能力とは全く関係ないことでした。それは単に「彼らは私たちにお金を返すのか?」ということでした。純粋に資金のやりとりの問題だったのです。兵器の購入を許可することに、問題はありません。
私の議会議員への提言は、ウクライナが私たちから資金を借りて、後で返済することを可能にする法案を可決することです。それなら納税者には何の負担もかけません。私たちはこれを鉱物資源合意に含めることができ、その対価は支払われていると言えるようにすることができます。ですから、それは実行しましょう。そして、トランプ氏が神妙な顔つきで「これについては支払いが行われている。ウクライナ人がこれを購入し、資金は米国の防衛産業に向かっている」と言えるならば、彼は同意すると思います。彼はそれを「売り込む」ことができるのです。
プーチンとの真の平和は決して訪れない
あなたはまた、近い将来に平和が生じることは信じられないとも言いました…。
プーチンとの間での真の平和は不可能だと私は信じています。無理です。
彼には、あの絶対主義的で誤った歴史的・政治的ナラティブがありますし、ウクライナとそのナショナルアイデンティティを消滅させ、あたかもウクライナが常にロシアの一部であったかのように見せたいという願望もあります。ですから、彼はそのこと以外のどんなことにも同意することはないでしょう。
よって、ノー、私は、あのようなメンタリティ(編集注:のプーチン)と平和が生じるとは思いません。彼は戦争を志向しています。
しかし、停戦は達成可能だと思います。
今年の終わりまでにですか?
ええ。そう願っています。
単なる象徴的な3日間の一時停止ではなく、より真剣なものに彼が同意せざるを得なくなるとすれば、それはどのような条件下ででしょうか?
プーチンの資金がなくならなければなりません。
今、彼はこの状況を乗り切れると思っています。彼は夏の攻勢を計画しています。彼は制裁を回避し、依然として石油を販売しています。彼は、トランプ政権が制裁に真剣になるかどうか、あるいは西側が疲弊するかどうかを見ています。彼は自分には時間があると思っています。
しかし、もし彼の外貨準備が約100億ドルまで減少し、さらに減り続けるならば、彼はロシアの支払い能力を危険にさらすことは望まないでしょう。資金がなければ、彼は国を運営できなくなります。彼が打倒されるような軍事的脅威はありません。体制転換も、「カラー革命」も、核の対立もありません。
その時、彼は、「善意の表れとして、ウクライナ人がいるべきではない地域から避難することを許可するため、戦闘を30日間停止する」のようなことを述べる手段を見つけるでしょう。その手のことを言うと思います。
しかし、ウクライナ人はそれに同意しないでしょう。
もちろん、同意しません。しかし、彼は自分のナラティブを思いつくでしょう。

「ミンスク3」は生じない
あなたはミンスク諸合意の時代の特別代表でした。「ミンスク3」やそれに似たものが生じるおそれはあるでしょうか?
銃撃が止まったらすぐに、再発を防ぐべく、私たちは「壁」を強化せねばならない。
さらなる「ミンスク(合意)」は必要ありません。そして、真の合意は生じないでしょう。ですから、そのことを心配する必要はありません。
私たちは戦闘を停止し、将来のあらゆる攻撃を抑止するために、私たちの力がロシアのそれを凌駕していることを示す措置を導入しなければなりません。これは政治的、経済的、軍事的なものであるべきです。
銃撃が止まったらすぐに、全てが再び始まることのないように、私たちは「壁」のこちら側を強化しなければなりません。
米国の兵器を使ってですか?
米国の兵器。ウクライナの兵士。欧州の安全の保証で。おそらく、訓練、装備、防空のためにウクライナに展開される欧州の部隊さえも。そのいずれもアメリカの支援を受ける形で、です。
「特別代表」についてですが、最初から全てがうまくいっていなかったのではないかと思います。1人だったのが2人になり、ロシアはキース・ケロッグ氏を拒否し、別の人物(編集注:スティーヴ・ウィトコフ氏)を得ました…。あまりにも多くの人が関わっていて、何も進んでいないのでは?
ケロッグ氏であろうと、ウィトコフ氏であろうと、ルビオ氏であろうと、あまり注目しない。決定を下すのはトランプ。
その通りです。何も進んでいません。そして、唯一かつ真の意思決定者はトランプ氏です。
私は、それがケロッグ氏であろうと、ウィトコフ氏であろうと、ルビオ氏であろうと、他の誰であろうと、あまり多くの注意は払いません。決定を下すのはトランプなのです。そして彼は本当に取引を望んでいます。彼は交渉の結果として取引を成立させたいのです。だから彼は努力し続けるでしょう。
しかし、私には大きな確信があります。プーチン氏はいかなる取引にも決して同意しないでしょう。彼は、彼に全てが明け渡されることを期待して、ひたすら要求を高め続けていくだけです。同時に、彼は何も明け渡さないでしょう。
トランプはゼレンシキーを気に入っているが、同時に失望もしている
トランプがゼレンシキー大統領を単純に嫌いなように見えますが、そのことが状況をさらに複雑にしていませんか?
実際、トランプ氏はゼレンシキー氏を気に入っていると私は思います。私の見方では、彼はゼレンシキー氏が弾劾手続き中に彼を陥れようとしなかったことを評価しています。彼は、ゼレンシキー氏が自国を防衛している手段、彼が世界にウクライナを支援させている素晴らしい「取引エージェント」であることに感銘を受けています。
しかし、同時に、彼はゼレンシキーに失望しています。なぜなら、トランプはただ殺戮を止めたい、それを止めたいからです。
そのために彼は兵器を提供したがっていません。もしウクライナが戦闘を停止することに同意するなら、彼はそれを売る用意があります。
それは悪循環ですね…。
そうです。ゼレンシキー氏に戦争を止める力があるわけではないのです。
しかし、あの大統領執務室での会談以来、彼らには何度か話す機会がありました。そして、私の意見では、今や彼らの間には共通の理解があると思います。ゼレンシキー氏は、もし停戦が宣言されれば、トランプ氏がそれを受け入れることをわかっています。そして、トランプ氏は、ゼレンシキー氏がそのような選択肢を選ぶ用意があることを知っていますし、今では「よし、必要な兵器を購入して良い。お金を借りろ、資金を見つけろ。ロシアが『停戦への用意がある』と言った場合に備えて行動する用意だけはしておけ」と述べる用意があるのです。
そして、私の見方では、これは実際双方が受け入れられる立場だと思います。それは正常だと思っています。
戦争中にトランプがウクライナを訪問することを想像できますか?
ノー、ノー、ノー。彼は訪問しないでしょう。
彼はプーチンと、そしてウクライナとも話せる能力を維持したがっています。彼はプロセスの上に居続けたいのです。彼はほぼ毎日「これは私の戦争ではない。私が始めたのではない。これはバイデンの戦争だ」と言っています。彼は訪問しないでしょう。
では、彼がロシアを訪問する可能性はありますか?
停戦が実現しない限り、彼がプーチンと会談することはないと思います。
間違っているかもしれませんが、改めて、それはあまりにも大きな譲歩になると思います。戦争継続中にプーチンとの二国間会談、首脳レベルの交渉? ないでしょう。彼の目的は戦争を止めることです。そして、もしプーチンがそうしないなら、私の意見では、会談は生じません。