ロスティスラウ・パウレンコ国家戦略研究所所長
トモス付与のプロセスは、もしかしたら期待ほどの速さではないが、見えない速度で進んでいる
05.09.2018 09:59

2008年、ヴァルソロメオス1世コンスタンティノープル 総主教が、キーウのソフィア大聖堂の敷地内に入った時の、彼がコツコツと鳴らす杖の音を今でも聞いているような気がする。彼の前任者達は、何世紀にもわたり、府主教に行かせるだけだった。その時、ソフィア大聖堂には、世界の正教会全体のハイランクの聖職者、ヴィクトル・ユシチェンコ大統領、彼の政権幹部、エリートやビジネスの代表者が集まった。

その時、宗教関係者や研究者がこのハイレベルの訪問を準備した。そこには、リスクに目を配る、ロスティスラウ・パウレンコの姿があった。彼は、ユシチェンコ大統領の事務局の最も若い局長ではなかったか。彼は、情報分析部部長であり、キーウ(キエフ)・モヒラ大学卒業生であり、将来、ポロシェンコ大統領のチームの一員となる人物であった。彼は、トモス(編集注:独立正教会の祝福等に関係する正教会の公布文書)の付与のプロセスに関してはほぼ全て知っている人物である。

ウクライナ政権は、一貫性のなさ、バランスの欠如を批判され、前任者のイニシアティブを後任者が引き継がないことが批判される。しかし、教会問題は違う。パウレンコは、4年前に初めてコンスタンティノープル総主教庁を訪れた時、彼は、総主教に、彼を含めて皆、コンスタンティノープル総主教がソフィア大聖堂の敷地内で杖をコツコツと鳴らした音を覚えており、キーウ市民はテレビを通じて見た大聖堂の上に見えた虹を覚えていると伝えたのである。

その時、パウレンコの言葉を聞いた総主教が何を思ったのか、私は知らない。もしかしたら、中世の東欧キリスト教にとってハーバード大学の役割を持つ、キーウ・モヒラ大学の卒業生が彼を訪れたことで、何かの兆候を感じたかもしれない。もしかしたら、パウレンコの肩に、ロシアに蔑まれてきたウクライナの教会に属する何百万の人々達の思い、総主教が率いるコンスタンティノープルこそ自らの母なる教会だと思っている人たちの思いを見たのかもしれない。この4年間、ウクライナ正教会の独立を重要だと考える、あらゆる研究者、正教会の主教、過去や現在の政権幹部、教会関係ボランティア従事者が、最近までウクライナ大統領府副長官であったロスティラウ・パウレンコの執務室を訪問してきた。パウレンコ自身、彼らを招待し、彼らの話を注意深く聞き、全てメモを取っていた。もし、教会に国家の支援が必要ならば、国家は常にこのように注意深く、外交的で、無理強いのないものであるべきであろう。今日、パウレンコは、ウクライナの主要シンクタンク、国家戦略研究所の所長であるが、今回の私達の会話はこの研究所についてではない。

トモスはどのように準備されたか。ウクライナ正教会の独立はどのように獲得されたのか。この歴史的出来事の詳細については、私たちは今後徐々に知っていくことになろう。しかし、過去と現在については、ロスティスラウ・パウレンコが述べてくれた。

(編集注:ウクライナ正教会は、他国の正教会と異なり、独立が承認されていない。現ウクライナ政権は、コンスタンティノープル総主教庁に対し、独立に関する教会文書(トモス)の発行を要請している。)

私達は、ウクライナ正教会が承認を受けるため、3回目のアプローチを行なっています。2008年はうまく行かず、2016年もうまく行きませんでした。なぜ今になって、こんなにうまくいっているのですか。何が影響を与えているのでしょう。状況が変わったでしょうか、それとも、政権の努力の程度が変わったのでしょうか。

理由は複数あります。ポロシェンコ大統領は、就任してから、この問題に非常に大きな注意を割いてきました。なぜなら、教会の独立問題は、人間の安全保障の分野の重要な問題の一つであり、それ以上に国家安全保障問題の一つですらあるからです。それは人々の世界観や感じ方に非常に大きな影響を与えるものなのです。

残念ながら、ロシア連邦は、教会を非常に活発に利用しているため、私達はそれから身を守る手段を探さなくてはなりません。そのため、ウクライナ教会承認に向けて、大統領のレベルからワーキング・レベルまで、真剣な努力が向けられてきました。ウクライナの状況を説明し、ロシアのプロパガンダによる偽の言説をあばき、ロシアの役割を解説しながら、私達の宗教生活について伝える必要がありました。また、コンスタンティノープル総主教庁や、その他の正教会との会話は、彼らにとって伝わる言葉で話す必要がありました。

