ペーター・ランフストラートMH17撃墜事件遺族弁護士
その事件は第二次世界大戦終了後、オランダの民間人に対する最大の攻撃だった
09.07.2021 12:48

オランダで続く2014年7月のマレーシア航空機MH17便撃墜事件裁判は、6月7日から内容面の審理に移行している。公判では、地対空ミサイル「ブーク」の写真や動画が見せられ、裁判官は、ブークを見た匿名の証言者による証言を読み上げ、また通信傍受した4名の被告、イーゴリ・ギルキン(ロシア国籍)、セルゲイ・ドゥビンスキー(ロシア国籍)、オレグ・プラートフ(ロシア国籍)、レオニード・ハルチェンコ(ウクライナ国籍)の電話のやりとりも公開や、2014年夏のロシア領からウクライナ領国境隣接地域への火砲による砲撃についての説明がされている。

執筆・写真:イリーナ・ドラボク(ハーグ)

MH17刑事裁判は、6万5000ページからなる資料で構成されている。弁護士たちは、その裁判資料にアクセス権があり、事前に詳細な分析を行なっている。他方で、アクセス権のないMH17の犠牲者遺族は、公判の際に多くの新事実を知ることとなった。彼らにとって、オランダ・ヒルフェルスムの軍事基地における298名の犠牲者遺体の特定手続きや、遺体の検死時に体内からミサイルの破片が発見されたという情報は、感情を掻き立てるものであり、受け止めるのが非常に困難に見えた。

ウクルインフォルムは、6月、遺族の弁護士を務めるペーター・ランフストラート氏と話をした。同氏は、MH17事件に2014年9月から携わっている。彼の事務所はロッテルダムにあり、2つの机は、様々な書類と事件捜査の資料で埋まっていた。

事件の秘匿扱い資料

ペーターさん、内容面の審理に入った同裁判ですが、あなたの第一印象はどのようなものですか。公開された情報の中に新しいもの、初めて公開された衝撃な情報はありましたか。

私たちにとっては、公開された情報は大きなニュースではありませんでした。しかし、遺族にとっては、しばしば感情の面から、厳しいものがあったでしょう。特に、遺体の中の金属破片の話がありましたし、機体撃墜現場の映像も目にしました。

最初の審理4日間で、最も印象に残ったことはなんですか。あなたは6万5000ページの資料を全て把握していますか。

何よりまず、最も印象的だったのは、裁判側が6万5000ページからなる事件を総括してみせたことです。あれは素晴らしい総括でした。ああいう情報をわかる形にするというのは、非常に大きなプラスです。本件には、一部非常に複雑な部分がありますから。その中で、彼らは、遺族や関係者にとって相当わかりやすい形にしてほぼ全てのことを説明してみせました。ただ、私たちにとっては、新しいことは何も発表されませんでした。私たちは事件資料を把握しています。

あなたはMH17事件の6万5000ページの資料全てにアクセスがあるのですか。

あります。私たちは、秘匿扱いされていた事件資料を受け取っています。私たちは、受け取った資料をクライアントである遺族と共有することはできませんでしたが、その資料の概要については議論することができました。つまり、私たちにとっては新しいことは何もなかったのですが、遺族には、それはありました。遺体特定手続きなど、いくつかのものは、非常に印象的なものでした。

あなたには、MH17に乗っていた人物(犠牲者)の中に知り合いがいましたか。

いいえ、私はその時同機に乗っていた人物は誰も知りません。ただし、その事件は第二次世界大戦終了後、オランダの民間人に対する最大の攻撃でした。私を含め、誰もが、誰かの知り合いといった形でこの悲劇における「誰か」を知っているのです。そしてそれがオランダ社会全体に広まっているのです。しかし、私個人は、誰も知りません。それによって、私は自分の仕事をやりやすくなっているのです。なぜなら、もしあなたがこの悲劇に関係する人を直接知っていたら、例えば、友人か親族を失っていたら、あなたは非常に強く感情に突き動かされていたでしょう。そして、それはあらゆることを複雑にします。なぜなら、あなたは、弁護士としては、明快な頭を保つために常に手を伸ばせるだけの距離に立っていないといけないのですから。例えば、私が座っているこの椅子は、私のクライアントの一人が座っていたものですが、彼は、息子だけでなく、家族全員を失っています。彼のようなクライアントと話しをする時は、もちろん、感情で満たされます。

