松田邦紀駐ウクライナ日本国特命全権大使
日本とウクライナの関係は「グローバル」であり、全世界のことで協力し合っていく
26.04.2023 14:31

3月、ウクライナを「G7最後の侍」が訪れた。岸田文雄日本首相は、キーウでゼレンシキー宇大統領と会談を行い、またブチャも訪れた。他方で同日、中国の習近平国家主席がモスクワに滞在し、犯罪者・侵略者のプーチンと握手をしたことから、そのキーウとモスクワの2つの会談の鮮やかな対比が、日本ウクライナ首脳会談の結果自体から人々の注意を少し逸らしてしまっていた。ただし、日本の首相が前回ウクライナを訪問したのは2015年であり、両国首脳が共同声明を発出したのは2011年ぶりであった。そこで、ウクルインフォルムは、松田邦紀駐ウクライナ日本国大使に、今回の訪問の重要性、会談結果のポイントや新しい支援、ウクライナ日本関係の展望について質問することにした。

聞き手:平野高志

写真:ヘンナジー・ミンチェンコ


ブチャでの総理は、これまで見たことのない厳しい顔つきだった

日本の岸田総理がウクライナを訪問されました。松田大使も、ゼレンシキー大統領との会談含め、ずっと首相と同行されていましたね。今回の訪問は、日本にとってどのような意味があったのでしょうか。

今回の全面的な侵略戦争が始まって以来、岸田総理はもちろんのこと、日本の政府も国民もウクライナに寄り添って支援をしていくという姿勢でずっと行動してきました。総理ご自身が、ウクライナの実際の状況を見て、ゼレンシキー大統領をはじめとするウクライナ政府関係者の今の思いを直接聞けたことに極めて大きな意義がありました。今回の訪問により、日本として引き続きウクライナをしっかり支援していくという思いを強くすることができました。

また、G7議長国としても、G7の議論をしっかりとリードしていかなければいけないということを確認できたことが、今回の訪問の大きな意義だったと思います。総理は、何としてでも広島のG7サミットまでにはウクライナに行かなければいけないという強い気持ちをお持ちでしたから、(訪問が実現できて)本当に良かったと思います。

岸田首相は、ブチャにて「強い憤り」を感じたとおっしゃっていました。ブチャ訪問時、岸田首相に強い感情が湧いた様子に気付かれましたか。また、大使ご自身はブチャ訪問時に何を感じられましたか。

ブチャで関係者の皆様から悲惨なお話を聞いている時の総理は、これまで見たことのない厳しい顔つきで、真剣に耳を傾けて、自分で何かをしっかりと思い定めているという雰囲気でした。その後の記者会見の場で、総理は、ブチャにて侵略が実際何を引き起こしたのかということを目の当たりにして暴挙であることを強く感じた旨おっしゃっていましたけれど、(総理の感情は)その言葉に如実に現れていると思います。

私も、総理とともにブチャで聖アンドリー教会の教区司祭の説明を聞いていましたが、司祭の青い目にぬぐいようのない悲しみの色が浮かんでいるのを見て、本当に言葉にならなかったですね…。

同時に、ブチャの市役所の関係者のお話から、皆さんが悲しみを乗り越えて、市の再建に向けて動き出しているいうことも感じることができ、私は個人的に勇気づけられました。今、改めて大使館として、ブチャ市の再建のために何ができるのかについて、具体的な検討に入っています。

ゼレンシキー・岸田会談は2時間40分行われたと発表されています。会談は、どのような雰囲気でしたか。

岸田総理とゼレンシキー大統領は、これまでオンラインで何度か話をされていますけど、対面での会談は今回が初めてでした。横から拝見しましたが、総理と大統領の間に相互の信頼と尊敬の気持ちがしっかりと表れていて、とても良い雰囲気で会談ができたと思います。大統領が総理にとても気を遣っておられるのもよくわかりましたし、また総理も大統領のお話を一言一言聞き漏らすまいとしていました。充実した意見交換ができたと思います。

ワーキング・ディナーもあったそうですね。首相も大使も、ウクライナ料理を食べられましたか?

