反汚職裁判所創設の歴史的ストーリーは、終幕を迎えつつある。私たちは、この複雑かつ長引くプロセスについて、汚職対策センターのアナスタシヤ・クラスノシリシカ専門家と話をした。
刑法典からの違法蓄財条項の削除決定は、反汚職裁判所の業務の一部が取り去られることを意味する。
憲法裁判所による違法蓄財規定の削除判決は、将来の反汚職裁判所の作業にどのような影響を及ぼしますか。
重要なことは、同決定により、反汚職裁判所の業務の一部が取り去られることです。なぜなら、違法蓄財規定の削除とは、実質的には、恩赦だからです。これは、2014年から現時点までの、あらゆる違法資産に対する恩赦なのです。同規定削除により、現行の捜査は終了せざるを得なくなり、2014年以降の政権幹部の違法資産による刑事責任が負わせられなくなるのです。正直に言って、私は、今回の憲法裁判所の決定以降、新しく実効性ある「違法蓄財」を犯罪化する規範が作れるかどうかに疑問を持っています。今回の決定は、国際連合腐敗防止条約に合致しない内容だからです。
マルクスが述べたように、如何なる国家においても、最初に現れる巨大な金銭は汚れていると考えられています。すると、いつこの「最初」の段階が終わり、違法蓄財の責任が問われ始めるのでしょうか。
私は、今回の恩赦は初めてではないことを指摘します。1回目の恩赦は、2014年でした。その際、違法蓄財の責任追及について新しい定義が採択され、さらに、この規範が発効するタイミングは、2015年の電子資産申告運用開始の時期に定められたのです。そして、今回、2019年、私たちは、この規範を無効化し、またもや恩赦を行ったのです。もはや何も正当化などできません。
反汚職裁判所設立は、最高裁判所の時より注意が向けられていません。まず、240人の反汚職裁判所裁判官候補者がいて、選考にて113人まで絞られ、(外国籍司法専門家から構成される)「国際専門家市民会議」によりそのうち42名がフィルターにかけられ選考から外されたことを、私は喚起します。今後のプロセスは?
今後、高等裁判官選考委員会が、選考に残った人物に点数をつけることになります。そして、この点数の上位35名あるいは39名が選出者となります。彼らを、「高等司法評議会」が審議します。そして、同評議会から大統領に任命のために最終選出者名簿が渡されます。
国際専門家市民会議の作業記録によれば、候補者の資料が処分されたとのことですが…。
その件には、理由があります。国際専門家市民会議が受け取っているのは個人情報であり、同会議の作業が終われば、それを保存する意味はありません。
私が理解するところでは、今後は地方の反汚職機関が反汚職裁判所の監査をしていくということですか?
その点で重要な責任を負うのは、高等司法評議会です。同評議会は、裁判官の規律面に責任を負っており、裁判官に問題がある場合に停職、解任をする機関だからです。現状では、高等司法評議会は、この課題、つまり裁判システムの浄化をうまくこなしていません。マイダン時の86%の裁判官が当時のポストに就いたままです。高等司法評議会は、適宜にこの問題を審議する能力がないのです。同時に、高等司法評議会は、独立した活動を行っている裁判官に対して政治的圧力をかける機関となっています。具体例としては、ポルタヴァ市に有名な裁判官ラリサ・ホリニクという人物がいます。彼女は、自らの裁判所の筆頭裁判官の汚職を暴きました。しかし、その時、高等司法評議会は、彼女を支援するのではなく、彼女がフェイスブックに書き込んだ筆頭裁判官選挙に関する投稿を理由に、彼女を非難したのです。彼女は、その際、その筆頭裁判官の汚職の証拠を提供したのにです。現状、高等司法評議会は、このような仕事をしています。そのため、次に必要な改革は、この高等司法評議会の改革であり、これにより、反汚職裁判所の独立、そして、全国の裁判官全ての独立を確保しなければなりません。
高等司法評議会の改革とはどのようなものになりますか?
実は、まだこの改革の計画はできていません。高等司法評議会の効果的で質の高い刷新は実現していません。私たちは、過去2年間の司法改革の課題が破綻したことに責任がある人物が、現在の高等司法評議会の代表機関に入っていると考えています。例えば、マロヴァツィキー氏(編集注:NABUの捜査対象)が同評議会に残っていますし、フレチキウシキー氏(編集注:詐欺容疑で検事総局の捜査対象)も残っています。民主的で普通な選考では、このようなことは決してありえません。
あなた方がやっていることは、もちろん、非常に重要なことであり、裁判界のマフィアの脊椎を破壊する行為ですが…
とにかく、進行は非常に遅いです。
あなたは、司法界の改善を進化的手法で行えると信じていますか?
