決選投票:ウクライナの将来は二人の候補者への支持だけでは決まらない

決選投票:ウクライナの将来は二人の候補者への支持だけでは決まらない

ウクルインフォルム
現在の「非典型的」大統領選挙レースの流れがその他の政治プロセスにどのように影響を与えるか分析しよう。とりわけ、秋の最高会議(国会)選挙への影響を。

大統領選挙の第一回投票と決選投票の間という、あらゆる点で難しいこの期間は、社会に多くの疑問を投げかけている。私たちはその回答を4月21日以降に聞けることを期待しているが、しかし、それまでにも回答可能な疑問もある。ウクライナの将来に関わる疑問の中のいくつかにつき、ウクルインフォルムは自問し、また専門家にも尋ねてみた。

1.どうしてティモシェンコ候補は、いとも簡単に第一回投票の結果を「飲み込んだ」のか。

主要3候補の一人であったユリヤ・ティモシェンコ候補が、第一回投票の結果に対して、かなり落ち着いた反応を示したことに多くの政治分析家が驚いていた。なぜなら、ティモシェンコ候補は、第一回投票の数日前には支持者の一票一票を守り抜いて「最後まで闘う」という確固たる意志を表明していたからである。しかし、別の候補者が決選投票に進むことが判明すると、ティモシェンコ候補は、特別な悲哀を見せることもなく、次の段階としての秋の最高会議選挙参加に集中することを発表したのである。さらに、彼女は、決選投票に進む候補について、支持も批判もしないという、引きの立場を取っているのである。

政治学者のミコラ・ダヴィデューク氏は、「もちろん、状況が違えば、ティモシェンコ氏は、対抗者を少し攻撃したでしょう(それでも結果は出なかったでしょうが)」と述べる。「しかし、彼女の説得にあたったコンサルタントたちの、現状は激しい行動を取らないほうが良いとの忠言は、私は正しかったと思います。なぜなら、ティモシェンコ氏は、議会選挙での勝利を夢見ており、首相になりたがっており、憲法すら変えたいと考えているのですから…。大統領選挙でどちらの候補が勝つかは、関係ないのです。むしろ、今は、彼女にとって、現在ゼレンシキー候補とポロシェンコ候補の間で先鋭化している致命的な選挙戦を避けられており、彼らより先に議会選挙に向けて行動できるチャンスなわけです」。

ヴィタリー・バーラ氏
ヴィタリー・バーラ氏

状況シミュレーション・エージェンシーのヴィタリー・バーラ代表もまた、ティモシェンコ氏の行動は全く正しいと指摘する。同代表は、ティモシェンコ氏には状況をかき乱す必要がなく、平穏にしている方が支持が高まると述べ、その理由として、現在の決選投票を巡る二人の候補者の行動は他者の支持を高めるものだからだと説明した。同代表は、「ティモシェンコ氏が第一回投票を巡る状況に介入しようとしたり、些細な違反行為を探そうとしていたら、支持低下を招いたでしょう。なぜなら、選挙を監視したほぼ全ての国内機関・国際機関が、今回の投票をウクライナ史上最良のものの一つであったと認定していたからです。ネガティブな要素を探すことに意味はありませんでした」と指摘した。また、ティモシェンコ氏がゼレンシキー候補からの討論会の司会者役の提案を無視したことも「相当バランスの取れた行動であった」と指摘された。

バーラ代表は、決戦投票に向けた現在の極めて緊張した状況も他候補に有利に働く可能性があると指摘した。同代表は、「今年の選挙のノウハウとして、特に、候補者間の動画メッセージのやり取りは、ゼレンシキー候補にもポロシェンコ候補にも有利となっていない点だと思います。そこから利益を得ているのは、今後最高会議へ向かうティモシェンコ氏でしょう」とコメントした。

2.他の大統領選候補は第一回投票の結果をどう利用するのか。

現在の「非伝統的」選挙キャンペーンの弱点は、議会選挙に向け他の政治勢力も利用するチャンスがある。彼らにとっては、自らの支持層を固められるだけでなく、現在の闘いに疲れた人々から、ゼレンシキー候補とポロシェンコ候補の支持も近い将来奪えるかもしれない。大統領選挙後、勝者(新大統領)は「四面楚歌」の状況に陥るリスクがある。

同時に、政治学者たちは、第一回戦投票で去った候補たちの皆が、現状を利用しようと考えているわけではないと指摘する。一部の政治家は、自らの得た支持を他候補に譲ることで、別の利益やメディア影響力や金銭と交換したりするだろうと述べる。ミコラ・ダヴィドューク氏は、「もちろん、有権者は、彼らの票を他者と交換するような候補者に復讐するでしょうし、今後支持することはないでしょう。しかし、政治家それぞれに自らの目的と理屈があるのです…」と指摘した。

ミコラ・ダヴィデューク氏
ミコラ・ダヴィデューク氏

他方で、最高会議での議席獲得を目指す政治家たちは、すでに準備を始めるべきであろう。ただし、向こう数週間は公の場で何かをしても、大統領選の闘いに掻き消されてしまう。一方で、政治勢力が今秋に向けた準備活動を始めても、この期間は誰にも邪魔されることはない。バーラ氏は、「自らの核となる支持者層がいない人物(例えば、イーホル・スメシュコ元保安庁長官である)にとっては、現在、日夜問わず活動すべきです。3月31日に得た支持を、秋の最高会議選挙にも得るためです。逆に、もし腕を組んで、より支持のある政治家との談合をしようとすれば、その支持は失われ、有権者はより活発な政治家のもとへ行ってしまうでしょう」とコメントした。