この数年、ポロシェンコ大統領は、2016年にルーマニア総主教と会談していますし、エルサレム総主教とも複数回会い、セルビア総主教とも会っています。私自身、大統領の指示で、イスタンブルのフェネル(編集注:コンスタンティノープル総主教庁のある地区)を10回以上訪れています。何年もかけて作業していることであり、フェネルでは「過程は熟した」と言われています。私は、特に、世界の正教会界隈の出来事を背景に、ウクライナやウクライナ・ロシア関係の本当の状況について、コンスタンティノープル総主教庁に理解してもらえたと思っています。

教会の出来事の順序を想像してみましょう。私たちがトモスを受け取ったら、その後、全ての教会による会議が開かれます。国家は、この会議開催に、何ができるのでしょうか。国家は、この会議にプレゼンスを示すのですか。また、コンスタンティノープル総主教がトモスに関する決定を先送りにした場合は、政権に別のプランはあるのでしょうか。

別のプランはありません。より正しくは、私たちは国家として、教会が独立承認を得られるよう、支援していますし、別のプランが必要とならないように努力しています。もう一度強調しますが、現在起きていることは長い間続いているプロセスです。これは奇襲のようなものではありません。だからこそ、コンスタンティノープル総主教とウクライナ政権の代表者達は、決定の時期について明言しないのです。全ての手続きは、一切の疑問を生じさせないために、教会のあらゆる規則にのっとって行われねばなりません。ここで大切なのは、最後まで進みきることです。私たちは、かなりダイナミックに、迅速に進んでいます。教会指導者達は、トモス付与のプロセスが見えない速度で進んでいると述べますが、もしかしたら速度は期待ほどではないかもしれません。

キーウ(キエフ)において行われたルーシ=ウクライナ・キリスト教受容1030年記念式典に、ウクライナ大統領の招待を受けて訪れた、コンスタンティノープル総主教庁代表団は、非常に明確なメッセージを出しました。プロセスは続いており、その最終目的は、ウクライナ正教会に独立承認を与えることである、という内容です。明確で一義的に、コンスタンティノープル総主教の公的な代表者という、非常に高いランクで、このメッセージは述べられたのです。

(トモス付与後の)会議については、コンスタンティノープル総主教への呼びかけに署名したすべての正教会の幹部聖職者が集まらなければなりません。それはキーウ聖庁、自治独立派、ウクライナ正教会モスクワ聖庁の一部代表者です。これについては、とても大切な点があります。コンスタンティノープル総主教が、ウクライナの正教会の一体化、団結について話した時、彼は、モスクワに属したくないすべてのウクライナ正教会が統一した独立正教会を作ると述べました。これは、モスクワが要求する「痛悔と母なるモスクワへの回帰」とは根本的に異なります。コンスタンティノープルは、「ウクライナは、キーウ・ルーシ(キエフ大公国)の継承国であり、その地は母なる教会であるコンスタンティノープルの教区であり、コンタンティノープルは一度もそれを放棄したことはなく、ロシアに明け渡しことはない」と明確に述べています。モスクワには異なる考えがあり、そこは(編集注:コンスタンティノープルとロシアの)決定的な立場の違いとなっています。

しかし、コンタンティノープル総主教庁は、独立付与のプロセスを始めました。その開始は、本年の4月、同総主教庁がウクライナ議会とウクライナ諸教会幹部聖職者が支持したポロシェンコ大統領の呼びかけを受け取った時です。現在、コンスタンティノープルによるその他の独立教会への報告が終わろうとしており、その後に、次の段階に関する決定が下されます。

特に、コンスタンティノープル総主教の代表者がウクライナを訪問するでしょう。その人物は、とりわけ、全教会会議の開催を助け、その正当性を認めます。その会議では、教会設立、教会総主教の選出やその他の不可欠な問題に関する決定が下されるはずです。国の課題は、安全や自発性を守り、敵対的な外部の行動から守ることです。

あなたは、教会問題を4年間担当し、フェネルを10回以上訪れたと言いましたね。詳しく聞いてもいいですか。

隠すつもりはありません。私は、コンスタンティノープル総主教と話をする準備をしていました。私はいつも、コンスタンティノープル総主教庁の重要性、特殊性を理解していましたし、教会のエチケットを含め、全てを深く研究してきました。確かに私は食事に招待されました。食事への招待は、コンスタンティノープル総主教庁からの一定の信頼の証だと考えられています。大統領の指示でフェネルを訪れた内の数回は、感謝祈祷にも同席しました。

そのようなレベルで教会幹部と協議をしながらも、詳細、象徴、一つ一つの言動が起こしうる問題について、大きな注意を払わなければなりません。しばしば、協議の後、なぜ協議についての情報が少ないのか、説明しなければなりません。しかし、「問題を起こさない」という原則を守る必要があるのです。ウクライナ独立正教会の立ち上げという問題は、非常にデリケートなものです。ロシアは、このプロセスを破綻させようと、大きな努力を向けています。他方で、私たちは、結果を必要としています。この結果を生み出すために、特に、自分の言動に注意を払う必要があるのです。

