トマーシュ・ペトシーチェク・チェコ外務大臣
ウクライナは、古典的軍事的な意味でも、ハイブリッドな意味でも、ロシアにとっての戦場と化している
29.01.2019 14:05

チェコには、12万のウクライナ国民が働いており、そのおかげでウクライナ・チェコ間の貿易関係は成功裏に発展している。チェコの首脳陣には、若干の「意見の相違」が見られるものの、ロシアがクリミアを併合し、ウクライナに対してハイブリッド戦争を開始して以降、チェコは、ウクライナの味方となっている。同国は、可能な範囲でウクライナを支援している。チェコもまた、ソ連の占領を経験しており、ウクライナが欧州・欧州大西洋統合を求める気持ちに共感を抱いている。チェコとウクライナには、多くの共通の利益と課題がある。

トマーシュ・ペトシーチェク氏は、昨年10月中旬にチェコ外相ポストに就いた。37歳の社会民主党出身の同氏は、欧州機構での仕事をはじめ、外交経験が豊富である。過去数か月、同外相は、ウクライナ問題を含むいくつかの重要問題について、自らの明確な立場として、たとえ同国大統領と見解が異なろうとも、自らの考えを堅守する準備があると述べた。

1月27日、ペトシーチェク外相は、ウクライナを初訪問した。その前日、ウクルインフォルムは、同外相からインタビューを得た。

チェコ・ビジネスは、ウクライナに引き込まれている

大臣、今回の訪問は、大臣のチェコ外相として初めてのウクライナ訪問となります。訪問の目的と議題、誰と会談するかをお教えください。

私自身、今回初めてウクライナを訪問します。私たちは、パウロ・クリムキン・ウクライナ外相と協議を行います。また、私は、ウクライナの市民社会代表者との会合を待ち望んでいますし、私が深い同情と感銘を抱いているクリミア・タタール人指導者のムスタファ・ジェミレフ氏とも早く会いたいと思っています。私のジェミレフ氏へのこの感情は、50年前に彼が行ったチェコスロバキア占領への反対抗議運動からだけで生じているのではなく、彼がクリミア・タタール人コミュニティのために行っている努力にもよるものです。また、私は、キーウ(キエフ)のチェコ・ビジネス・コミュニティと面会し、ウクライナ市場の課題と可能性について議論するつもりです。

大臣は、ウクライナ東部も訪問する予定ですか

私は、クリムキン外相とともに、マリウポリ市とその港を、そしてコンタクト・ラインを早く訪れたいと思っています。ウクライナ東部に暮らす人々の生活について、そして、アゾフ海とマリウポリ港の実質的封鎖について、直接イメージを得ようと思っています。

チェコ・ウクライナ二国間関係、特に、貿易・経済分野の関係を、どのように評価していますか。

両国関係は、非常に緊密で、生産的ですが、潜在的な力は今よりずっと大きいと思います。特に、貿易面では、チェコのビジネスは、ウクライナ市場とウクライナ・EU連合協定・深化した包括的な自由貿易圏の実現の可能性を現在まで完全には認識していません。私たちは、両国の経済的つながりを発展させる努力をしており、それは結果をもたらしています。昨年、両国間貿易総額は、前年比で15%以上増加しました。複数の投資家が、ウクライナ市場をロシア市場の代替と見なし始め、ウクライナへの参入を決めました。私は、ウクライナへのチェコ・ビジネスのプレゼンスは、今後さらに大きくなると予想しています。

「東方パートナーシップ」は、期待以上の結果を出している

大臣の今回の訪問の目的の一つは、東方パートナーシップ10周年に際したものです。周知のとおり、東方パートナーシップは、チェコがEU議長国であった時に採用されました。大臣は、この東方パートナーシップが十分に成功していると思いますか。

2009年以降、欧州では多くのことが起こりましたし、東方パートナーシップも、多くの困難を乗り越えてきました。そして、同パートナーシップは、10年前に私たちが期待していた枠を越えていきました。

