ヴァディム・スキビツィキー・ウクライナ国防省情報総局代表
ロシアは、被占領下ドンバスの管理に4つの垂直型指揮系統を用いている
14.07.2020 16:08

和平協議は常に行なわれているが、ロシアによるウクライナに対する大規模軍事行動再開の脅威はなくなっていない。クレムリンのプロパガンダでは、好戦的なレトリックが強まっており、その脅威はむしろより現実的なものとなっている。ロシア軍は、一年で最も大規模な演習である「カフカース2020」を実施する。7、8月には、包括的特別演習が予定されており、その後9月の終わりに、演習はより活発な段階に入る。過去の事例では、敵はその演習時期にこそ最も危険となる。なぜなら、軍はその際、軍事演習から軍事力行使へと容易に移行できるからだ。例えば、軍事演習「カフカース2008」は、ロシアのジョージアへの侵略と領土の一部の占領へと変貌した。

ウクルインフォルムは、ウクライナ国防省情報総局のヴァディム・スキビツィキー代表に、現在のロシア連邦からの脅威のレベルや北大西洋条約機構(NATO)の高次機会パートナー(EOP)地位への期待について話すことを決めた。

私たちはまず、最近の欧州安保協力機構(OSCE)の安全保障協力フォーラムにて、スキビツィキー代表が、紛争地域におけるロシアの民間軍事会社の利用について報告したことについて話を始めた。


ロシア軍の統合軍集団とは何か

ヴァディム・スキビツィキーさん、ロシアによる「非伝統的軍事行為」展開の現代のコンセプトにおいて、民間軍事会社はどのような役割を担っていますか。

ロシアの民間軍事会社が始めて投入されたのは、2014年のクリミアです。その後、その利用は増加の一途を辿りました。民間軍事会社がウクライナ東部で最も活発に活動していたのは、2015年中頃までです。「ワグナー」社やその他の民間軍事会社は、戦闘からVIP同行、占領政権の安全確保まで、様々な機能を担っていました。2015年9月に第1軍集団(ドネツィク)と第2軍集団(ルハンシク)が展開されると、大半の民間軍事会社はシリアに移動しました。シリアでは、2015年10月に、軍事紛争へのロシア連邦軍の積極的投入が始まっています。

OSCE安全保障フォーラムでは、私たちは、とりわけ「統合軍(/勢力)集団」というコンセプト、ロシア連邦の新アプローチについて報告しました。このコンセプトは、複数の要素をまとめることを想定したものです。第一の要素は、軍事輸送航空や上陸用舟艇のような、ロシア連邦軍内の個別の部隊です。第二の要素は、インテリジェンスや、砲撃、航空機使用、諜報・破壊行動実施といった特別な課題を遂行する民間軍事会社です。第三の要素は、ウクライナの被占領地に現れた、地元出身の傭兵です。

ロシアは、「私たちはそこにはいない」と主張しながら、この3つの要素をハイブリッド戦争と占領の展開のために積極的に利用しています。

私たちは、ロシアは今後も「統合軍集団」アプローチを積極的に利用していくことを予想しています。その運用は、世界のあちこちにおける作戦遂行のための、単一の思考と単一の指令の下で行われます。現在、ロシア人は、シリアとリビアにてこれを利用していますし、同様に他の地域にて自らの軍事影響力を投下するためにこの手段を利用する可能性があります。

ドンバスに投入され、その後シリアやリビアに投入されたいわゆる「民間軍事会社ワグナー」は、ロシア軍の何らかのハイブリッド特殊部隊なのですか? この集団はどう表現したらいいのでしょうか。

ええ、それはハイブリッド部隊です。その構成員は、著しい戦闘経験を有しています。その中には、予備枠の軍の将校から、旧ソ連をはじめ世界の「ホットスポット」で課題を遂行してきた傭兵まで様々な人物がいます。その装備もまた、ハイブリッドです。基本的にこれら全ての民間軍事会社は、主にロシア連邦軍が保有する武器を利用しています。それは予算の非公開項目となっており、しばしば非政府主体からも入ってきます。

文明的な国では、軍事会社が専門的諮問、軍事機構の訓練、サポート、警護を提供しているのに対して、ロシアは、民間軍事会社を国外での軍事影響力行使の手段として利用し始めたのです。その場合、ロシア政権は、そのような行為から公には距離を保つことができますから、ロシアの体制にとっては深刻な政治リスクが生じません。

「DPR・LPR」支配地における「軍」が戦闘準備体勢に入ったことが意味することは?