ワーキングディナーの冒頭に、大統領から料理や飲み物の説明などもありましたし、総理はとても良い雰囲気でワーキングディナーをエンジョイされたと思います。同時に、ワーキングディナーでは、今回の戦争に関係して、国際情勢全般について随分突っ込んだ意見交換をしましたので、とても中身の濃い時間になりました。

首脳共同声明は今後の両国関係の土台となるもの

会談の結果として、両首脳による共同声明が発表されました。日ウクライナの首脳が共同声明を出すのは2011年以来のことです。今回の共同声明における注目すべき特徴は何でしょうか。

言うまでもないことですが、ロシアによるウクライナに対する全面的な侵略戦争というのを背景にして行われた首脳会談での共同声明ですから、両首脳は、このロシアによる侵略は単に欧州大西洋地域のみならず、インド太平洋、さらにはそれ以外の地域の安全、平和、安定にとっても直接的な脅威であるという見解を共有し、それを共同声明に盛り込みました。私は、これがこの戦争の本質を明確にしたという意味で重要であると考えます。すなわち、この戦争は、ロシアとウクライナとの2か国間の単なる領土紛争ではもちろんないし、欧州だけに関係することでもなく、まさしく国際社会全体の秩序、安定、平和全体に関係しています。そのことを両首脳がお互いにしっかりと確認し合ったことが、共同声明の最も重要な意義だと思います。

総理は、インド太平洋地域の現状を説明されており、それも共同声明に反映されています。「自由で開かれたインド太平洋」、いわゆるFOIPの実現に向けて、二国間で協力していこうという話も出ましたし、また東シナ海・南シナ海の状況に対しても、両首脳が共通の見解として、深刻な懸念を表明されました。また、ロシアが核の威嚇、核の脅威を生み出していることに関係して、北朝鮮の核・ミサイル問題についても非難しました。

今回、両首脳の合意で、二国間関係を「特別なグローバルパートナーシップ」に格上げしようということで合意しました。これは、日本とウクライナの関係がまさしく「グローバル」であり、単に二国間のことだけを議論するのではなく、両国ともに全世界のことにしっかりと目を向けて、意見を交換し、協力し合っていこうということです。今回の共同声明は、今後の両国関係の土台となるものであり、また本当に両国首脳の共同声明にふさわしい内容になったと思います。

共同声明では、両首脳は、東シナ海・南シナ海情勢への懸念の他、台湾海峡の平和と安定の重要性にも言及していますが、ウクライナ側がこれらのことを公に表明するのは初めてだと思います。過去の外政では、日本はロシアへの、ウクライナには中国への配慮があり、それにより日ウクライナ関係の発展に一定のブレーキがかかっていたと思っています。2022年2月24日以降は、両国のそのような対露・対中の配慮が低減したと見ても良いのでしょうか。もしそうならば、その変化は、今後の日本ウクライナ関係にどのように影響すると思いますか。

まさしくおっしゃる通りだと思います。すなわち、今回のロシアのウクライナに対する侵略は、国際秩序の根本を揺るがす暴挙であり、日本としても大変に強い危機感を持っています。したがって、我が国のロシアに対する外交は、従来のものから大きく転換しました。そして、今後の日本ウクライナ関係というものは、それを所与のものとして進められていきます。日本とウクライナは、さらに緊密に意見交換をしながら、対露制裁、ウクライナ支援、あるいはグローバルサウスといった国々に対する働きかけといった、色々なことを行っていくことになると思います。私たち大使館も、ここキーウにおいて、ウクライナ側の関係省庁との間でほぼ毎日のように、緊密に意見交換をしています。

ウクライナの報道機関は「日本は武器をウクライナに供与するか?」という点に注目していましたが、殺傷装備の発表はありませんでした。日本は現在の法制度では、どのような殺傷装備も紛争当事国に供与できません。しかし、いわゆる「殺傷装備」と呼ばれるもののには、ウクライナの民間人や電力インフラを守れるような防空システムすら含まれています。また、G7首脳は共同声明でウクライナへの防空システム供与に向けて調整をすると発表しています。そして、そもそもウクライナがこの戦争に勝利するには武器が不可欠です。これを踏まえてお尋ねします。現在日本ではウクライナへの殺傷装備の供与可能性についての議論はありますか。

