ウクライナは「ポスト・プーチン」時代到来を早められるか?

ウクライナは「ポスト・プーチン」時代到来を早められるか?

ウクルインフォルム
米国の研究者ヘルマン・ピルヒナー氏がキーウ(キエフ)にて自著『ポスト・プーチン』のプレゼンテーションを行なった。

最近、ウクルインフォルムにて、米国の研究者であり、米国外交政策議会(AFPC)の創設者兼総裁を務めるヘルマン・ピルヒナー氏が、2019年に米国で出版した自著『ポスト・プーチン』(プーチン後の意)のプレゼンテーションを行なった。イベントでは、ピルヒナー氏本人のオンライン参加の他、チョルノービリ研究・発展所監査委員会理事であり、『ポスト・プーチン』ウクライナ語翻訳版(『ピースリャ・プーチナ』)出版に出資を行なった企業家ヴィタリー・デムヤニューク氏も出席した。

今回私たちは、このプレゼンテーションの際の質疑応答の中から最も興味深かったやりとりを紹介する。

プーチン露大統領の統治はどのように終わるか?

ヘルマン・ピルヒナー氏(『ポスト・プーチン』著者)

現代ロシアが抱える問題は、プーチンの問題以上のものであり、ロシアの帝国主義的文化の問題である。かつて自らの植民地の出来事に影響力を行使していた超大国というものは、現在になってもしばしば影響力を行使したがるものである。ただし、そのような国全てがそのような行動が取れるわけではない。ロシアは巨大な軍事力、決定的な権力を持っており、国内には帝国主義的イデオロギーが残っている。それが旧ソ連諸国との関係に特徴を生み出している。

ヘルマン・ピルヒナー氏
ヘルマン・ピルヒナー氏

米国外交政策議会(AFPC)は、第二次世界大戦後に独裁者を抱えていた国々を分析した。40%以上の独裁者は、殺されるか、暴力で排除されている。何名かは現在も生きている。私たちは、20年以上権力に残ることのできた独裁者に焦点を当てた。78歳になっても政権に残っている者もいた。プーチンは、すでに68歳であり、彼はすでに20年以上その場にいる。彼は、危険を理解しているからこそ政権に残っているのであり、彼は、国内では弾圧を用いつつ、国外に注意を逸らすという手段で、自らの政権にとっての脅威をうまく排除してきた。外部へ注意を逸らすというのは、ウクライナやシリアでの最悪の出来事を含む。

しかし、彼には問題が増えている。ロシアの歳入は減っており、過去5年間で5~6%下落した。18~34歳の層のロシア人の53%が、機会があるなら国外に出たいと思っている。地方のエリートは、ウクライナやシリアでの莫大な支出による問題から、不満を抱いている。エリートは、数十億の損失への不満を抱えながら、西欧で自由な生活を送ることができていない。彼らは、だまされたと感じている。彼らは、ロシアがドンバスやクリミアにいることはもしかしたら肯定的にとらえているかもしれないが、しかし、彼らには、巨大な財政的な問題やその他の問題も生じている。

そしてもちろん、ロシアのエリートの中にも「本当にプーチンは私たちの利益のために行動しているのか? 彼はリーダーとして私たちのために義務を履行しているのか?」とひそかに疑問に思っている者はいる。彼らは、公の場ではそのようなことは言わないが。

火花は炎に変わる、というレーニンの公式がある。レーニンは、火花は生じれば炎となることは止められない、(止めようとすれば)状況は更に大きな爆発となると考えていた。全てを燃やす火花は生じるのか、プーチンが有す抑圧の手段はその火事を抑えるのに十分なのか。それらの疑問には、別途答えを要する。

しかし、いずれにせよ、ある時点でロシアからプーチンはいなくなる。それは殺害によるかもしれないし、心臓発作かもしれないし、クーデターかもしれない。そうすると、その後のロシアの政治はどのようなものになるか、という質問が生まれる。そのロシアは、ウクライナや旧ソ連諸国に対してより攻撃的な強力なナショナリスティックな国となるのか? スターリン後、フルシチョフ後の時のように、政権掌握を巡り、長期の争いが生じるのか? そして、そのような戦いが生じた際には、もしかしたらウクライナが自らの主権を回復する何らかの「余地」が生じるかもしれない。もしかしたら、西欧か世界の別の場所に家を持つ、経済的改革者がやってきて、自らの家を守りたいと思うかもしれない。