コンスタンティノープル総主教は、ウクライナの教会問題をよく知っていますか。例えば、モスクワ(総主教)が全正教会会議の決定を履行しないだけでなく、例えばいくつかの教会には得体の知れない人達がやってきて、あの会議は我々には関係ないから、決定は無視して良いと述べていたことを、彼は知っていますか。彼は、ロシア国内で、コンスタンティノープル総主教庁の信頼失墜の情報が流されていることを知っていますか。

知っています。彼らは状況を深く分析しており、ほぼすべての教会、宗教団体、特にあらゆるレベルの正教会関係者とコンタクトを取っており、状況を体系的に観察しています。

一般の聖職者ともコンタクトがあるのですか。

コンタクトは、様々なレベルであります。ビザンチン外交は1000年の歴史がありますし、彼らが大きな注意を払っているのは、知識と情報です。もちろん、常に外交も行われています。特に、在トルコ・ウクライナ大使館や在イスタンブル・ウクライナ総領事館が仕事をしており、コンスタンティノープル代表者との様々なレベルでの会合が開かれています。これらはすべて、情報を伝える助けとなっていますし、ウクライナで起きている主な出来事に関する理解、重要な点の説明を助けています。なぜなら、ロシアは、ウクライナに対して広範で大規模な情報攻撃をしかけており、それは、対ウクライナのハイブリッド戦争と言われるものの一部なのです。私たちは、対策を取らねばなりません。

コンスタンティノープル総主教庁の決定は、ロシアではロシア正教会が全正教会会議を欠席したことに対しての嫌がらせだと見なされています。全正教会会合(のロシアの欠席)は単なるきっかけなのでしょうか、コンスタンティノープル総主教はその欠席がなくても、ウクライナのキリスト教徒の多くが承認と母なる教会(編集注:コンスタンティノープル総主教庁)との繋がりを必要としていることを理解して、同様のことをしたのでしょうか。

主要な論理は、こうです。ウクライナ正教会への独立付与プロセスの考え方は、ロシアの教会と一緒でありたくないと思っている数千万のウクライナの信者を、正しい正教の対話に戻さなければならない、というものです。コンスタンティノープル総主教やその他のコンスタンティノープルの聖職者幹部は、ウクライナ、ウクライナの大地こそがキーウ・ルーシの継承の地であり、その地にキリスト教をもたらした母なるコンスタンティノープル総主教は、ウクライナの全ての正教会信者を対話に戻すという問題を解決せねばならないと、公の場で述べています。ウクライナ独立正教会を作ることで、人々は対話に戻るのです。他のすべての問題は、重要性でそれより劣ります。

私は、ロシアが全正教会会合を欠席したこと、その会合の破綻を目的とした行為、会合結果の不承認は、ロシアが何をしようとしているかを明確に示していると思います。コンスタンティノープル総主教は、ロシアとロシアの教会の相互関係を適切に評価しています。そして、これら事実は、「ウクライナ人との会合で何らかの行動を取ることで、ロシアをいらつかせてはいけない」という議論が、議論になっていないことを明確に示しています。あなたはロシア人をいらだたせずに済むかもしれない、しかし、彼らはどちらにせよ、彼らが必要だと思えば、同じ行動をとるし、あなたに害を与えるのです。

トモスが準備されている間、コンスタンティノープル総主教は、何度となく、ウクライナ問題の解決に向けた意思を述べました。他の主教はどうですか。予想するに、どんな組織も、異なる集団がいるものでしょう。ウクライナにシンパシーを覚える主教は多いですか。コンスタンティノープル総主教は、主教達の間から反対を受けることはあるでしょうか。

まさにそれが理由で、このプロセスは、教会的には早いのですが、望んでいるよりは慎重な速度で進んでいるのです。全てのステップが、規則に厳しく合致して行われねばならず、必要な委員会が稼働せねばならず、他の教会に報告が届かなくてはならず、どんなグループからも規則に反していると言われることのないようにしなければならないのです。その後、教会最上部の決定です。この決定は、コンスタンティノープル総主教庁の過半数で採択されますが、すべてのメンバーによって署名されます。つまり、一度コンスタンティノープル総主教庁が決定を下せば、その決定は義務となり、他の全ての教会にも受け入れられます。これは、ウクライナで自らをロシアの教会と一緒にはありえないと見ている大きな正教会社会が、正教会全体との対話に回帰することを意味します。

私たちの正教会会合はどこで開催されるか、もうわかっていますか。ソフィア大聖堂でしょうか。

それは議論の最中です。また、それは、国の問題というよりは、教会の問題です。

ラーナ・サモフヴァロヴァ、キーウ

写真:オレーナ・フジャコヴァ、ウクルインフォルム

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