ウクライナ政府側は、私たち日本側の事情や法制度をよく理解し、それを踏まえた上で、支援に関しての具体的な要望を出しています。したがって、日本はこの1年間、現在の制度の下ですぐにできること、あるいはしなければいけないことを実現してきましたし、今後もまずはそれを着実に実現していくということだと思います。

その上で一般的に申し上げれば、我が国は、防衛装備品の海外移転については、平和国家としての基本理念を踏まえて、厳格かつ慎重に対応してきています。将来、どういう議論が国内で出てくるのかは、私は予断を持ってお答えはできませんが、非殺傷性の装備品に関しては、これまでも供与していますし、今回総理はゼレンシキー大統領に対して、ウクライナへの非殺傷性の装備品供与のために、3000万ドルをNATO信託基金へ拠出したと説明されました。日本としては、可能な支援をしていこうと思っております。

日本は8か国・NATOとの関係に匹敵するものをウクライナとの間にも持つべき

岸田首相は、ウクライナとの間で情報保護協定締結の調整を開始すると発表しました。日本が現在情報保護協定を結んでいるのは、8か国(米国、フランス、オーストラリア、イギリス、インド、イタリア、韓国、ドイツ)とNATOだけです。日本は同協定のウクライナとの締結から何を期待していますか。日本とウクライナが同協定を締結したら、何が可能になりますか。

日本は同協定を締結している8か国およびNATOとの関係に匹敵するものを、ウクライナとの間にも持つべきであり、そういう段階になったのであり、その必要性があるとの理解が、今回の協定締結に向けた調整開始の合意の背景にあります。情報保護協定自体は、日本とウクライナとの間の秘密情報をお互いにそれぞれ国内法に従って適切かつ安全に保護し、必要に応じて日本ウクライナ両国の安全保障の維持、発展、向上に有益な秘密情報を迅速かつ適切に交換できるようにするものです。

これから交渉が具体的に始まるところであり、交渉内容を先取りすることはしませんが、私はこれが日本とウクライナの間に極めて重要な枠組みを作るものだと確信しています。あの発表の後、ウクライナ政府関係者から極めて大きな期待と熱い想いというのを感じております。また、日本側の関係者も同様の想いです。

岸田首相はウクライナ訪問時がゼレンシキー大統領に「必勝しゃもじ」と平和を象徴する「折り鶴ランプ」という象徴的な贈呈品を渡しました。日本の政治家が現在のロシアの全面侵略戦争について、「ウクライナは勝つべき」と述べたり、「勝利」という言葉を用いたりするのは非常に稀ですし、日本の政治家の中には「被害者であるウクライナに勝利を祈願するのは正しくない」と主張する人さえいます。他方、ウクライナの人々は、このしゃもじの象徴する「必勝」というメッセージこそ、世界の人々から聞きたがっているのであり、私は岸田首相の贈呈品はウクライナの人の願いにぴったりの、よく考えられたものだったと思っています。その点を踏まえて改めてお聞きしたいのですが、日本はこのロシアの侵略戦争におけるウクライナの勝利を願っていますか。

今回、総理から大統領に寄贈されたものは、広島の「必勝しゃもじ」と、同じく広島の宮島御砂焼で作られた、折り鶴をモチーフにしたランプの2品でした。これらを贈呈された理由は、総理ご自身が「ロシアによる侵略に立ち向かっているゼレンシキー大統領への激励と、それから1日も早い平和を祈念する思いを伝えるため」だとおっしゃっています。

これを外交的に説明しますと、我々としては、この侵略戦争を終わった暁には、国際的に認められているウクライナの国境の中において、ウクライナの主権と領土の一体性が完全に回復しなければならない、そして、その結果として「正しく、かつ永続する平和」というものがウクライナに戻ってこなければならないという気持ちを持っております。贈呈品には、その思いを込められています。ですから、「ウクライナの勝利を願っているのか」ということを一言で言えば、それはそういう風に理解していただいて良いのだと思います。