5月、いわゆる「DPR」・「LPR」の幹部が、「軍」が戦闘準備体勢に入ったと述べ、衝突ラインでは「侵攻」に関する脅迫が聞かれました。あれは何だったのでしょうか?

それらの発言は、包括的に見るべきです。

一方では、それは独特なウクライナや私たちのパートナー国に対する政治的圧力であり、他方では、それは被占領地の住民に対する、自らに「力」があることを示す行為でした。もう一つの要素は、ロシアへの献身やより積極的な武力行為を行う準備があることを示すものでもありました。

ロシア占領政権は、部隊の動員と演習場への迅速な投入・戦力調製の体制を確認したのです。戦闘準備の確認と部隊の高度準備態勢へ移行する際に一般的な包括的措置が実施されたのです。

ウクライナの軍事インテリジェンスや、その他の情報機関は敵の行動を非常に注意深く追っています。戦闘準備状態のいかなる変化も、特に演習場への軍の移動や衝突ライン上の配置地点強化は、私たちの活動上の優先的問題です。敵が進攻の際特に危険なものとなり得る軍部隊を創設していることを示すような、情報上の徴候を摘発する作業が絶え間なく行われています。

ドンバスではロシアの狙撃手の数が増えている

ロシアがドンバス戦争を新型兵器・技術の実験に利用していることが知られています。軍事インテリジェンスは、ドンバスにおけるロシアの最新型兵器の摘発を繰り返し報告してきました。今年は、何か新しいもの、特別なものが見つかっていますか。

私たちは、ロシア連邦からコントロールされていない国境地点を通じた被占領地への兵器・軍事技術供給とその戦闘での使用を恒常的にモニターしています。

今年は、ロシアの無人機「ザスタヴァ」を撃ち落としました。同機は、ロシア軍にのみ配備されているものです。

また私たちは、狙撃用武器、狙撃兵グループの数が増えていることも確認しています。それは、オープンソースにも情報の出ている連邦保安庁(FSB)の狙撃部隊だけの話ではなく、別の特殊部隊もいます。彼らは、ウクライナ領で訓練しています。

私たちは、2012年以降にロシア連邦の装備に入ったロシアの電子戦システム、電子情報システムの利用についても記録し続けています。

私たちは、ロシア人たちが私たちの領土にどのように入ってきて、戦闘条件下で自らの兵器システム・技術の実験や実践をどのように行っているかを見ています。それらは、その後、改良のためにロシア連邦領に戻されています。

被占領下ドンバス管理の4つの垂直型指揮系統

被占領下ドンバスにおけるロシア連邦の政治、軍事、経済の管理構造はどうなっていますか?

ウクライナ東部一時的被占領地の管理体制は、複数のラインあるいは垂直指揮系統によってコントロールされています。

1つ目は、戦略的コントロールで、ロシア連邦大統領府の系統で行われています。以前これを取り仕切っていたのはウラジスラフ・スルコフでしたが、現在はドミトリー・コザクに担当が移っています。

次に、一時的被占領下ドンバス地方の経済面のコントロールは、ロシア連邦副首相とロシア政府の財務・経済関連省の次官たちが担当しています。その実現のために、特別に非公開株式会社「ヴネシュトルグセルヴィス」社が設立されており、同社が実質的に全ての経済部門を管理しています。

3つ目は、特殊機関です。何より連邦保安庁(FSB)です。全ての防諜方策と安全保障方策は、被占領地に展開されているモスクワ直轄のFSB部隊のコントロール下で行われています。

もう一つの垂直型指揮系統が、軍事部門です。私たちが明確に把握しているのは、ロシア連邦軍参謀本部南部軍管区第8諸兵科連合軍と、ウクライナ方面のロシア軍集団を構成する2つのいわゆる「軍集団」、第1軍集団(ドネツィク)、第2軍集団(ルハンシク)であり、これらはロシア連邦軍の管理システムに統合されています。

そう、ロシア連邦軍南部管区での演習は、いわゆる「DPR」「LPR」地域に展開されているその2つの軍集団を必ず参加させて行われています。システムと管理手段は互いに連関されています。単一の航空空間が存在していますし、特に、ドネツィク市とルハンシク市に通信ステーション「カスタ」が展開されており、ロシア連邦の防空システムと航空警戒システムに統合されています。第1軍集団と第2軍集団の司令部と、人員の投入・交代に関係することは全て、ロシア連邦軍の厳格な指揮系統下にて明確に計画され、実施されています。

