「ルカシェンコは引き返せないところまで来た」 ベラルーシ専門家の情勢予想

「ルカシェンコは引き返せないところまで来た」 ベラルーシ専門家の情勢予想

ウクルインフォルム
ベラルーシの政治専門家に、同国情勢の評価と予想を聞いた。

ウクライナや欧州連合(EU)をはじめ、多くの国から大統領としての正当性を認められていないルカシェンコ氏は、一方では、国民との対話の開始があるとの意向があると述べているが、他方では、国家の弾圧機関が引き続き活発に活動を続けている。乱暴な拘束、殴打、逮捕が続く中、しかしながら、ミンスクやその他ベラルーシの町々では、毎週末多くの抗議者が通りにあふれている。平日も、数こそ減るが、抗議は行われている。こうして50日間以上の抗議が続けられている。民主主義を巡る闘いは継続しているのだ。

ウクルインフォルムは、ベラルーシの政治専門家であるパヴェル・ウソフ氏、アナトリー・コトフ氏、アルセン・シヴィツキー氏の3名に、現在のベラルーシの革命の方向性の重要な出来事、今後数週間の情勢展開の予想について話を伺った。

パウロ・ウソフ 写真:Belsat
パウロ・ウソフ 写真:Belsat

パヴェル・ウソフ政治専門家(政治分析・予想センター所長)

人々の怒りはまだ物理的衝突にまでは成長していない

私は、最近の出来事を3つに分けている。まず、国の旗と紋章の日であった9月19日の女性の行進。ベラルーシの女性たちは、乱暴な拘束を恐れることなく、旗と紋章が社会の団結にとって極めて重要であることを示した。動画では、警察が障がいのある女性を連れ去っていく様子が写っている。つまり、これはもう完全な政治的対立ではなく、倫理的、価値観的な対立となっているのだ。次に、その行進の2日前に「ベラルーシのため」と題された親政権の女性フォーラムが開催された。そこでは、抗議は悪魔主義だとか、白赤白旗は悪魔の旗だとかいう、狂ったようなフレーズが飛び交った。心理学的観点からすると、それは社会の一部が自己崩壊していることを意味している。同様に、ルカシェンコ氏による、西側との国境を閉鎖しなければならないとか、ウクライナがベラルーシ情勢を不安定化しているとする批判なども、現実から乖離した言葉である。

写真:Belsat
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第三には、欧州議会が、ルカシェンコ氏を正当な大統領ではないと認定し、国際機関がスヴィトラナ・チハノフスカヤ(シヴャトラナ・ツィハノウスカヤ)氏を野党指導者として認定し、そして調整評議会をベラルーシの人々の正式な代表機関と認めたことである。これは野党運動の主体性を支持する上で重要だ。

また、対立のプロセスにおいて、政権の公務員、将校を含む治安機関職員が徐々に離脱しているのが見られる。その前には、スポーツマン、教師、医師が(政権から)離れていっていた。実質的に社会機構のあらゆるレベルで、古い腐りきった体制の崩壊が起こっている。

人々は、連帯し、自らを動員し始めている。しかし、他方で、政権からの激しい攻撃を受けている。ルカシェンコ氏は、引き返せないところまで来たのであり、彼の選択肢は、全てを手にするか、全てを失うかの二択となっている。システムの「ボリシェヴィキ化」プロセスが進んでいるのであり、現在起きているのは、大っぴらな暴力やあらゆる手段での鎮圧といった、実質的な赤の粛清の現代版である。政権は、裁判、検察、警察を用いて抵抗している他、学校や保育施設も使っている(活動家と子どもたちを引き裂こうとしているのだ)。全ての機関が弾圧機構に変貌している。法空間は実質的に破壊されてしまった。コントロール手段、政治的コントロール・影響力の手段といった、家父長制的権威主義体制に典型的な手段が用いられている。企業や国境、不必要な研究所の閉鎖、専門家の国外追放、アパートへの侵入、インターネットへのアクセスの制限…。近代化からの逆行、次第に退化する国家…。

予想をするならば、私は、現在の対立のレベルは少なくとも2、3週間は維持されていくと思う。私たちは、連帯、互助を目にしている。政権の不適切で、ばかげた行動はどんなものであれ、更なる怒りを招く。

しかし、その怒りはまだ物理的な衝突には成長していない。つまり、人々は棍棒を持って警察官を殴ることはしていない。そして、ハードルは毎回高くなっている。すでに国の主要なプロパガンダ機関である「今日のベラルーシ」の編集者の車両が放火されるという出来事があった。(野党系)テレグラム・チャンネルNEXTAが1000人の匿名で活動していた警察官の人物特定を行ったことも重要な出来事である。

写真:Будзьма! Сообщество честных людей(フェイスブック)
写真:Будзьма! Сообщество честных людей(フェイスブック)