そうですね。領土一体性の回復と公正な平和を実現することが、ウクライナにとっての勝利ということですし、そのウクライナの立場を支持しているということですね。

はい。もう1つ、申し上げたいことがあります。例の動画で広まっている、ウクライナ人捕虜に対する極めて残虐な処刑に関してです。今回のことも含め、このウクライナで起こっている全面戦争の過程において、あまりにも国際法や人道法に違反する不必要な残虐行為が行われていることに関しては、私個人としても憤っておりますし、日本政府としては強く非難します。責任者は必ず法の前で処罰されなければならないと思っています。現在、ウクライナ政府関係者が捜査をしていますけど、その捜査の進展をしっかりと見据えて、日本政府として適切に対応していきます。

今回の訪問で日本が発表した対ウクライナ支援の概要について教えてください。

今回は、総理から大統領に伝達された新たな支援は全て無償支援(グラント)で、5億ドルです。そのうち4.7億ドルがコンテナ型のガスタービンや移動式の変電所などを含むエネルギー分野への無償支援、それから地雷除去や瓦礫処理などを含めて、4、7億ドル。これは今後、支援の中身をさらに具体的に詰めていきます。それに加えて先ほど申し上げた、NATO信託基金を通じた非殺傷性装備に3000万ドル。その結果、日本政府による侵略開始以来からの支援総額は、76億ドルになります。このように、私たちは、ウクライナに寄り添って支援していくということをしっかりと数字でも積み上げてきていると思っております。

最近、JICAが発表しているのは、首脳会談時に発表された新しい支援なのでしょうか。

はい、そうです。

非常に迅速に実現されているなと思っています。

どんどん実現します。特に、この冬の間は、どうしても発電機を送るのに皆精一杯だったんですけども、次の冬が来るまでに、とにかくやれることを全部やるというのが私たちの気持ちですし、ウクライナ側もそれを強く望んでいると思っています。総理が大統領におっしゃった5億ドルをとにかく急いで実現しようと思って、真剣に取り組んでいます。

G7首脳会談の主要テーマの1つはロシアによるウクライナ侵略問題

「平和」について質問します。今、世界では、ロシア・ウクライナ戦争について、2つの「平和」が主張されています。1つは「どんな代償を払ってでも即時停戦をすべき」という平和。もう1つは、ウクライナ全土からロシア軍が撤退してから、つまり、ウクライナが勝利してから、生じる平和です。岸田首相は、平和の象徴とされる広島でのG7首脳会談で、どのような「平和」を支持するのでしょうか。

5月のG7首脳会談の主要テーマの1つがロシアによるウクライナ侵略問題といって過言はございません。総理は、改めてG7の結束をしっかりと維持して、ウクライナを支援し続けるということを述べ、それからロシア軍・装備の即時無条件の撤退を改めて強く求めていくことになると考えます。その結果として、先ほど申し上げた「正しく、永続する平和」の実現に向けて、G7としてしっかりと世界に向かって表明していくことになると思います。

今最初におっしゃった「どんな代償を払ってでも即時停戦」ということに一言コメントするならば、ロシアによる全面的かつ一方的な侵略戦争という事実を踏まえる以上、ロシアによる侵略の停止や撤退がきっちりとうたわれていない考え方を背景とする平和というのは成り立ち得ないと思いますね。

林外相は2月23日に国連総会で、そのような(※ロシア軍全面撤退のない)平和は「不当な平和」だというメッセージを出されました。それが日本の立場だということですね。

はい。

日本は、厳しい対露制裁を科し、強力な対ウクライナ支援を続けています。他方で、日本政府にはロシア経済分野協力担当相ポストが残っており、また日本企業はロシアの天然ガスプロジェクト「サハリン1・2」「北極海LNG」への参画を続けています。これはウクライナの人々の目には矛盾に映ります。どうして日本はロシア協力大臣職を残し、ロシアの天然ガスの輸入を続けているのでしょうか。

その担当大臣ポストは残っていますが、その仕事は変わったと言えます。今、ロシアによる侵略という事態を受け、日露経済環境が変化したことに伴い、多くの日本企業に様々な影響が及んでおり、各社ともロシアにおける対応を考えております。すでに撤退したところもあれば、徐々に縮小しているところ、或いは今後どうするのか考えているところもあります。政府としては、そのような日本企業に対して必要な情報を提供し、相談に応じて、円滑な撤退等に至るプロセスを支援する必要があって、この大臣ポストは残っています。したがって、名称は別として、行っている中身をご理解いただければと思います。

