ロシアは今もノルド・ストリーム2建設再開を試みている

ロシアは今もノルド・ストリーム2建設再開を試みている

ウクルインフォルム
米国の制裁が、独露新天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の運命を握っている。

米議会には、新しい法案が大規模で複雑な場合、その法案を上下院で同時に審議する、という手法が取られる。各版の間の技術的差異が投票にて取り除かれると、両院の案の調整が行われ、署名のために大統領へ提出するための最終版の確定が行われる。

2021年会計年度の国防権限法(NDAA)案作業は、そのような手順を取っている。同法案は、独露新天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」への制裁の拡大を含んでいる。同法案はまだ大統領に署名されていないが、ロシアの報道機関は、同法案の文言調整の段階ですでに真剣なヒステリーを起こしており、彼らは今から次の米国の制裁の話をしている。この法案が発効の前からこれほどまでにロシアを恐れさせているのであれば、それが発効してしまうとクレムリンは一体どうなってしまうのだろう。

必要なタイミングでのヒステリー

米国の国防権限法案には、しばしば地球上の様々な場所における米国の国益保護に関する項目が含まれる。例えば、欧州における米国軍のプレゼンス強化、他国の安全保障のための支援拠出、ロシア連邦の侵略抑制措置や、ウクライナを迂回するガスパイプラインに対する制裁を含む諸措置である。

現在の案は4500ページからなっており、採択に向けた立法府の人々の作業量を想像してもらいたい。国防権限法の作業は、しばしば1年を通じて行われる。

トルコ・ストリーム
トルコ・ストリーム

ロシアのノルド・ストリーム2に対する新しい制裁の他、トルコ・ストリームにも制裁が想定されていることが今年の7月に判明している。今後の動きは、今月中に米下院での確定(編集注:下院では、12月8日に可決された)、それから上院となる。二つの案の調整手続き中に、対露制裁項目がどこかに消えることになるとは考えにくい。

つまり、この話は、長らく聞くに値するものなのだが、論理的帰結、すなわちトランプ大統領の署名はまだ迎えていないのだ。しかし、ロシア・プロパガンダは、立法上の現段階を、今回のヒステリーのタイミングとして利用することに決めたようである。では、どうしてこのタイミングなのだろうか。

機能しない代替

国防権限法案の米国の制裁は、正式にはまだ発効していないのだが、実質的にはノルド・ストリーム2の敷設作業を麻痺させており、また利用に向けた引き渡しのプロセスも止めている。米国防予算の小さな項目が120以上の外国企業にとって深刻な制限の脅威をもたらしているのだ。これら企業は、たとえロシアの国庫から大金が入るのだとしても、世界のエネルギービジネスにおける自らの権威を失いたくないと思っている。制裁は、バルト海海底に残り140キロメートルのパイプライン敷設を止めているだけでなく、さらにパイプラインの証明書や保険の発行も止めている。それらがなければ、このパイプラインの稼働はできない。

しかし、クレムリンは、何十億プロジェクトをあきらめたくはないようであり、同国は、最大限の努力を持って「ノルド・ストリーム2には展望がある」という幻想を生み出そうとしている。ロシアは、そのために極東からバルト海にパイプライン敷設船「学者チェルスキー」を呼び寄せており、敷設船「フォルトゥナ」やその他の支援用の船も活動している。クレムリンは、昨年採択された米国の国防権限法により定められた同国の立場を受けてロシアとの契約を破棄したスイス・オランダ系企業のALLSEASの「輸入代替」となるのは、これら船だと思っているようだ。ただし、これらロシアの船が、パイプライン利用に必要な証明書を得られるか、という問題は未解決のままである。

学者チェルスキー
敷設船「学者チェルスキー」

ロシア側は、12月5日から敷設作業が再開すると述べており、水深25メートル未満の地点の2.6キロの浅瀬にて作業をするという。彼らは、それは制裁対象外であり、制裁対象は水深30メートル以上の地点だという。しかし、その点には疑問が2つある。

