プロパガンダTVへの制裁の正しさ

プロパガンダTVへの制裁の正しさ

ウクルインフォルム
国家安全保障国防会議(NSDC)の決定により活動停止となったテレビ局は、戦時中においてウクライナの国家安全保障に長らくダメージを与えてきた局である。

執筆:ドミトロ・ペレシチェンコ/キーウ(キエフ)

ゼレンシキー大統領は、2021年2月2日付のNSDC決定に同日中に署名した。このような迅速な行動は、ウクライナでは珍しい。普通は長い間議論されるものだ。NSDC決定は、「対個人特別経済・その他制限措置発動」という中立的な名前となっているが、実際のところは、その決定が扱う問題は非常に長い間提起されていたものだ。現政権が2018年に前政権の採択した法律と決議を根拠に行動したことは、事実である。いずれに政権にとっても最終的な目的は同じで、「メドヴェチューク一味」のテレビ局の放送を止めることであった。ロシアがウクライナに対して7年間にわたる侵略戦争を続ける中、それらテレビ局は、長期にわたり一貫してロシアの利益に従いウクライナの視聴者の認識を毒してきたのである。

プーチン露大統領の個人的友人であるヴィクトル・メドヴェチューク氏がどうやってプロパガンダメディアを集めたか、どのようにクレムリンの金庫から資金を受け取るスキームを作ってきたかは、また別の問題である。今言えることは、保安庁(SBU)や調査報道にたずさわる記者や社会ネットワークが、多くの証拠を得ており、それらを時に感情的に説明してきたことである。

今回の決定が機が熟していたこと、熟しすぎていたものであることは、ソーシャルメディア上の著名人による爆発的な反応からもわかる。2月3日の朝には、コメントは数えられないほどであった。今回は、本件の重要点を見ていこうと思う。

なぜタラス・コザーク氏に制裁がかけられたのか?

制裁は、即座に発動する。ウクライナは、法治国家であり、制裁は裁判で訴えることができるし、しかもウクライナの裁判所に模範的公正さがあるとはとても言い難い。しかし、反対に、国家が裁判から行動を始めていたら、これまでの経験からして、本件のようなプロセスには何年もかかり、同時にその間、反ウクライナ・プロパガンダ攻撃にとっての格好の口実として長期にわたって利用されていたであろう。つまり、その場合、クレムリンが展開している情報戦争が単に長引くだけでなく、新たな燃料も得てしまうことになるのである。

タラス・コザーク氏
タラス・コザーク氏

ウクライナ国民のタラス・コザーク氏は、今回制裁が科されたテレビ局の名目上の利益享受者であると同時に、メドヴェチューク氏に最も近しい人物である。そしてメドヴェチューク氏がこのプロパガンダ・テレビ局に投入しているのが自身のお金でないことは、明白であった。その資金の供給源については、保安庁(SBU)が繰り返し警告してきた。西側諸国もまた、クレムリンがどのように行動しているかは、よく知っている。2016年の大統領選挙、英国のBrexit国民投票、スペインのカタルーニャ独立住民投票、これらは最もよく知られた事例であり、正式に捜査されているものである。コザーク氏はメドヴェチューク氏の完全な影響下にあり、そのメドヴェチューク氏はモスクワから指示を受けて行動している。そのことは、112局、ジク局、ニューズワン局をモニターしていれば、よくわかる。

これらテレビ局は何を放送していたのか?

明白な反ウクライナ・プロパガンダである。これまで何度も国家規制機関である国家テレビ・ラジオ問題評議会により裁判が起こされてきた。彼らがよく拡散していたナラティブ(言説)は、「マイダンは合法的政権へのクーデターである」「クリミアとドンバスは、ロシアによる侵略でも併合でもない。キーウからの殺人と無秩序から守ったのだ」「ウクライナはナチズムを信奉している」「ウクライナは国家ではなく、米国の植民地で、国外から操られている」などである。昨年放送されたあるプロパガンダ番組などは「ソロスの匂いがする」という名前までつけられていた。これら全てがクレムリンから直接、計画と資金を得たものである。ウクライナの視聴者の頭に注がれ続けるこの汚水に、私たちはあとどれだけ耐えることができたであろうか。妙なことだが、私たちは今日までの長い間、耐えてきたのだ。

制裁の効果

米国ギャングのボス、アル・カポネが当時殺人や強盗ではなく、税金未払いを理由に投獄されたことは、有名なことである。ドンバスの被占領地は、マフィア・ビジネスにとっての資金源となっており、そこでウクライナとロシアの関係者が「経済的交流」をしている。そこにて、メドヴェチュークTVに投入するための資金が稼がれているわけだ。制裁発動の根拠となった「テロリズムへの資金供与」というのは、根拠のある話である。制裁内容は、資産凍結、ウクライナ領外への株式持ち出し防止、特定活動のためのライセンス・許可の無効化あるいは停止、ウクライナの電波リソース利用禁止、テレビ番組の再伝送・拡散サービス提供の停止、通常使用用テレビネットワーク使用禁止となっている。完璧なリストであろう。

法的根拠

まず根拠とされたのは、前政権下の2018年に第8最高会議により採択された制裁法である。それから、2018年10月4日に採択された「対個人特別経済・その他制限措置(制裁)発動のための提案」決議である。そこには、TV局の活動根拠となるライセンスを所有する法人も対象として入っている。決議には、「…法人の活動に(中略)ロシアの帝国的・ショヴィニズム的プロパガンダの多方面にわたる実践の模倣の体系的兆候があり、プロパガンダ発露とテロリズム・イデオロギーの拡散が恒常的に確認される」ことが事例として挙げられている。

