独露新ガスパイプラインは完成するか?

独露新ガスパイプラインは完成するか?

ウクルインフォルム
7月6日、デンマークが独露新ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の海中建設に許可を出した。

デンマークは、ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」に反対するウクライナ人やその他の人々にとって、過去数か月にわたって最大の希望であったが、そのデンマークが自国海域でのロシアの船舶の作業にとうとう許可を出してしまった。

デンマークは、同パイプライン敷設に許可を出していなかった最後の国であったが、昨年10月時点ですでに「降参」して許可を出しており、以降、ロシア国営ガスプロム社に「魔法のステッキ」だと見なされていた。

(注:6日、デンマーク・エネルギー庁は、ノルド・ストリーム2AG社による同パイプライン敷設のためにいかりを搭載したパイプ敷設用船舶を使用しても良いとする決定を発表した。)

化学兵器も恐れず

私たちは、デンマークがウクライナに対する何らかの個人的愛情により許可を出さなかったのだとは考えていない。デンマークもまた自らの国益のために行動していたということは、理解できる。ただし、なぜ7月6日にデンマーク・エネルギー庁がいかり搭載のパイプ敷設用船舶の利用を許可したかは、不明なままだ。それまでは、バルト海のその場所には第二次世界大戦時の軍事毒物が沈んでいる(約5万トンの化学兵器が海底のあちこちに散らばっているというのだ!)ため、トロール網の使用や、いかりを用いた船舶停船、海底探索には大きなリスクがあるとされていた。

現在、同庁は、デンマークは安全、リソース、環境保護の要件を考慮した上で、輸送パイプライン敷設を許可することが義務付けられていると主張している。あたかも、パイプラインがトロール船やいかりの使用、海底作業を行わないよう勧告されている、科学兵器の埋まっている場所を避けて敷設されるかのような言い方である。

説明によれば、今回の決定は、ノルド・ストリーム2AG社による申し込みに応じて、大陸棚法に従い、国連海洋法条約におけるデンマークの義務にもとづいて採択されたのだという。

果たして国連海洋法条約というのは、デンマークに海底を引っ掻き回すことを認めるものなのだろうか? それとも彼らは「ピオネールのように正直な」ガスプロム社があらゆる面で完璧に行動することに賭けたのだろうか?

「学者」「オスタープ」「イヴァン」

こうして、ガスプロム社が自らのパイプをドイツまで繋ぐことを邪魔する者は実質的にいなくなった。ロシアは、自らの船舶でパイプラインを完成させるかもしれない。なぜなら、米国はこのパイプライン敷設に船舶を使用する場合、欧州のその船舶所有企業に対する制裁を発表しているからだ。

その中で、ロシアの船舶はすでに到来し始めている。

ドイツのムクラン港には、パイプライン敷設船「学者チェルスキー」が長らく停泊している。イタリアのSaipem、スイス・オランダのAllseasといった自動船位保持装置のある特殊船が昨年末の最初の米国制裁発動直後に作業から撤退すると、「学者チェルスキー」船がはるか遠くのナホトカをすぐに出発したのだった。その前には敷設船「フォルトゥナ」も到着している。

7月7日、(デンマーク・エネルギー庁発表の)翌日には、公海上に「ガスプロムフロート」「オスタープ・シェレメータ」「イヴァン・シドレンコ」といった船舶が現れた(何たる偶然か)。これらも極東のウラジオストクから来た船であり、1万2500マイルの距離を50日かけ、インド洋を通って、もちろん、ロシア海軍艦船を並走させて(敵の挑発があった時に備え)やってきたのだ。

ロシア連邦に言わせれば、これでプロジェクト完了に必要な全ての船舶がそろったことになる。

しかし、ゲアハルト・シュレーダー元独首相が会長を務める露国営「ロスネフチ」社は、作業開始までもうしばらく待たなければならない。というのも、敷設作業が実際に開始できるようになるのは、本年秋だからだ。それにはいくつかの理由がある。まずは、ノルド・ストリーム2AGプロジェクトの実行者が、デンマーク・エネルギー庁に新しい作業計画書を提出し、調整をしなければならない。また、「学者チェルスキー」船に設備を搭載するにも一定の時間がかかる。加えて、7、8月、ボーンホルム島周辺では、タラが産卵を行うため、海中の作業は全て禁止される。