適正評価という案は、全ての裁判官をもう一度フィルターにかけて、自らの資産の説明ができない人物、人権侵害となる決定を下したことのある人物、人権保護の規定に反する明確な行動を取ったことが欧州人権裁判所の決定により下されている人物を、排除することを目的としています。このような裁判官は、高等裁判官選考委員会の評価によって解任されるはずでしたが、委員会は同プロセスを2年間半も続けています。委員会が適正評価を通じて解任したのは、現時点で6%だけです。この数字は、私たちが適正評価の結果として望んでいた「浄化」では決してありません。なぜなら、司法界に対する信頼はほとんど上昇していないからです。2014年には10%だった司法界への信頼は、2年間の裁判改革を経た現在でも、たったの16%しかありません。これを「結果」とは呼べません。この問題に対して、例えば、次の最高会議は、何ができると思いますか。例えば、裁判官選考時に「公正市民会議」が否定的評価を下した裁判官に対して、もう一度適正評価を行う決定を下すという決定は下せるかもしれません。そうでもしなければ、私たちは、この裁判官と生涯をともにしなければならないのです。
あなたたちが自らの記事に書いている、公正さに対する疑念の基準は、ウクライナ的ノウハウでしょうか、それとも国際的基準でしょうか。
疑惑の生じる資産に関する基準や、裁判官の疑わしい判決を規定する、国際的な基準です。その基準とは、裁判官を選考する際、その人物の資産、人間関係、過去の判決に対する質問を行うものです。その人物が疑問を完全に払拭できないのであれば、その人物は、裁判官ポストには任命されるべきでないのです。国際専門家市民会議もこのような基準で活動しました。例えば、ある裁判官候補者は、面接の際に、「あなたには、乗用車があります。文書上は、その車の値段は14万9000フリヴニャとなっていますが、市場価格はその3倍です」という風に説明を求められます。そして、その候補者は、その自動車は破損があるとか、問題があるとかと説明を行い、今度は自動車を検証した専門家の文書が提出され、その後最終的に候補者の公正さに疑問がないか否かを見るのです。国際的基準によれば、疑問がある裁判官は任命してはなりません。これに対して、(ウクライナの)選考委員会は、どうしたと思いますか?
ストゥパクという裁判官がいます。彼女は現在最高裁裁判官で、以前は、高等特別裁判所の裁判官でした。彼女のキーウ郊外の家の値段に問題が生じました。記憶する限り、その価格は、200万フリヴニャ以上でした。高額です。彼女は、それは義理の母が、市場でベリーを売って、200万フリヴニャを稼いだと説明したのです。馬鹿げた説明でしょう?しかし、高等裁判官選考委員会は、「オーケー、問題ない、良く分かった」として、彼女を最高裁判所裁判官に任命してしまったのです。ここにアプローチ上の決定的な違いがあります。国際的専門家は、裁判官、裁判官の公正さは一切疑念が抱かれてはならないと考えています。一方で、ウクライナの高等裁判官選考委員会は、候補者が汚職犯罪で有罪となっていないのであれば、問題ないと考えているのです。私にとっては、(ウクライナの選考委員会の)論理は少々病的だと思います。なぜなら、ある人物が汚職犯罪で有罪になっていたら、そもそもその人物は選考プロセスに入ることすら出来ないでしょう?!
反汚職裁判所裁判官選考の結果、あなた方は信頼のできる数十名の人物を集めたように見えます。
私たちは問題をそのように設定していません。私たちが設定した課題は、「信頼できない人物を特定すること」です。ある一定の人物には、私たちも、私たち以上に情報を持っている国際専門家も、公正さ欠如の兆候なるものを見つけられませんでした。それは、その可能性が全くないことは意味しません。しかし、少なくとも現時点では、選ぶに該当する人物がいるように思われます。
そして、強調したいのですが、国際専門家も制限的な権限しか持っていないことです。彼らは、候補者を公正さと専門性という2つの基準で研究しました。私たちが候補者を研究した際、私たちは、あり得る政治的繋がりに注意を向けました。それは、国際専門家のマンデート外です。彼らの仕事は、ウクライナでの政治的繋がりを評価することではありません。しかし、残った候補者の中の何人かには政治的繋がりが見られるため、私たちは心配しています。
つまり、あなたたちには、もともと疑念の基準があるんですね。
懐疑主義の基準です。なぜなら、この問題の代償は非常に高いからです。これは私たちが何年にも渡り、求め闘ってきた反汚職裁判所の話なのです。
楽観主義者である私は、コップの水は「半分しかない」ではなく、「半分もある」と思いたいのです。最高裁判所には、何十人かのまともな人物が任命されました。
数十人。それは重要な命題です。120人のまともな人物が任命される可能性があったのですから。
まともな最高裁判所を得られるチャンスは失われていないのでしょうか。
最高司法評議会とは、最高裁判所から、金銭、影響力といったものへの欲を抑えられなかった裁判官を排除しなければならない機関です。つまり、今度は最高司法評議会の改革が実現されなければなりません。私たちは、裁判改革を然るべく実現できなかった人物のいる現在の最高司法評議会と、更に5年間一緒に活動することはできません。
二人の外科医のうち、一人が患者のことを何も知らなければ、もう一人も手術を行えない。
反汚職裁判所は、年内に稼動しますか?