私は、この個性的な東方パートナーシップは、EUの外交イニシアティブの中で最も成功したものの一つだと思っています。このイニシアティブは、民主主義や法の支配、人権といった共通の価値、そして、各国が自らの将来を選択する権利にもとづいて成り立っています。

政治的変革は、おそらく、まだ不可逆的な地点を越えてはいないのでしょうし、多くのことがまだ終わっていないと思っています。しかしながら、東方パートナーシップ参加6か国の国民の大半が、欧州的価値観、欧州的アイデンティティを共有しています。これは、団結に向けた非常に大きな要因です。

ウクライナ、ジョージア、モルドバとEUの自由貿易圏協定は、多くの分野の改革を鼓舞していますし、経済、社会、地域の発展を後押ししています。パートナー国は、5億以上の消費者のいるEUの市場へのアクセスを得ていますし、更に重要なことは、その市場には明確なルールと質の基準があることです。EUは、東方パートナーシップ参加国のうち5か国にとって、最大の貿易上のパートナーとなっていますし、ベラルーシにとっても2番目のパートナーです。そして、貿易額は、着実に増加しています。ですから、私は、東方パートナーシップは、成功していると信じています。

EUは、ウクライナの改革を、アドバイスや資金などで、積極的に支援しています。チェコの参加する改革支援プログラムについて教えてください。

チェコは、長年にわたって、ウクライナをサポートしています。2014年以降、ウクライナは、チェコから800万ユーロ相当を人道分野などの支援を受け取っています。チェコの支援は、特は主に教育と保健の分野に集中しています。例えば、私たちは、教育改革や大学改革、ドネツィク州からの国内避難民に支援を割いています。また、民主的改革の分野では、私たちは、メディア・リテラシーのプロジェクトを行っていますし、被占領下クリミア問題の人権保護活動家もサポートしています。私たちの人道支援は、コンタクト・ラインのすぐ近くに暮らす人たちにとって効果のあるものとなっています。心的外傷を負った子どもたちのためのサマーキャンプ開催が好例です。

ロシアの圧力への対抗措置

12月4、5日のNATO外相級会談には、クリムキン・ウクライナ外相も招待されていましたが、その際、ウクライナとジョージアのNATO加盟の展望についても提起されました。この展望について、大臣はどのようにお考えですか。

周知のことですが、チェコは、ウクライナとジョージアによる、NATO加盟展望を含め、欧州大西洋統合願望に対し、共感を持っていますし、その願望を支持しています。私たちは、ジョージアとウクライナがNATOとのパートナーシップと協力を発展させていること、国内改革を行っていることを評価しています。同時に、NATO加盟には、軍事技術面での具体的レベルへの到達が必須であり、その課題はまだ終わっていないと理解しています。

そして、政治的前提条件と安全保障面での考えもあります。ロシアは、ウクライナとジョージアが自らの安全保障システムを選択する政治的権利を失うことになるよう、努力してきました。また、ロシアは、ヨーロッパ通常戦力条約からの離脱をためらわず、そして、侵攻、他国領土の併合、工作の実施、破壊、不安定化をジョージアとウクライナに対して行ってきました。私たちは皆、これらのロシアの行為による悪影響と対峙しています。欧州大西洋安全保障は、過去25年間で最も低いレベルに陥っています。あるいは、不信とエスカレーションの水準は冷戦時並の高さに達しているとも言えます。

困難な時代です。ウクライナとジョージアは、私たちの政治的・物質的サポートを必要としており、それを受け取っています。しかし、このような環境下でNATOへの加盟を進めるためには、多くの決断や忍耐、長期にわたる努力が必要です。

大臣は、ブリュッセルにて、「ウクライナ東部、アゾフ海、ジョージアにおけるロシアの脅威とハイブリッド的行動は、欧州の安全を破綻させている」と発言しました。チェコは、ロシアの脅威に対抗するために、どのような貢献をしていますか。