それらは、まだ私たちにはわからないことだ。しかし、現時点で分かっていることもある。それは、独裁者が政権を失う時は、その現象は極めて急速に生じる、ということである。

複数のグループによるあけすけな争いが起こる可能性は排除されない。なぜなら、プーチンは後継者を定めていないからだ。特に重要なのは、力を行使する権限を持つ国家機関を観察しておくことである。

フルシチョフ降ろしの試みの際、後に国防相となったジューコフ(編集注:フルシチョフと共闘したゲオルギー・ジューコフ)のおかげで政権に留まれたことを思い出してみよう。介入したがらない軍の存在が決定的な役割を担う可能性もある。

また、情勢がどのように発展するかを理解するためには、地方エリートによるその他の権力手段もまた分析すべきである。

私は、ウクライナの知識人層は、西側で分析を行っている人たちと同程度、あるいはそれ以上に状況を把握していると思う。あなた方は、(ロシアの)文化や、精神をより良く知っているし、機構がどのように機能するかも良く知っているからだ。

もちろん、西側の最善の思想家たちは、議論を続けていくであろう。いずれにせよ、ウクライナは、ロシアにおける不測の事態に向けた計画を有しておくべきである。

ロシア連邦の変化に向けて、どのような準備をすべきか?

ヴィタリー・デムヤニューク氏(書籍出版出資者)

ロシアという要因は、ウクライナにとって恒常的なものであり続ける。ウクライナ社会が恒常的な要因であるのと同じである。私たちが関心があるのは、安定し、民主的で、発展したロシアであり、帝国的幻想を捨てたロシアである。

プーチン後のロシアがどうなるか、という質問を前に、正しい分析的予想を組み立てようとすることは、あり得るリスクを最小限に抑える以上の意義があると思う。私は、その行為は自分たちの主体性の拡大になると思っている。私たちは、ロシアの政治体制が変わる、変貌するという、いつか開くかもしれない可能性の窓に向けて、準備をしておかなければならない。

ヴィタリー・デムヤニューク氏
ヴィタリー・デムヤニューク氏

重要なことは、ロシアにおける多くの政治的プロセスが歴史サイクル上に築かれていることを理解することである。いずれの政治家も、客観的な理由を持って、偶然生じる環境で、歴史的文脈に従って行動するのだ。私は、そのような法則性を理解することが、より良い予想を可能にすると見ている。

もう一つ指摘したいことがある。それは、ロシアの政治体制の変化に先んじて生じる、不安定な均衡状態に向けて、状況進展の方向を変え得る外部からの影響手段を事前に準備しておくべきだということである。そのような影響力を有するのは、世界的なプレイヤー(国家)に限らず、ウクライナのような隣国もそうなるかもしれない。

私は、民主的な発展を可能にする、非帝国主義的発展の道を進むための(ロシアへの)新しい提案をする時が来ていると思っている。

数年以内に内戦をともなってロシアの崩壊が生じるという仮説は可能か?

ヘルマン・ピルヒナー氏

内戦のようなことを予想することは不可能だ。私は、ある種の革命前の状態はあると思っている。そして、火花は炎となるものである。

何がその火花となり得るかだが、もしかしたら、現地の誰か、例えば、焼身自殺を試みる街頭の物売りかもしれない。そのようなことが火花となるかもしれない。あるいは、他の何かが人々を街頭に導くかもしれない。

もちろん、人々が街頭に出るなら、リーダーが必要となる。もちろん、治安機関と対立することになるが、それは重要なことだ。しかし、どのようなことが起こるかについて確実に予想することなどできるはずがない。

いつどのようにウクライナとロシアの間の和解は生じ得るか?

ヘルマン・ピルヒナー氏

前提となるのは、真の民主主義である。なぜなら、民主主義は、他の民主主義と戦争を始めないからだ。安定して、民主的になったロシアは、ウクライナやその他の国との間にある種の平和の可能性を保障することになる。プーチン後のロシアで、ある種の変化が起きるとして、同国を再生することが、西側にとってどれほど高くつくか、という疑問がある。もしその変化が民主的ロシアの役に立つものであれば、もちろん西側は多くの支援を出すであろう。私は、その場合、状況は1990年代より良くなると思っている。当時の支援は、それほど建設的なものではなかった。

誰がロシアの次のリーダーとなり得るか?