7月~9月に脅威が高まる

ウクライナは、ロシア連邦からの更なる軍事拡張行為の脅威に常にさらされています。そして、複数の専門家は、最も危険なのは戦略演習「カフカース2020」の行われる6月末から9月末にかけての期間だと評価しています。この期間と関係する脅威と挑戦はどのようなものがありますか。

私たちは、ウクライナの防衛兵力使用のあり得るシナリオを複数策定しています。そのシナリオの一つは、ロシア連邦による我が国への大規模侵攻です。多くの専門家が6月末から9月末までの時期に脅威があると考えている理由は以下のとおりです。

第一に、これはウクライナ軍事インテリジェンスの情報でも確認されていることですが、現在ロシア連邦軍にて、作戦面と戦闘面の準備方策が活発に実施されていることです。私たちの基本文書である、ウクライナ軍事ドクトリンと国家安全保障戦略には、ウクライナ国境付近における、ロシア連邦における強力な攻撃・進軍能力を持った軍集団の増強は、我が国にとっての喫緊の軍事脅威であると明示されています。

第二に、実際に、今年ロシア連邦にて戦略演習「カフカース2020」が予定されており、そのアクティブ・フェーズが9月末に実施されるからです。多くの演習場が利用されますし、その中には被占領下クリミアのものや、南部軍管区のものも含まれ、大量の兵器・軍事技術が集中します。その際、7、8月には、ロシア連邦軍の諸兵科部隊の個別特殊訓練も行われ、その際、攻撃、水上障害克服、強化、方策動員といった複数の戦術シナリオが実行され、その中には、軍司令部と現地政権との連携シナリオも含まれます。

私たちにとっての脅威は、ロシア軍が演習場に入り、戦闘調整を行うことに関連します。経験上、この時期に創設される軍部隊が最も危険です。これら部隊は、演習から直接的運用に迅速に移行できるのです。多くの専門家が、その実現可能性を指摘しています。

軍事インテリジェンス、そしてウクライナのインテリジェンス・コミュニティ全体が、リアルタイムでこれらの問題全てを追っています。ロシア連邦による我が国への大規模軍事行動へのあり得る準備の諜報上の徴候を適宜摘発するためです。

クリミアへの陸上回廊の設置計画は消えていない

クリミアへの水供給問題が情報空間で急速に話題となりました。ロシアのテレビでは、北クリミア水路のダムへのアクセスを確保するためにロシア軍を利用する可能性が大っぴらに議論されています。あなたは、このような脅威をどのように評価していますか。

その脅威はまだあります。

ウクライナ国防省情報総局の注意は、ロシアがクリミアにて行った軍の編成に向けられています。現在、空挺と海の要素の高まりが確認されており、軍事輸送航空機の使用可能性が拡大しています。

ウクライナ軍参謀本部は、その点に特別な注意を割いています。重要なのは、ロシアの行動におけるあり得る性格を予想し、国の南方の防衛のために不可欠な諸方策を定めることです。

被占領下クリミアからの侵攻がある場合や、それ以外の場所から、具体的には、クレムリンが別の分離主義プロジェクトを実施しているトランスニストリア方面、つまりロシア軍が同様に駐留するいわゆる「沿ドニエストル・モルダビア共和国」からの脅威はどう見ていますか。

私たちは、モルドバのいわゆる「沿ドニエストル・モルダビア共和国」なるものと関係する領土問題の解決に関心があります。そこにもロシア連邦のプレゼンスがあり、その担当はドミトリー・コザク(ロシア大統領府副長官)であり、現在クレムリンでウクライナ問題を担当している人物です。彼は、以前、モルドバを連邦化するイニシアティブを提示したことがあります(編集注:2003年のコザク・メモランダムのこと。モルドバ側が署名を拒否)。

ロシア軍のトランスニストリア地域におけるプレゼンスは、間違いなく脅威です。それは、ロシアの対ウクライナ侵略の始まる前のクリミアにおけるロシア黒海艦隊の駐留がもたらしていた脅威と、全く同様のものです。どのような軍事プレゼンスも、諜報・破壊工作活動のため、あるいは大規模侵略のために利用可能です。