しかしながら、国民が激しい反撃をし始めない限り、政権は退かないであろう。しかし、急速な革命を期待すべきではない。どちらかと言えば、それは段階的な動きとなるであろう。現在、色々なことがある中で、私たちは、自由と自治の空間が広がっているのを目にしている。国全体の自覚のレベルが広がり、「ネイション」が形成されている。長びく対立の果てに巨大な成功をおさめれば、人々のアイデンティティは明確なものとなる。

同様に重要なのは、野党運動の政治的主体が段階的に形成されていること、チハノフスカヤが自らをリーダーと定めていることである。あらゆることが、今後1か月に起こらねばならない。しかし、何も起こらない可能性もあるのだろうか…? それを予測するのは難しい。なぜなら、チハノフスカヤの立場はしばしば完全には明確ではないからだ。彼女は、RBCのインタビューにて、4度にわたりプーチン(露大統領)を賢い指導者と呼んでいたが、それは見逃せない。プーチン氏を、ベラルーシの民主的変化や主権の強化を支持するような同盟者とみなすことはできず、それを理解する時が来ている。チハノフスカヤや他の人々がそれを認識しない限り、建設的な動きは期待できない。特に、その「賢い指導者」がウクライナに対してどのように行動してきたかを考慮すればなおさらだ。

アナトリー・コトフ元ベラルーシ大統領総務局長、元国家オリンピック委員会総裁

政権は、不器用な行動をもって反対者を団結させている

重要な出来事は、言うまでもなくソチでの(編集注:ルカシェンコ氏とプーチン露大統領の)会談、欧州安保協力機構(OSCE)によるベラルーシに関するモスクワ・メカニズム開始(専門家ミッションの設置)の決定、それから欧州におけるベラルーシ関連の議論である。

ソチにおけるルカシェンコ氏とプーチン氏の会談の主な結論は、ルカシェンコ体制のための大金はなく、古い債務の借り換えの借款のみが与えられたことだ。同時に、政権内部の関係者たちは、ロシアにベラルーシの経済戦略作成を行うグループが設置されていると述べている。このグループの設置は、ベラルーシ資産の外部からの管理と、コントロールした上での最も魅力的な資産の民営化を(目指していることを)意味している。つまり、クレムリンにとって、ルカシェンコを留任させるというシナリオはもはや存在しないということだ。ロシア政権は、自らの経済的、政治的利益のことのみを考えている。クレムリンが支持した憲法改革の中でこそ、(ロシアが)その利益を得ることが簡単になるのだ。

国際経済コミュニティはすでに反応している。資金はない。(ルカシェンコの)支持は急落している。合意能力のない政治屋に金を出すものなどいない。

OSCEは、珍しく非常に断固とした行動を取り始めている。伝統的な「コンセンサス」や官僚的対応なしでの行動だ。それはベラルーシ政権も予期していなかったし、外交官は困惑している。

EUは、対話を促す際にぼんやりした表現を使うのは悪いアイデアだと認識したようだ。確かに、EU内の対立や貿易関連の問題こそあるが、しかし、「対話のための対話」の時間は過ぎ去ったという理解は生まれている。ミンスクがベルリンやパリからの電話に出ないのであれば、原則的に行動せねばならない、という理解だ。

ここ数日の傾向は、二つに分けられる。一つ目は、調整評議会幹部メンバーの国外追放。ただしその追放は、あらゆる意味で効果を生んでいない。

写真: facebook.com/ForumEkonomiczne/
写真: facebook.com/ForumEkonomiczne/

チハノフスカヤ、パヴェル・ラトゥシュコ(ラトゥシュカ)、オリハ・コヴァリコヴァ(ヴォリハ・カヴァリカヴァ)の共同メッセージと彼らの欧州議会での演説は、そのことを改めて確認させるだけの鮮やかさを放っていた。ベラルーシ政権に対して、その鮮烈な愚かさと不器用な行動により、謝意を伝えねばなるまい。政権が反対者を団結させているのだ。

もう一つの傾向は、「浄化」である。プロセスは社会のあらゆる分野に関わっている。外務省から人々が解雇され、医療大学の全ての学長が交代させられた。政権は、おぼつかない運営レベルを自ら低めている。能力あるものがいた場所に、原則も良心もない人物が就いている。外務省では、現状のプロセスを「セメントで固める」行為だと呼んでいる。なぜなら、セメントは、柔軟性を奪ってしまうからだ。今後、政権にとって全てがさらに悪化していくだろう。政権は、知識人を片っ端から治安機関の人間やイデオローグに交代させるつもりのようだ。この世界でそのようなモデルが成功した例を知らない。

革命の基本となるのは、通りで強力な抗議が行われている中、個別のプレーヤーが努力し、団結し、調整することである。危機解決のために発表されたプラットフォーム「調整評議会」は、移行期間に何が行なわれるか、新たな選挙はいつ準備されるかを伝えるものである。それは、抗議を機構化したものである。