プーチン露大統領とメドヴェチューク氏
プーチン露大統領とメドヴェチューク氏

制裁法第1条2項には、「ウクライナの制裁は、テロ活動を行なっている主体に対して発動することができる」と書かれている。戦闘圏における犯罪スキームで資金を稼ぐことも同法には記述されている。

NSDCの制裁は、過去にも発動されている。2017年4月28日の当時の大統領による大統領令により、1228名が制裁対象となっている。その中には、ウクライナ国民も入っていた。制裁内容は今回のものと類似した資産凍結である。

メドヴェチュークTVは、法的にはタラス・コザーク氏の所有となっている。これらのテレビ局は、すでに長い間、ロシアの対ウクライナ偽情報キャンペーンのためだけに利用されている。それをロシアとの調整なくして行うことは不可能だ。

タラス・コザーク氏と彼の所有法人に対する制裁は、国家安全保障に関する決定である。ロシアが展開する情報空間における戦争が続く中で科されたものである。それに対応しないこともまた、憲法違反である。

今後の展開の予想

制裁法には、テロ活動の罪の確認に裁判所の判決が必要だとは書かれていない。ロシアによるウクライナに対するハイブリッド戦争は、今も続いている。戦時中は、迅速かつ適切に対応することが求められる。もしあなたに攻撃する準備がなければ、敵に武器は見せないほうがいい。占領者によって、石炭供給などの犯罪スキームを通じたTV局活動への資金供与は事実であり、対応しないわけにはいかないものであった。SBUは、反ウクライナ・プロパガンダTV局と侵略国代表者との恒常的やりとりも把握している。これがテロ活動でなければ、何なのであろうか。

制裁は、裁判プロセスでなければ、有罪判決でもない。制裁は、防衛のため、驚異の迅速な排除に用いられる武器である。ウクライナでは、これらテレビ局がどのようにコントロールされているか、コザーク氏が実質的にメドヴェチュークにコントロールされる人物であることについて、多くの発表が行われている。同氏は、ウクライナにおける実質的なロシアの資産の所有者であり、クレムリンの利益のためだけに活動してきた。これらについては、ラジオ・スヴォボーダ通信の汚職調査報道番組「スキーム」の番組にて示されてきた。そのため、国家安全保障とウクライナ社会の利益防衛のため、このような状況下にて制裁は発動されないといけないものなのである。

裁判で提訴される可能性は?

ウクライナにて誰かがコザーク氏の権利が侵害されたと考えたら、裁判所に提訴することができる。それはその人の不可分の権利である。もちろん、ウクライナの「改革の終わっていない」裁判システムの特徴は考慮しないといけない。シェウチェンキウシキー地区裁判所から憲法裁判所まで、すべての裁判所における「偏見の不在」に関しては、十分な疑念がある。しかし、だ。本件の波紋の大きさからして、内密に何かしらの作戦を実行する余地はあまり多くない。さらに、NSDCがウクライナの国益にのっとって採択した決定の透明性と主張の根拠の大きさ、テレビ局が侵略国の利益にのっとって活動していたという事実は、それぞれ明白である。そのため、コザーク氏の弁護士が弁護を行うのは困難となるだろう。

表現の自由はどうなるのか?

「表現の自由」こそが、弁護士のクレームの中心となるであろうし、メドヴェチューク氏の政党「野党生活党」の代表者たちの騒音の核となるであろう。良い機会なので考えてみよう。私たちの状況下で、「表現の自由」と「敵国のプロパガンダ」はどこで線が引けるのであろうか。メディア専門家たちも本件について一義的な理解はないように思える。著名な専門家の大半は、NSDCの決定を支持している。

視聴者の権利は侵害されたのだろうか。色々な人がいるが、悲しい事実として、人々の中には、親露的で、反ウクライナ的な人も少なくない。彼らにとっては、ウクライナに流し込まれる汚水は魂への鎮痛剤なのだ。しかし、ウクライナでそのような層は、最大でも15%であろう。

また、ウクライナには、何十というテレビ局があり、今回活動が停止されたのは、反ウクライナ的でロシアの資金によって活動する局のうちの3局に過ぎない。残念ながら、ウクライナには、前述のような視聴者が見るようなテレビ局はまだある。それらのテレビ局の放送内容は、おおむね類似しており、だいたい同じテーマで、どこからテーマを受け取っているかも自明である。ところで、それらテレビ局の活動を分析することも可能だろう。言うまでもなく、人々は自らの見解、自らの評価を有す権利を持っている。ただし、そろそろ表現を選択することも学ぶべきではないだろうか。侵略国やテロリストから資金を得ることは止めるべきではないだろうか。

表現の自由にとっての真の脅威は、押し寄せるフェイクの波であり、意図を持った偽情報キャンペーンであり、嘘のナラティブであり、ロシアの侵略を正当化する言説である。これらが表現の自由を歪曲しているのだ。その点で制裁の決定は論理的である。

自らを記者と名乗る人物であれば、異なる視点を示すこと、メディア所有者に対して奉仕はしないこと、それを忘れてなはらない。


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