私たちがこの点で最も懸念しているのは、ティラスポリ飛行場を含む、トランスニストリアのインフラが利用される可能性と、ロシア軍部隊や「カザーク」のような準軍事部隊がウクライナに対して使用される可能性です。

ロシアは、(ウクライナ東部から)クリミアへ、そして、さらにはトランスニストリアまでの陸上回廊を「設置」するアイデアは放棄したのですか。

それはアイデアではなく、計画です。言うまでもなく、その陸上回廊創設とウクライナの黒海と世界の海へのアクセス遮断を目的とするロシア連邦軍の戦略的計画は、同国において現在も有効なままです。

軍事インテリジェンスは、そのようなシナリオにもとづいて行われている演習やその他の行動に関する一定の情報を有しています。

クレムリンは占領地に関する計画を常に修正している

ロシアは、クリミアと違い、いわゆる「LPR」と「DPR」は併合していませんし、「南オセチア」や「アブハジア」と違い、それらの「独立」も認めていません。クレムリンのこれら「LPR」「DPR」に関する戦略はどのようなものでしょうか。

戦略は一つ、ウクライナの欧州統合を看過せず、ウクライナがロシア連邦の影響圏にとどまり続けるよう、あらゆることを行う、というものです。

これら占領地をロシア連邦に統合する計画があるかどうか、ということについては、現在述べるのは困難です。私たちは、2014年のロシアによる我が国への侵略開始当初から、クレムリンの計画に、私たちの国の行動に応じる形で、常に修正が加えられているのを確認しています。

現在の脅威ある問題はロシア国籍付与です。被占領地の住民がロシア国籍を取得し、ロシア連邦憲法改正投票に参加した場合、それはロシアがドンバス住民を「ロシア国民」と扱うという最初のシグナルとなります(編集注:本インタビューのウクライナ語版が公開されたのは6月25日)。それは危険です。ロシアは、私たちの国内問題への介入のために、単に「ロシア語話者住民」の存在についてだけでなく、「ロシア国民」の存在をもって情報操作を行う可能性があるからです。

同時に、現在の経済面の指揮系統にて、ロシアはドンバスの自らの占領機構に対して、より高いレベルの自給を行うよう要求しています。予算歳入の増加、炭鉱の再建、少しでも収入を出す可能性のある企業の設立などです。

新型コロナウイルス感染(COVID-19)世界的流行とエネルギー価格の下落により、ロシアの経済状況の著しい悪化が観察されています。これを受け、ロシアにとって、西側諸国の制裁の解除あるいは緩和の問題がより喫緊のものとなっています。予算面の問題によって、クレムリンが、国外の金のかかる冒険的政策、具体的には、「DPR・LPR」プロジェクト維持を断念するという可能性はありますか。

その問題によって、もちろんロシア連邦の計画には一定の修正が加えられています。それは、ある程度、ロシア軍の装備・編成計画にも関係するものです。ただし、戦略的に重要な問題に関するものは全て、予定通り進められ、予算が配分されています。

軍事インテリジェンスにおけるNATOスタンダード

ウクライナは、最近NATO(北大西洋条約機構)の高次機会パートナー(EOP)に加わりました。それは、とりわけ、深化したインテリジェンス交換を定めるものです。国防省情報総局はその交換にどのような期待を抱いていますか? 私たちのインテリジェンスは、パートナーたちの特殊機関と現在どのように協力していますか。

それは単なる期待ではなく、ウクライナとパートナー国、同盟国との間のより緊密な協力への現実的な前進であり、特にインテリジェンス・コミュニティに関係するものです。

他国の軍事インテリジェンスの関係の発展は、2015~2020年国家情報プログラムにて既に定められています。同プログラムでは、最も喫緊の問題について共同のインテリジェンス評価を準備することさえ規定されています。

もちろん、同プログラムは軍事要素だけでなく、ウクライナとNATO機構やパートナー国の様々な分野の協力の強化も目的としています。軍事インテリジェンスに関しては、プログラム履行の枠内で、NATOスタンダードへのより加速した移行が行なわれています。なぜなら、その移行がなければ、私たちが完全に連携することは不可能だからです。もちろん、とりわけ彼らが私たちに提供する情報について、パートナーたちに対する責任のレベルも向上しています。その深化した協力は、私たちと国際コミュニティのための、恒常的モニタリング、上空・海上空間の情報交換、喫緊の脅威に関する種々のデータの交換を定めています。

ヴァシーリ・コロトキー、ウィーン

写真:パウロ・バフムート

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