私は、問題は、私たちが互いにどのように助け合えるかというところにあると思っています。ロシアの軍事的・ハイブリッド的圧力は、とりわけ隣国に対して、そして広くは欧州全体に対して、ますます集中的で破壊的になっています。私たちは、このロシアの圧力に断固として対抗する準備ができています。これには、今以上のリソース、新たな可能性が必要です。重要なのは、努力の団結、とりわけ、情勢をよりよく知るための努力、抵抗のための行動調整です。ウクライナは、ロシアにとっての戦場と変貌していますし、それは古典的な軍事的意味だけではなく、ハイブリッドな手段の使用という観点からも戦場と言えます。NATOは、専門家のアドバイスを受けるべきですし、情報や経験を交換すべきです。NATOは、サイバー空間、戦略的コミュニケーション、社会の安定強化、例えば、独立したマスメディアの支援や、フェイクニュースの摘発など、具体的分野でウクライナをサポートできます。私たちは、まさにこのような問題に集中して、ウクライナとの協力を進めています。それは、二国間関係でも、対ハイブリッド戦争NATOウクライナ・プラットフォームでもそうです。

EU加盟国は、共通のルールで行動すべき

チェコの隣国ドイツでは、ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」に関する議論が活発化しています。チェコは、同パイプラインがチェコを直接通らないこと、チェコの企業がこのプロジェクトに参加していないことから、実質的にこの議論に参加していません。チェコのノルド・ストリーム2に関する立場はどのようなものでしょうか。

私たちの立場は、その他のプロジェクトにおいてと同様で、どの程度パイプラインが建設されるか、ということよりもEUの規範と法が遵守されことの法がはるかに重要だという点にあります。チェコは、EUガス市場の一部を担っており、そこでは皆がルールを守らなければなりません。またチェコが消費するガスは、ロッテルダムのスポット市場から来るものです。

周知のとおり、チェコ大統領のウクライナやロシアの政治に関する立場は、しばしばチェコ政府や外務省の立場と異なっています。このような「分断」の存在は、とりわけ、対露制裁へのアプローチに見られます。ミロシュ・ゼマン大統領は対露制裁に反対しており、アンドレイ・バビシュ首相は支持しています。大臣は、この状況に困難を覚えませんか。何らかの圧力を感じることがありますか。

私たちの大統領の見解は、外交の道具としての制裁は如何なるものであれ、効果がない、というものです。他方で、チェコの外交を担うのは、チェコ政府です。さらには、大統領を含め、我が国の首脳陣は皆、2018年9月の会合にて、制限措置(制裁)を科す根拠はまだ存在する、ということに同意しています。

チェコ国内のウクライナ人労働者枠は、最大4万まで拡大の可能性あり

チェコには、多くの活発なウクライナ人がコミュニティを形成しています。また、多くのウクライナ人専門家がチェコで仕事をしています。このことについて、大臣はどのように評価していますか。

ウクライナ人は、チェコにおいて最大の民族マイノリティを形成しています。私は、彼らがチェコに新たな家を発見した事実をうれしく思っています。さらに、何千の若者が、チェコの大学で勉強しています。これは、両国の将来の協力にとって、特に効果的なことだと思います。

過去数日、チェコ政府は、ウクライナ国民の労働者受入数の拡大を決定しました。現在は、2万人ですが、これが2倍になるかもしれません。この2016年に開始された「ウクライナ・プログラム」は、どの程度効果的に運用されているのでしょうか。

チェコ経済が着実に成長している中、労働市場では、国内の労働力だけでは担いきれない、能力のある労働者への需要が高まっています。これにより、能力とやる気のあるウクライナ労働者にとって、彼らがチェコの(一般的に高度技術を要する)様々な企業での経験を得る機会が生じています。現在運用されている、促進プログラムは、個性的であり、うまくいっています。このプログラムは、ウクライナの求職者が労働のための居住許可(いわゆる労働カード)を得るための申請書を提出できる仕組みです。現在は、2万1千人のウクライナ人に適用されていますが、チェコ政府は、これを年間4万人に拡大することを検討しています。ただ、最終的決定はまだ採択されていません。

オリハ・タナシーチューク ウクルインフォルム

写真:Úřad vlády ČR, ČTK/Šulová Kateřina

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