ヘルマン・ピルヒナー氏

ロシアにて影響力の大きな人物、多くを失うことができる人物、知事や閣僚があり得るだろう。

私は、より若い人々のことも見ている。色々な機構の支持を得ている潜在的リーダーのことだ。彼らのうちいくらかは、連邦保安庁(FSB)での経験があったり、軍での経験や地方エリートの基盤を持っていたりする。私なら、そのようなあり得る後継者の模索を始めるであろう。しかし、プーチンの台頭を予測できた者がほとんどいなかったことを思い出してほしい。そのため、今回も多くの人が気づいていないような人が現れる可能性はある。

どうしてロシアの首脳陣や社会は変化を恐れるのか?

ヴィタリー・デムヤニューク氏

ロシアは、帝国主義的時期にあり、その病気は、国も人も完治してしまわなければならない。そのロシアの政権、国家が帝国主義的時期にある内は、彼らは自国の人々を自国民としてはみなせないのである。彼らは人々を資源として扱う。それが国家としてのロシア、国民にとってのロシアにとっての大きな問題である。

そして、残念なことに、思うに、その間は、ロシアの人々は自由とは何かが理解できないのだ。自らのために肯定的な未来を開くことのできる、自由な国家として発展できるという「自由」がわからないのだ。彼らは、自由の最初の段階がどれだけ大変だったかのみを記憶している(編集注:ソ連崩壊直後のロシアの状況のこと)。そして、その後(それは本当に短い期間だった)、彼らはある種の独裁体制に陥ってしまった。

そのような経験のために、人々の考えを操作するのが簡単となっている。彼らに向けて、自由や民主主義とは悪いものである、という物語を書けば良いだけだからだ。彼らには、民主主義が本当はどれだけ良いものなのか、もう少し深く感じたり見たりすることができなかったからだ。

ロシア人が抱く恐怖とは、ロシアの国内プロパガンダの結果である。「私たちの体制の方が優れている。ほら西側はあんなにひどい。ほらあそこも悪い。でも、私たちのところは良い。自分の生活をよく見てごらんなさい。そしてその生活を受け入れなさい」といった具合だ。

私は、彼らには信じるものがないから、巡って闘うための対象もないのだと思っている。プロパガンダは文化の一部となってしまっており、残念ながら、それはうまくいってしまっている。

私は、インターネットがコントロールできていないことと、国外旅行が禁止されていないことが、ロシア国民が世界のことを知る機会を与えて欲しいと思っている。世代が変わることで、政治的変化の機会が生じるだろう。

現在のロシアにおける変化とプーチン後のロシアにウクライナは影響を及ぼせるか?

ヴィタリー・デムヤニューク氏

私たち(編集注:ウクライナ)は、国家として、ネイションとして、生き延びねばならず、私たちの民主的伝統を維持し、発展させなければならない。

私たちは、ウクライナのような旧ソ連国家であっても、選挙が行え、革命も起こり得て、大統領も交代できる、私たちは何度でも大統領を交代させられる、ということを30年間にわたり示し続けてきた。そして、そのウクライナはロシアにとって、民主主義は可能であり、国家は存在し得る、ということの第一の事例なのだ。

第二に、私たちは、機構を組み立てなければならない。なぜなら、私たちが戦争状況にあり、ロシアの侵略の対象となっている間、私たちは、経済的に強固にはなり得ないからだ。しかし、それでも私たちは、国内の機構を作り上げなければならない。

そして、戦争の圧力が除かれ次第、私たちは急速な経済成長を実現することが可能となる。つまり、私たちの存在自体がロシアとロシア国民にとって良い事例なのであり、私たちの存在自体が「異なる生き方の重要性」を示しているのだ。

ヘルマン・ピルヒナー氏

私は、「ウクライナ」という特別な事例は非常に強力であり、その事例はロシアにとって変化のエンジンとなり得るものだと思っている。多くの人が確信することは強力である。

多くの人が、民主主義や市場経済のための変化を信じるようになれば、そのような変化は可能になるし、そのような確信は現実へと変貌する。

そのため、もちろん、ウクライナのストーリーをできるだけ多くのロシア人に伝えるための努力が必要だ。私は、そのためにはインターネットは最強の手段だと思っている。あとは、旅行である。ウクライナが地域の先例となり得るのは言うまでもない。

ラーナ・サモフヴァロヴァ/キーウ


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