チョルノービリ(チェルノブイリ)の原子炉と国の状況は比較できる。実験の結果、状況が不安定化し、その後、通常なら圧力が低下に向かうはずのところで、爆発がもたらされたのだ。政権は、コロナウイルス拡散期、経済危機下に社会で楽しそうに実験を行い、それを捏造選挙の茶番でもって終了したのだ。そして社会は変化した。今の社会では、圧力を加えれば加えるほど、抗議は強くなる。

反革命側は、抗議のムードを下げようと努力しているが、しかし、極めて不器用な手段でそれを行っている。最近の「女性フォーラム」だけではなく、ばかげた暴力でもって年金生活の女性や妊婦を殴っているのだ。そのような行為で権威が高められるはずがなく、怒りを強めるだけである。それは通りを見ればわかる。抗議が消える様子はない。

予想は難しい。ベラルーシを騙そうとしているロシアは、情勢に大きな変化が起きなければ、幻滅することであろう。欧州と米国は、ベラルーシ政権が対話のアイデアを拒否する中、今後はより断固かつ迅速に行動するであろう。ベラルーシ社会は、抗議を続けるであろう。政権は、残った金銭を無駄遣いしながら、乱暴な振る舞いを続けるだろう。状況からの文明的な脱出のために残された時間は4~6週間。その後は、より深刻な危機に入るであろう。

アルセン・シヴィツキー 写真:gazetaby
アルセン・シヴィツキー 写真:gazetaby

アルセン・シヴィツキー・ミンスク戦略・外政分析センター所長

ボールはルカシェンコのところにある

ルカシェンコ氏のソチ訪問の結果は非常に慎ましいものであった。約束された融資は、過去の負債の再建するためだけのみのものである。期待した額でなかったのは明白である。その際、プーチン氏は、ルカシェンコを正当なリーダーと認めこそしたが、政治的危機を強調して、ベラルーシ政権と市民社会との間の対話の組織を要求した。彼は、問題の解決のために、憲法改正の一環でコントロールされた政権移譲を提案しているのだ。それはつまり、クレムリンは、ベラルーシ関連のこれまでの目的を一切諦めていないことを意味する。その目的の一つは、政権交代。ロシアは、ソフトなシナリオによる政権交代を計画している。それは、つまり、ベラルーシ政権に対して、政治的危機の解決案を強制しているのである。その中、ベラルーシ・ロシア関係の今後の動きは、ルカシェンコがその計画をどの程度受け入れるかに、その多くがかかっている。なぜなら、ルカシェンコには危機からの脱出と憲法改革について、自分自身の考えがあるからであり、ミンスクとモスクワの両者の立場は決定的に異なっているからだ。

もう一つ重要な出来事は、EU(及びリトアニアをはじめとする複数のEU加盟国)が、ベラルーシ選挙の結果を認めないとする立場を法的に形成していることである。他方で、世界、特に欧州コミュニティの舞台でのチハノフスカヤの段階的な正当化が見られる。

ロシアの報道から判断するに、ロシア政権もまたチハノフスカヤ、ツェプカロ、ババリコを中心とするいわゆる「新しい野党」の部分的正当化を促進しているようである。私は、それはモスクワが作った、ベラルーシの危機解決計画の考え方と大いに関係しているのだと思う。特に、(編集注:クレムリンが考える)国民全体の対話の実現においては、「新しい野党」に個別の役割が与えられている。

また私は、ベラルーシ政治危機における二つの政権が並存する状況は、徐々に2019年のマドゥロとグアイドが対立したベネズエラのようになっていると思っている。

写真:TUTby
写真:TUTby

ベラルーシ革命のベクトルについては、今後の予想と一緒に述べよう。現在、抗議のルーティン化が進んでいる。抗議は拡大していないが、深化しており、より多くのベラルーシ社会の専門家を巻き込んでいる。新たな均衡点に達したが、その均衡は言うまでもなく相当に不安定なものだ。政権は、力で抗議を完全鎮圧することはできないし、どのような弾圧手段も抗議を、深く、広く、伸長させる。他方で、抗議は平和的で、政府庁舎を占領したり武力抵抗をするといった目的を持たない。この不安定な均衡は、どの程度保たれるであろうか。

私は、次の抗議感情の爆発は、10月、社会・経済危機の強化とともに訪れると予想している。その際、政権は今後も、抗議者や、抗議への積極的支持を表明したり、彼らの要件への連帯を示したりした幹部やエリート界代表者に対して局地的な弾圧を加えるであろう。引き返せない点は越えたようであるとはいえ、ボールはそれでもルカシェンコ側にある。全ては、彼が、発表済みの危機脱出のための全国対話に臨む準備がどの程度あるかということにかかっている。

しかし、対話に誰を参加させれば良いのか。そのプロセスは透明に行われるのだろうか。現在、「そのイニシアティブ(編集注:政権の対話実施に関する言及)は、真似事に過ぎない」といった、無根拠とは言えない不安が聞かれている。政権は、抗議が疲れるように、更なる時間稼ぎをしているようでもある…。

ミロスラウ・リスコヴィチ

トップの風刺画:セルゲイ・ヨルキン


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