第一に、浅瀬での作業であろうと、ノルド・ストリーム2プロジェクトそのものの推進を対象とする制裁に該当するリスクは、存在し続ける。第二に、パイプラインを完成させるには、はるかに長い140キロメートルのより水深の深い地点での敷設作業が残っている。

そのため、「チェルスキー」も「フォルトゥナ」も、12月5日の宣言上の作業開始日となっても、何日もバルト海をぐるぐると動き回っているだけなのだが、それはおかしなことではない。ロシアの喧伝機関でさえも、その点については明白な説明ができていない。

プロジェクトが救われない理由

言うまでもなく、ロシアは、ノルド・ストリーム2のプロパガンダ作戦を今始めたのは偶然ではない。米国では、大統領だけでなく、議会の一部も入れ替わっている。現在、トランプ氏が選挙結果を認めず、政権交代プロセスに障害をもたらしている中、米国政界は、国内情勢の安定化のために力を注いでいるのだ。

しかし、いずれにしても、クレムリンの計画は機能しない。それには3つの理由がある。

何よりまず、現在の米国政権は、ノルド・ストリーム2に一貫して反対してきており、急激な立場の変化を期待するのは無駄である。ポンペオ国務長官は、公式声明や議会の公聴会にて繰り返し、ロシアのガスパイプラインは、欧州エネルギー安全保障に脅威をもたらすと強調してきた。また、トランプ政権は、米国産LNGガスの欧州市場でのシェア拡大の意図を隠していない。この商業要因は、ロシアのプロジェクトに対する追加的なテコであると同時に、ウクライナの国益にも完全に適ったものとなっている。

二つ目のクレムリン敗北の理由は、バイデン・チームの見解にある。国務長官候補に指名されたアンソニー・ブリンケン氏は、1987年時点、『同盟対同盟、米国、欧州、シベリアのパイプライン危機』(Ally versus Ally: America, Europe an the Siberian Pipeline Crisis)という本を書いている。若い無名の著者が見ていた当時のジレンマは、現在のノルド・ストリーム2を巡る状況と非常に似ている。1980年代末、現在と同様、レーガン米大統領政権は、ソ連のシベリアからのパイプラインの敷設を諦めるよう、欧州に大きな圧力をかけていた。当時も現在と同様に、米国と欧州の外政の間に、痛みを伴った見解相違があったのだ。

ブリンケン氏は、当時、欧州にとってソ連のガスパイプラインを利用することは、エネルギー供給源の多様化の手段と見なされているが、米国ではそのパイプラインは(資金調達)スキームだと受け止めており、最終的にはソ連の軍事システムへの資金投入となるものだと考えられていることを明確に指摘している。そして、状況は当時からさほど変わっていない。

そして、三つ目の理由だ。ロシアが米国の制裁圧力を弱めることができない理由は、ホワイトハウスを指揮するのが誰であるかと関係なく米国は制限措置をかけるであろうことである。米国議会は、本件につき、民主党・共和党の双方が非常に強力な見解を持っており、大統領が拒否権を下そうが覆すことができるほどの支持票数があるのだ。

外交的例外

国防権限法(NDAA)の調整終了後の版で、ノルド・ストリーム2参加国に対する制裁の項目に、ノルウェー、スイス、英国、欧州連合(EU)加盟国は、例外となっている。しかし、それは、これらの国がロシアのプロジェクトと協力しても罰されないことは意味しないし、各国もそれはよく理解している。同法案は、制裁発動決定の前に、米国政権にこれらの国とは協議をする権限を与えている。つまり、これはむしろ、同盟国に対する「予防的敬意の表明」とでも呼べるものであり、脅迫ではなく、外交的言語にて接す、という意味なのだ。

クレムリンは、米国の制裁、とりわけ米議会の科す制裁というものは、極めて深刻なものであり、長期的影響をもたらすものであることを認識すべきである。立法府によって制限が科される場合、それは大統領令による制裁と異なり、毎年延長をする必要のないものとなる。NDAA−2021が年内に可決される際には、米国新政権のウクライナを迂回するガスパイプラインへの態度について、ロシアが期待を抱くべきでないことが明確となるのだ。

ヤロスラウ・ドウホポル/ワシントン特派員


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