しかし、公判時も、あなたの顔や他の弁護士の顔には、感情があらわれているようでした。

そうですね。なぜなら、あなたもその公判の雰囲気を知っているでしょう。私は、今年9月、3週間にわたって、MH17犠牲者の遺族90人が発言をする際には、公判は特に強烈で感情的なものとなると思っています。それは本当に、私たちにとってさえも、困難なものとなるでしょう。場合によっては、自らの感情を抑えなければならなくなることもあるかもしれませんし、それはいつでも簡単にできるわけではありません。しかし、それが私たちの仕事の一部です。私は32年この仕事をしていますし、いくらか鍛えられています。誰かが動けなくなったり、死んだりする、物理的、倫理的被害をもたらした深刻な裁判であれば、強い感情は常に生じるものですし、その中であなたは遺族と話をするのです。しかし、MH17裁判は、非常に特別です。なぜなら、298名もの人が亡くなったのですから。他の事件とは比較できません。

通信機付きメット

ブークの操縦者について知っていますか。操縦者が誰であったかについての捜査はあるのでしょうか。彼らは裁かれるのでしょうか。

捜査は継続しています。検察がそのように発表しています。しかし、捜査が長引けば長引くほど、その人物たちの起訴の可能性は小さくなります。証言者から私たちが知っていることは、彼らはロシア軍人に典型的な通信機付きメットをかぶっていたことで、ある者の話では、彼らはモスクワ・アクセントで話をしていたと言います。

スキポール裁判コンプレクスでは、MH17事件の4名の被告人についての審理が続いています。しかしながら、事件に関与した別の人物の名前もしばしば上がってきます。他の人物、具体的には、直接ミサイル発射ボタンを押したり、命令を下したりした人物に関する裁判も行われるのでしょうか。

新たな容疑者がオランダの裁判所に起訴される兆候はありません。そのことには非常に落胆させられています。ボタンを押したのは誰か? ロシアの軍人か? 彼らを誰が派遣したのか? 彼らへの命令はどのようなものだったのか? 誤射だったのか? 誤射だとしたら、どうして誤射が生じたのか? さまざまな質問があります。そして、もちろん、遺族はその質問の回答を得たがっていますし、得られれば素晴らしいことです。しかし、長引けば長引くほど、それに直接関わった人物たちをオランダの裁判で起訴できる可能性は小さくなります。

あなたは、それが誤射だったと思いますか。

公開された通信記録をはじめとする断片的情報によれば、私たちは、それが最悪の誤ちであったと考えることが可能です。

プラートフ被告人の弁護士

4人の被告人の内の1人、オレグ・プラートフ被告を代表するオランダの弁護士について、あなたはどう思っていますか。彼らは、事件資料へのアクセスを得るために本件に参加しています。ロシアは、彼らを通じて本件にアクセスしているのでしょうか。

私たちは、彼らの間でどのようなやりとりが行われているのか知りません。彼らはプラートフ氏を代表している、私たちの知っているのはそれが全てです。しかし、プラートフ氏のファイルのどの部分がロシア政権関係者に渡ったのかは、私たちは知りません。本件を巡っては、色々な憶測が出ています。しかし、私たちも遺族との間の本件について議論しましたが、私たちは彼ら(被告弁護士)が裁判にいることを嬉しく思っています。なぜなら、彼らがいない場合の裁判というのを想像してみてください。現在、裁判には適役がいて、多くの細部があり、私たちは、彼らが行なっていることの一つ一つのアクセントに注目しています。一方では、遺族はその弁護士に対してしばしば怒りを抱いています。なぜなら、彼らは公判を長引かせ、無意味な要求を提出していますから。それは、ある種の苛立ちを呼び起こしています。しかし、他方で、彼らは「私たちは、あなたたちがここにいることを嬉しく思っています。なぜなら、現在裁判は不完全であり、被告人は出廷していないけれど、それでも完全なプロセスに近い形にはなっているのですから」と言うのです。