ええ、確実に。私は、裁判官は3月末までに任命されると予想しています。また、6月までに裁判官を任命するという、国際通貨基金(IMF)との義務もあります。正直に言えば、3月に裁判官が任命されれば、4月か5月には裁判所が稼動することもあり得ると思います。最高裁判所は、裁判官任命から1~1.5か月で活動を始めたと記憶しています。
最近、ウクライナの汚職対策機関である、国家汚職対策局(NABU)と特別汚職対策検察(SAP)に関して多くの落胆がありました。あなたは、反汚職裁判所はスキャンダルを避けられると信じていますか。
私は、避けられると思っています。しかし、反汚職裁判所に関しては、二つの重要な点を理解する必要があります。1つは、同裁判所は1、2か月では判決を下すことができないということです。半年、あるいは、もしかしたら、1年はかかるかもしれません。なぜなら、反汚職裁判所は、古い裁判所から全ての案件を渡され、一から審議を開始するからです。それは当然のことです。二人の外科医のうち、一人が患者について何も知らなければ、もう一人は手術を開始できないでしょう。反汚職裁判所についても同じです。ですから、判決はしばらく待たなければなりませんし、それによって信頼が急速に低下することもあってはなりません。審議のためには時間が必要なのです。
同時に、反汚職裁判所は、予審判事を有します。これは捜査行為を行う権利であり、つまり、これまで裁判所によりブレーキのかかっていた案件の捜査を前進させられるのです。これは、反汚職裁判所設立の結果であり、こちらの結果は十分早い段階に目にすることができるでしょう。NABUが「ロッテルダム・プラス」スキームの捜査(編集注:石炭価格設定メカニズムの捜査)を開始した際、裁判所がNABUに電力会社の文書へのアクセス許可を出さなかったために、捜査がある段階で止まってしまったことがありました。その文書は、それをもとに、不適切な電気料金に関する結論が出されたとされるものでした。
何か問題が起きたときに、政権や汚職対策機関に圧力をかける手段について考えていますか。
実は、既にいくらかの問題は生じています。(刑法典の)違法蓄財条項の削除がそれです。圧力は、そうですね、私たちは、注意を向けさせたり、情報キャンペーンを行ったりして、常に圧力をかけています。私たちは、とりわけ、汚職犯罪者は国の抽象的な金を盗んでいるのではなくて、個々が支払う税金を盗んでいるのだと、説明しています。
私は、こういうキャンペーンは将来に向けた重要なものだと思います。例えば、オニシチェンコ(最高会議議員)が30億フリヴニャ盗んだ件について、人々はこの話を聞いても、多くの人にとっては、30億だろうが100億だろうが、等しく抽象的なものにしか思えないのです。
実際には、オニシチェンコが30億盗んだということは、個々の国民が数千フリヴニャずつ盗まれたことを意味します。私は、このようなことを理解することが、政権に対する社会の圧力を形成し、そしてそれにより、人々が自分から数千フリヴニャ盗んだ事件に関わった人物や政党に投票するのを止めた時、選挙環境が変わるのだと思っています。
200~400%割高の先払いで武器を売ったとされ、既に捜査が行われていたらしいフラドコウシキー(前国家安全保障国防会議(NSDC)第一副書記)とそれに関連する人々についてですが、しかし、私たちは、捜査がどのように行われているかは何も知りません。現在捜査はどのような段階にあるのですか?なぜ捜査に2年間も時間がかかったんでしょうか。
類似の捜査が行われる際は、いつも「数か月で結果が出る」といった約束がされてきました。例えば、ルツェンコ氏は、検事総長になった際に、半年でヤヌコーヴィチ(前大統領)の経済関連捜査が裁判所に起訴されると述べましたが、実際には裁判所には何も起訴されていません。
今後予想されるのは、調査報道した記者に対して「彼らの背後にはロシアの陰が見える」というような断罪が行われることです。あたかも、ロシアが選挙前情勢を不安定化させるために記者を雇ったかのように言いふらし、その後、話題を逸らしていく手段です。重要な点は、フラドコウシキーとその一派が軍に対して不必要なものを売り払い、実際よりも2倍、3倍、4倍も荒稼ぎしていたということです。私たちは、この件をフォローしていきます。
ラーナ・サモフヴァロバ
写真:ユリヤ・オウシャンニコヴァ、ウクルインフォルム