3.新しい大統領の下で、どのような変化が最高会議に起こりうるか。

4月8日には、最高会議に、「ゼレンシキー支持」の新しい超党派グループが誕生することが発表された。発表したのは、大統領選挙に出馬していた、最高会議議員のヴィタリー・クプリー氏である。同議員によれば、同グループには、すでに「何人かの議員が参加している」というが、その名前の発表は同議員は断った。

バーラ氏は、「潜在的な新大統領をはじめ、影響力のある政治家を中心に議員が集まるというのは、全く自然なことです」と説明する。同氏は、ゼレンシキー候補が決選投票で勝とうが負けようが、同候補は最高会議に強力な議員会派を有す大きなチャンスがあり、最高会議議員の間で、現在の議席を維持するために、ゼレンシキー氏への忠誠を示して、機会を利用したいと思っている者は多いだろうと指摘した。小選挙区出身の議員や、現在所属の政党では比例選挙で当選できないと考えている議員は、ゼレンシキー候補が所属する「人民奉仕者党」の比例名簿に名前を載せることを考えているだろうとのこと。同時に、バーラ氏は、そのような議員の数は、ゼレンシキー氏が大統領となるかどうかに左右されるだろうと指摘した。クプリー議員は、ゼレンシキー氏が大統領に当選したら、議会内支持者の数は著しく増加し、彼らが現在の与党連合の代わって新しい与党連合の核となる可能性もあると指摘した。

政治学者のダヴィデューク氏は、今後のウクライナの情勢の展開は、新大統領の就任直後の状況にかかっていると指摘する。同氏によれば、ゼレンシキー氏が勝利し、(クプリー議員の言うとおりに)最高会議でゼレンシキー新大統領支持の勢力がすぐに新しい与党連合を形成し、組閣ができれば、「政権集中」が加速するであろうとのこと。他方で、ゼレンシキー政権がそれを就任直後に実現できなければ、秋の最高会議選挙まで待たなければいけない。それは、ポロシェンコ候補にも言えることであり、現在のフロイスマン内閣が残るか残らないかで、同候補の今後の行動は変わってくる。

ウクライナを混乱させないために考えよう

現在の選挙キャンペーンの動向を分析する専門家たちは、現在、かつてないほどに、政治家の公約が偶発的(あるいは意図的に)、修正不可能な損傷を国に与えるリスクが高まっていると指摘する。ダヴィデューク氏は、「現在の決選投票に進んでいる両候補者による、他者を縛り付けるような選挙キャンペーンのトーンと形式は、選挙後に不安定化と予想外の出来事を発生させる可能性を高めています。候補者たちは、過ちを自覚し、緊張の温度を下げるべきです。少なくとも、『一線』を越えてはならないことは覚えておくべきです。そうでなければ、混乱が生じ得ます」と警告する。ただし、そのようなシナリオが起こるリスクは、第一回投票と決選投票の間の期間だけとは限らず、大統領選挙後と最高会議選挙までの期間もあり得るし、もしかしたら最高会議選挙後の方がより危険かもしれない。

そのような状況を予防するためには、政治学者たちは、向こう数か月、国家機構を強固にし、重要改革を逆戻りしないようにすることが重要だと指摘する。例えば、どんなことがあっても、これまでに達成した、脱共産主義や非中央集権化を無効化しようとしたり、汚職対策機関の機構を変更しようとしたりする試みを看過してはならない。実際、個別の法律を廃止しようとする誘惑はすでに存在する。ダヴィデューク氏は、「ですから、決選投票前や議会選挙前の困難な時期であっても、国家にとって原則的な方向性を確定する憲法改正等の動きを止めないことです(編集注:ただし、そのような改正を実現できる可能性は小さいだろうが)。そのような行動が国家の安定を保証するのです」と指摘した。いうまでもなく、ウクライナ憲法上で、国家にとって運命を決める項目、欧州統合・欧州大西洋統合の項目を(議会の3分の2の票で)改正させないことは重要であろう。

ウラディスラウ・オブーフ、キーウ(キエフ)


Let’s get started read our news at facebook messenger > > > Click here for subscribe

トピック

ウクルインフォルム

インターネット上の全ての掲載物の引用・使用に際しては、検索システムに対してオープンであり、ukrinform.jpの第一段落より上部へのハイパーリンクが義務付けてられています。また、外国報道機関の記事の翻訳を引用する場合は、ukrinform.jp及びその外国報道機関のウェブサイトにハイパーリンクを貼り付ける場合のみ可能です。「宣伝」のマークあるいは免責事項のある記事については、該当記事は1996年7月3日付第270/96-BPウクライナ法「宣伝」法第9条3項及び2023年3月31日付第2849ー9ウクライナ法「メディア」の該当部分に従った上で、合意/会計を根拠に掲載されています。

© 2015-2024 Ukrinform. All rights reserved.

Website design Studio Laconica

詳細検索詳細検索を隠す
期間別:
-