あなたも、プラートフ被告の弁護士になる可能性はありましたか。

私には、それは不可能です。なぜなら、私は、刑事の弁護士ではないので、関連の経験と知識がありませんから。私は、賠償金に関する事件、物理・倫理の被害に関する問題の弁護士です。それが、私たちのチームに別途刑事の弁護士の参加を求めた理由の一つです。なぜなら、彼らには刑法の知識がありますから。つまり、私にはそれ(被告の弁護士)にはなり得なかった、ということです。率直に言えば、仮にあなたがオランダの刑事の弁護士だったとして、遺族や犠牲者関係者と一切の関係がなかったとして、その場合は、この事件は大きく、話題となるものであり、あなたは毎日注目の的となりますが、しかし、あなたの過ちの一つ一つがカメラに映されることにもなります。そのため、それは彼らにとって大きな責任なのです。

欧州人権裁判所は今年の11月に審理入り

MH17事件被害者遺族は、欧州人権裁判所に対しても、ロシアの人権侵害につき同国を訴えました。同裁判所の審理入りはいつでしょうか。

欧州人権裁判所の審理は、2021年11月24日に延期されました。ただし、それはウクライナとオランダの対ロシア裁判を統合したものとなっており、公式な法的問題を定めるもの、主に(事件が)審理対象となるかどうかについてだけを扱います。

欧州人権裁判所が内容面の審理を行わないというリスクがあるのですか? あるいは裁判所が、まずはロシアへ行かねばならない、なぜなら手続き上、国家を訴える場合は、まずその国で司法手続きが終わらないといけない、と言う可能性もありますか。

訴訟の受け入れ条件として、「国内法的手段の徹底的検討」というルールがあり、それによる一定のリスクはあります。しかしながら、ロシアでは、ロシア連邦自身を裁くことができません。つまり、ロシアではこのような事件について自国政府を相手に判決を下せる裁判官はまずいない、というのがより実践的で現実的な状況です。加えて、もう一つの重要な点は、ロシアの弁護士は誰一人として、ロシア政府を相手に手続きを始めたがらない、ということです。

この事件におけるウクライナの役割をどのように評価していますか。

この事件が、ウクライナが上空を閉鎖していなかったから起きたと言う者もいます。遺族の中にも、その点を不満に思っている人はいます。しかしながら、オランダ議会が主導した最近の調査では、そのような結論は導かれませんでした

MH17事件審理には何人の弁護士が参加しているのですか。スキポール裁判コンプレクスには何人で、欧州人権裁判所には何人なのでしょう。

賠償関係の弁護士が6人、刑事問題に関する弁護士が2人です。欧州人権裁判所の手続きのためには、賠償問題を扱っている者1人と、人権分野に特化した他の弁護士3人で構成されています。

スキポール裁判コンプレクスでの裁判プロセスををどのように評価していますか。審理は何年続くのでしょうか。あなたは、ボタンを押した人物、命令を出した人物や、プーチンに対する裁判も行われると思っていますか。あなたは、誰がウクライナへの「ブーク」移送の責任を追っていると思いますか。

すでに述べたように、刑事の判決は、おそらく、来年の春には下されるでしょう。ブークのミサイルを発射した人物が起訴されるとは思っていません。あらゆる証拠は一つの方向性を示しています。すなわち、「ロシア連邦がブークのミサイルと必要な軍人をウクライナ東部の分離主義者の元へ送った」ということです。

あなたは、4人の被告の判決はいつ出る可能性があると思っていますか。

私は、2022年3〜6月頃に出ると見ています。

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