エネルギープロジェクトに関しては、日本政府は、G7外相声明も踏まえて、石油や石炭をはじめとして、ロシアのエネルギーに対する依存を徐々に削減していくことを大方針として掲げています。2022年下半期、我が国のロシアからの輸入は、原油を取れば前年比で約9割減少、石炭についても約6割減少しており、LNGについても増加していません。

したがいまして、この大方針に基づき、日本として対露制裁と齟齬のない対応をしており、これについては引き続き適切にウクライナ政府などの関係者に説明して理解を得る必要があると思っています。

ゼレンシキー大統領は繰り返し北方領土問題について日本の立場を支持し、日本との連帯を表明しています。しかし、これに対する日本からの反応はほとんどありません。ウクライナのこの姿勢への日本の立場はどのようなものですか。

昨年の秋以降、ゼレンシキー大統領やウクライナ最高会議が累次にわたって、北方領土問題に関する我が国の立場への理解と連帯を表明しているのは私どももよく承知しております。領土問題に関しては、日本は、これまでの経緯もあり、ロシアとの間で二国間の交渉、話し合いを通じて解決して、平和条約を締結するという方針でやってきています。

その中で、北方領土問題に関する日本の原則的な立場に対して、ウクライナを始め、多くの国々から理解や支持が表明されるということは、今後のロシアとの交渉や話し合いにおいて、有意義であると思っております。そのことは、私から、ウクライナ政府関係者に対して、感謝の気持ちと共にしっかり説明しています。

有意義である。

はい。これは、逆から見ればすぐわかると思いますが、(※北方領土問題のことを)誰も知らないと交渉自体が滞ってしまうこともありますし、無視されることもあるためです。

日本はこれからもずっとウクライナと共にある

ウクライナでは戒厳令が続いており、キーウでは、頻度は少なくなりましたが、空襲警報がまだ時々鳴ります。松田大使や大使館館員は、戒厳令下のキーウでどのような活動をなさっていますか。また、大使は、どのような気持ちを抱いていらっしゃいますか。

去年の秋にキーウで大使館を再開して以来、徐々に館員を戻していまして、その結果、館員数は開戦前よりもむしろ多くなっています。空襲警報が続くこの戦時下のウクライナにおいて、ウクライナとの二国間関係や、G7議長国の仕事をしっかりと行うための体制は、出来ていると考えます。館員一人一人の安全にしっかり配慮しながら、ウクライナの様々な空襲警報アプリや、キーウ市当局等からの様々な情報提供を活用して、日常の仕事をほぼ滞りなく行うことが出来ています。

私は、そういう大変な中で、志高く、士気も高く働いてくれている日本人館員およびウクライナ人職員に本当に心から感謝しています。正直言って、私一人だったらとてもとてもこれだけの仕事はできないのですが、幸いにして仲間に支えられています。また、ウクライナ国家警察もしっかりと大使館や公邸を警護してくれています。私はかつて、中東や南アジアや、必ずしも治安の良くない北米の一部地域でも働いていましたけれど、それらと対比しても、本当にウクライナの安全と治安に関する仕組みはしっかりしていると思いますね。ですから、緊張感やストレスがないかといえば嘘になりますけれど、私は、おかげさまでしっかりと仕事ができています。

松田大使がウクライナに着任されたのは2021年11月で、その数か月後にはロシアの全面侵略が始まりました。この間で、大使のウクライナという国や人々への見方や印象に変化はありましたか。

私は、勿論ウクライナへ来る前にウクライナのことを勉強しましたし、また若い頃に旧ソ連全体を担当した時も、その後ロシア課長になった時も、ロシアと周辺の旧ソ連諸国の関係にそれなりに注意を払ってきたつもりでした。しかし、今回ロシアによるウクライナへの全面侵略が始まり、それを正当化するためのプーチン大統領等の様々な演説や話を聞くにつけて、これはもう一回きちんとウクライナという国の歴史、文化、自然、宗教、そして人々というものを勉強し直さないといけないと思いました。

それで、自分一人ではなかなか勉強できないものですから、大使館の若いウクライナ語専門家を中心に、大使館の中に勉強会グループを立ち上げました。それで、皆で週末に時間の許す限り、歴史博物館や美術館や教会、ホロドモール博物館やユダヤ人虐殺のバービー・ヤルといった様々な場所を訪問したり、色々なウクライナの関係者の話を聞いたりしています。