更に、8月3日までは、エネルギー庁の決定に対し、デンマーク・エネルギー問題控訴評議会による控訴の提出が可能となっている。

最後の数マイル

ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」は、現在94%完成している。2360キロメートル中の2200キロメートルが出来上がっているのだ。

パイプライン敷設を止めることが可能なのは、非常に強力な反対者の介入によってのみだった。そして、そのような介入は既に行われている。昨年末、米国が制裁を発動したのだ。しかしながら、その制裁発動はあまりに遅すぎた。また、その決定も私たちに対する同情からではなく、自国利益にもとづいて発動されたものであったし、制裁が発動されるより前に海底のパイプライン敷設はかなりの程度終わっていたのだ。

敷設作業はあとどの程度で終わるだろうか? 最初の締め切りであった「2019年年内」という計画は破綻した。本年1月、ウラジーミル・プーチン露大統領は、モスクワにおけるアンゲラ・メルケル独首相との協議後、ガスパイプラインは2020年年内あるいは2021年第1四半期に完成すると発言した。なお、メルケル独首相も最近、ドイツは同ガスパイプラインの完成を望んでおり、その方向で仕事をしていると述べている。

よろこぶのはまだ早い

ガスパイプライン完成まで残り約160キロメートルであることを考えると、作業再開が秋に延期されたことにより、開通タイミングは若干遅れるだろう。

今のところドイツ政府と、米国で「ノルド・ストリーム2」のロビー活動を行う者たちは、喜びとともに、「同プロジェクトの完成は確実だ」という誤った印象を抱かせようとしている。それは、米国に対して、米国政府の行っている(編集注:パイプライン敷設停止に向けた)努力は無駄だと思わせ、制裁を止めさせるためである。

ウクライナは、米国による新しい対ノルド・ストリーム2制裁の発動を引き続き支持しなければならない。それは過去3年以上にわたりナフトガス社が行ってきたことである。

ナフトガス社のヴァディム・フラマズジン理事長顧問は、ウクルインフォルムの問い合わせに対して、全てが露ガスプロム社にとって楽に進んでいるわけではないと述べ、「ロシアにとって、それは緩慢なプロセスとなるだろう」と指摘した。

ヴァディム・ラフマズジン
ヴァディム・フラマズジン

フラマズジン氏は、デンマークにおける控訴とタラの産卵期から、ロシア側は9月までパイプ敷設を開始できないことに注意を向けた。その後、敷設を終わらせるのに必要なのは少なくとも3か月。しかし、11、12月の天候次第では、更に2か月の遅延が生じる可能性があるという。

そしてフラマズジン氏は、米国議会は、昨年同様、国防法採択の一環で、ノルド・ストリーム2の新しい制裁を年内に採択することになると指摘する。その新制裁は、すでに上院にある法案に含まれている。

米国の新しい制裁は、ノルド・ストリーム2のパイプライン敷設を「促進」する全ての企業に対して科される。そのため、年内にパイプラインが完成しなければ、米議会が制裁を採択した途端、保険会社を含め、ロシアのパイプ敷設船を種々の手段で支援する全ての欧州企業が速やかに作業を止めなければならなくなる。2019年12月も同様に、Allseas社が瞬時に業務を停止したのだ。

フラマズジン氏は、「更に、ノルド・ストリーム2の物理的完成後に同パイプラインの利用に不可欠なライセンスや証明書を提供する複数企業も制裁対象となる。この証明書がなければ、たとえ敷設が完成しようと、このパイプラインを利用することは不可能なのだ」と説明した。

そう、まだ「一巻の終わり」ではないのだ…。

オリハ・タナシーチューク、ベルリン


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