そういう活動を通じて、私も館員も、ウクライナという国、ウクライナの美しい自然や豊かな文化や歴史をしっかり理解しようとしています。そして、この全面的な侵略戦争の中で、なぜ日本がウクライナを支援する必要があるのか、ということの理解も深まっていると感じています。活動のおかげで、ウクライナの一般の方に会う機会も増えました。例えば、教会に我々日本人がぞろぞろ入っていくと、「あなたたちどこから来たの?」と声をかけてもらえます。そういうことを通じて、ウクライナの人々の温かい人柄、我慢強い人柄を見聞きしています。

私は、この戦争をきっかっけにして、これまで抽象的だった「ウクライナ」というものの具体的なイメージが私にも、私の同僚たちにもできたと思います。そして、それが日々の仕事にも生きているし、さらには将来の日本とウクライナの関係強化にも必ずや繋がると期待しています。

その「具体的なウクライナのイメージ」というものを、いくつかの言葉で表すならどのような言葉になりますか。

端的に言うならば、「自由と独立の気風」だと思います。ウクライナの過去1000年の歴史の中に今のウクライナがあると思いますね。すなわち、この地に多くの人がこれまで1000年間生きてきたわけで、その時々に隣に大国があってずいぶん苦労した歴史がありますが、しかし、その中でウクライナの大地に住む人たちがいつも最後は必ず、自分たちの自由と独立、人間としての矜持を守ってきた。それが、この大地に育まれた歴史だと思います。そして、それが現在の防衛戦争にもしっかり反映されていると思いますね。

ウクルインフォルム中庭の桜とともに
ウクルインフォルム中庭の桜を背景に

戒厳令下のキーウで仕事をなさっている上で、何か特別な経験があれば教えてください。

似たような質問をされるといつも、1年前の2月24日、最初にキーウの上空にミサイルが飛んできて、全面的な侵略戦争が始まった、その日の朝を思い出します。もうすでに戦争が始まっているにもかかわらず、ふと大使公邸の窓から外を見たら、シェウチェンコ大通りをいつもよく見かける女性が犬の散歩をしていたんですね。

私は、それを見た瞬間、何て言うんですかね、人間って強いな、と思いました。あの時に感じた感動は、いまだにまざまざと思い出します。例えば、地下鉄の駅で皆が肩を寄せ合って避難しているのを見た時や、我々が一時的にキーウを離れて退避する際に検問地点で出会った領土防衛部隊隊員からも感じたんですが、こんなに大変な時なのに何とも言えない静けさを感じるんですね。

ひょっとしたら、ウクライナの人々の強さというのは、大変な時にこそ一番発揮されるんじゃないかとさえ思います。もし自分や自分の家族が同じ状態になった時に、果たしてこれだけの冷静さと、同時に人間としての気高さをもって対応できるだろうかとも。そういう感動をいつも思い出すのですが、その全てのはじまりは、2月24日の朝に見かけた女性の犬の散歩なんですよ。

大使は、ソーシャルメディアでしばしばウクライナ語でメッセージを出されていますし、10月にキーウでの活動を再開された時は、「ウクライナに栄光あれ」との祈願も述べられていました。大使は、ウクライナ語がどれだけ話せるようになりましたか。

初級文法の本は2回勉強しましたし、読むのは何とか大丈夫なんですが、いざ喋ろうとするとだめですねえ。でも、1日5分でも10分でも時間を見つけて、会話の本を読むようにはしています。またウクライナ語でスピーチをする時は、館員や職員が原稿を作ってくれますから、それを何とか暗唱するようにしています。自分がもう少し若ければ、もっと上達するんじゃないかなという感じはするんですけどね(笑い)。でも、最近嬉しいのは、ウクライナの人たちがウクライナ語で話しているのを聞いた時に、「あ、この話をしているな」と大筋が掴めるようになってきたことです。

最後に、ウクライナ国民へのメッセージをお聞かせください。

私からの皆さんへのメッセージはただ1つです。我々は、間にロシアという国がありますけども、日本とウクライナは隣国同士です。したがって、日本は、これからもずっとウクライナと共にあります。もうそれに尽きていますね。

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